互いにとって大切な民主化
「私は台湾の官僚とも会う機会が多いのですが、『20年前に新婚旅行でプラハに行きました。一人目の子供は新婚旅行の授かりものです』などと言われます」という彼の話からも、台湾とチェコのつながりの長いことが感じられる。
1993年にチェコの経済文化弁事処(在外公館)が台湾に設立されて以来、30年以上にわたる両国の結びつきは「堅固」と形容するにふさわしい。シュタインケ氏は「台湾とチェコの結びつきは、新しいものではなく、一時の流行のように不安定なものでもありません。この協力関係は1本の明確な軌跡を描いて続くもので、各方面でも発展を深めています」と形容する。
現在、チェコ政府は台湾をアジアの「優先パートナー」と位置づけ、各分野での交流も近年ますます盛んだ。外交関係の正式な雪解けは、新型コロナウイルス流行前の2018年に、プラハが台北市と姉妹都市関係を結んだことに遡る。2020年にはチェコのミロシュ・ビストルチル上院議長及びプラハのズデニェク・フジブ市長率いる90名の代表団が台湾を訪問し、翌年にはこれに応じる形で台湾から龔明鑫・国家発展委員会主任委員(大臣に相当)がチェコを訪問した。
2023年には再び、チェコ下院議長のマルケータ・ペカロヴァ・アダモヴァ氏が訪問団を率いて来台。政府、産業界、学術界、教育界の代表者を含む160名以上の訪問で、台湾とチェコにとって過去最大規模のものとなった。
民間の交流も活発だ。チェコは台湾人に人気の新婚旅行先だし、実業家の郭台銘氏は鴻海科技グループ(フォックスコン)の欧州本部をチェコに置いたり、巨額を投じてチェコの古城を購入したりもしている。フランツ・カフカ、ミラン・クンデラ、ボフミル・フラバルといったチェコの作家の作品は文学愛好家にとっては必読だし、台湾の歌手ジョリン・ツァイ(蔡依林)は「布拉格(プラハ)広場」を歌って大ヒットさせた。ほかにも、テニス選手の謝淑薇はチェコのバルボラ・ストリコバと何度も女子ダブルスを組み、ウィンブルドンで優勝を重ねている。またチェコの翻訳家のパヴリーナ・クラムスカーとイラストレーターのトマーシュ・ジーゼックは台湾で麋鹿(Mi:Lu)出版社を設立し、台湾文学をチェコ語に翻訳して出版している。
このように、台湾とチェコは地理的に遠く離れ、文化背景も大きく異なるにも関わらず、友情の手を差し伸べ合っていると言えよう。
とはいえ、なぜ台湾とチェコなのか。その重要な要素は、歴史的背景と民主主義体制における類似性だ。「台湾とチェコはほぼ同時期に民主化しました」とシュタインケ氏は指摘する。台湾は1980年代に党外運動(一党独裁体制下での民主化運動)と戒厳令解除を経験した後、1996年に初の総統直接選挙を実施した。一方、チェコ共和国(当時はチェコスロバキア)は1989年のビロード革命を経て民主国家へと変貌し、1990年に初の民主選挙を実施している。
シュタインケ氏は、外国人が「チェコの魂を理解できる書籍」のリストを作っているが、その一つが、ヴァーツラフ・ハヴェル元チェコ大統領が著した『力なき者たちの力』だ。チェコ初の民選大統領であるハヴェル氏は民主化運動の推進に尽力した。ハヴェル氏と台湾初の民選総統である李登輝氏は似たような経歴と理想を持っていたため、非常に良好な関係だった。
「台湾人もチェコ人も、独裁政治から民主化への移行を記憶しています。だから今持っているものの大切さを知っています。自由や民主は天から降ってくるものではなく、一人一人が努力してこそ得られるものだと。これもまた両国を固く結びつけている理由なのです」とシュタインケ氏は熱く語った。
交流の現況
新たな章を迎えたと言える台湾とチェコの関係は、官民ともに活発化している。
昨年は、ウクライナの浄水施設、ガスと電力のコージェネレーションシステム、ウクライナ東部の医療システムなどの復興を支援するための協力覚書を数多く締結した。
世界が台湾の半導体産業に熱い視線を注ぐ中、台湾とチェコも政府間協力を多く実施し始めている。例えば、チェコ第2の都市ブルノに今年設立される最先端半導体研究センターなどだ。
昨年(2023年)7月、長年の交渉を経てチャイナエアラインは台北・プラハ間の直行便就航を発表、今年は1周年となる。この件の仲介に尽力したシュタインケ氏の喜びはひとしおだ。チェコ経済文化弁事処はこれを祝うため、プラハ生まれのカフカの生誕日7月3日に合わせて盛大な文化イベントを開催する。「多くのチェコの作家についての情報を台湾に届けたいです。特にカフカを台湾の若い人たちに紹介したい」と言う。今年10月の台北国際芸術博覧会(ART TAIPEI)でも、チェコ・パビリオンが設置される。
さらに、チェコの国立博物館は、台湾の国立故宮博物院並びに国立台湾博物館と早くから姉妹関係を結んでおり、今年度は国立台湾博物館でチェコの城に関する特別展を開催する。シュタインケ氏は、故宮博物院所蔵の国宝級文化財をチェコの国立博物館で展示できるよう積極的に協議している。「チェコだけでなく近隣の中欧諸国からの来訪者にも宝物を見てもらえますから」
シュタインケ氏は半ば冗談めかしてこう言った。仕事の大半は忙しくてつまらないが、象山近くにある自宅のベランダには毎日同じ小鳥のつがいが優雅に歌う姿がある。「どんなに理性的に考えても、不思議なことだと思います。これまでずっと幸運なのも、あの鳥たちが運んでくれた幸運かもしれません」
彼の積極的な働きかけにより、台湾とチェコの関係に今後もさらに多くの「幸運なこと」が起きると期待できよう。