
繊維産業と漁業には何の縁もゆかりもないように見える。だが、養殖漁業と繊維産業の盛んな台南では、紡織メーカーの三代目が、容易に手に入るサバヒー(虱目魚)の鱗から、バイオ技術を用いて「コラーゲンペプチド」を抽出してバイオニック繊維を造り、ファッション衣料に用いている。まさに農業イノベーションの手本であり、従来型産業に新たな市場を切り開いている。
「シンプルな考えで始めたのです。会社のために新たな価値を生み出し、漁業者の収入が増えればと思いました」と話すのは博祥国際の総経理・侯二仁だ。
台南幇と呼ばれる地元企業グループの三代目に当たる彼は、繊維産業のトップ企業である「台南紡織」と縁が深い。大学から大学院までバイオテクノロジーを学び、起業時には台湾大学で漁業科学の博士課程に在籍しており、ごく自然に漁業と繊維産業を結び付けていた。以前はまったく経済的価値がないとされていた魚の鱗を、独自の技術で質感と機能性を具えた「UMORFIL十年をかけた台湾生まれの繊維
原料から紡績、織布、染色、仕上げ、そして縫製まで、衣料の背後には完全な産業チェーンがあり、川上から川下まで緊密につながっている。
紡績を研究する侯二仁は繊維産業の川上に位置し、UMORFILは産業全体を動かす大きなビジネスチャンスを握っている。「自社の売上は年間2〜3億元ですが、川下の布地になると価格は10倍、さらに既製服は布地の5〜10倍です。合計すると年間十数億の生産高になります」と言う。UMORFILの顧客は台湾国内だけでなく、海外のファッションブランドも名を連ねている。
だが、繊維業界では誰もが知っていることだが、新しい繊維を開発するには長い年月がかかる。侯二仁もブランド確立から今日の成功に至るまで、十年の歳月をかけてきた。
創業当初、まだ台湾大学漁業科学研究科に在籍していた彼は、日本企業がサメからコラーゲンを抽出して食品原料にしているのを知り、そこからアイディアが生まれた。侯二仁はコラーゲンを繊維産業に活かすことを考えたのである。台南出身であることから、台南で大量に養殖されているサバヒー(虱目魚)に目を付け、漁業者からその魚鱗を買い取り、コラーゲンペプチドの抽出に成功した。今では毎月10〜20トンの魚鱗を使用しており、サバヒーだけでなく大量に養殖されているティラピアの鱗を使う他、さらに海外から輸入もしている。
原料となる魚鱗の処理工程は繁雑である。まず洗浄、乾燥、粉砕した後、酵素を加えて分解し、純化を経て小分子のアミノ酸にし、重合によってペプチドにする。さらにペプチドを他のさまざまな原料と反応させて超分子ポリマーを作るのである。このプロセスは模倣の難しい特許技術であり、UMORFILに独特の質感を与えている。

台南の業界が連携し、しばしば斜陽産業と呼ばれる繊維産業のハイテク化に取り組んでいる。
世界へ出ていく緑の繊維
繊維の中にコラーゲンペプチドアミノ酸を含有しているため、UMORFILは繊細で柔らかく、肌に馴染む。その品質の高さと機能性こそ、多くのデザイナーが好んでこの素材を指定する要因となっている。
コラーゲンペプチドアミノ酸の持つ官能基には消臭効果もあるため、汗をかいてすぐに洗濯できなくても臭いを抑えることができる。さらに含水率は16〜18%に達し、木綿の8%、ポリエステルの0.4%に比べるとその保湿効果は高く、皮膚の水分蒸発を抑えるとともに静電気防止効果もある。また、化学反応によるコラーゲンペプチドは繊維に重合しているため、塗布加工したものと異なり、洗濯を繰り返してもコラーゲンペプチドアミノ酸の活性は維持される。
国際市場に進出したUMORFILは、廃棄された食材を原料としているため、循環経済の理念にかなっており、エコロジーを重視するヨーロッパで好評を得ている。2015年にはミラノ国際博覧会に招かれて出展し、2015年と2017年にはパリの発明品展覧会で銀賞に輝いた。
年に2回パリで開催されるファッション素材見本市「プルミエール・ヴィジョン・パリ(PV)」は世界の繊維産業において重要な位置を占めるが、出展企業を厳格に選考することで知られ、出展するには未来志向であることが求められる。UMORFILが初めて出展した時はまったくの無名だったが、今では常連となって世界的な大手メーカーと対等の扱いを受けている。ここでは多くのメーカーやデザイナーと経験を分かち合い、繊維業界の最前線で台湾の実力を示している。
動物性のアミノ酸を使用していることから、2012年にはハラール認証(Halal Certification)も取得した。繊維製品としては世界で初めてのことである。世界的なファッションブランドの工場の多くがトルコにあるため、ハラール認証は中東市場の開拓にも役立つ。

繊維産業を営む一族に生まれた侯二仁は、この産業に特別な想いと使命感を抱いている。
業界内での協力関係
繊維産業は高度に細分化されているため、侯二仁は開発段階から台南の産業クラスターの優位性を活かしてきた。紡績会社や織布メーカーなどと協力し、開発した繊維を糸から生地へと変え、さまざまなテストをしてきた。
UMORFILと提携している「和明紡織」も、サバヒーの産地である台南市七股に位置する。同社は1976年に創設された織布メーカーで、紳士服やワイシャツの生地を主に生産してきた。
受託生産をメインとしているが、差別化に成功し、難易度の高い高品質のチェック地を生産しており、海外の有名ブランドからの注文を受けている。ハイエンドの市場をターゲットとしているため、綿や麻、ウール、シルクといった天然素材を主に使用しており、この点がUMORFILが強調する高品質、生分解性という点で一致する。
生地メーカーは、さまざまな糸の特性を考慮し、その組み合わせや織り方を通して糸の優れた点を生地に活かしていく。
和明紡織では、コラーゲンペプチドの糸を手にして研究を開始した。同社の荘清煉によると、この糸は柔らかく、価格が高いため、まず他の原料との組み合わせからスタートした。
始めはシルクと組み合わせてみた。UMORFILの価格は一般の糸の5倍で、これに上質のシルクを組み合わせると肌ざわりは素晴らしいが、高価になりすぎる。さらに麻やウールは肌にチクチクするため、UMORFILの柔らかな質感を出しにくい。そこで最終的に綿との組み合わせが最良ということになった。
材質の組み合わせの比率は各メーカーの独自の技術で、布地となった後は強度や安定性のテストを行なう必要がある。研究開発から製品化までには半年以上の時間がかかる。

UMORFILは循環経済の理念にかなうため、フランスのLVHMグループにおけるエコフレンドリー素材データベースに収録され、傘下のブランドで使用されている。
高機能ファブリックの付加価値
和明紡織が市場競争にさらされ、受託生産から自社ブランドへの転換を考えていた2014年、タイミングよくUMORFILが提供され、業態転換を後押しすることとなった。
「受託生産をしている繊維企業の多くが自社ブランド確立に挑んでいますが、その多くが既存の製品規格を踏襲し、質の高さと価格の安さを打ち出しています。しかし和明紡織の顧客は高級ブランドなので、低価格商品でのブランド展開はふさわしくないと考えていました」と和明紡織の三代目で、ファッションブランド「Weavism織本主義」のマネージャーを務める陳璽年は言う。
陳璽年は、Weavismのデザインコンセプトを明確に打ち出し、旅をテーマとした機能性が高い中価格帯のデザインブランドと位置付けている。このブランドの製作には、和明紡織の生産ラインだけでなく、紡糸や織布、プリントなど台南の繊維産業クラスターを活かしており、その中には当然UMORFILも入っている。
Weavismでは、商品の約5分の1にUMORFILの成分が入った布地を用いている。「合理性」を重視する陳璽年は、すべての商品について同じ材料を用いるのではなく、製品の性質によってふさわしい素材を選ぶのである。陳璽年は、コラーゲンペプチドの特色が最も活かせるのはスカーフだと考えている。サイズの制限はなく、夏には材質から来る清涼感がある。また多くの女性は首の肌のケアを忘れがちだが、コラーゲンペプチドには保湿効果もあるため、熱い屋外でもエアコンで乾燥した屋内でも役に立つ。
台南七股のシンボルであるクロツラヘラサギとサバヒーのデザインをプリントしたTシャツは、ゆったりとしたスポーツウェアで、消臭効果が最も感じられる製品だ。「多くのスポーツウェアはポリエステルを用いています。ポリエステルは水は吸収しませんが油は吸うので、長く着ていると皮脂が繊維の中に浸透し、臭うようになります。木綿にはそのような問題はありませんが、湿気によって臭います」と陳璽年は言う。それに対してWeavismの衣料は、天然素材の肌触りがあり、長く着ていても臭うことはない。
UMORFILは各界から高く評価されているが、このように市場で注目されるようになったのは時代の流れに乗ることができたからだと侯二仁は謙虚に話す。
グローバル化によって競争が激化する中、機能性繊維の高い付加価値がUMORFILブランドに多くのビジネスチャンスをもたらしている。市場は世界各地に拡大しているが、繊維産業と深い縁のある彼は、独自のノウハウを台湾に残すことにこだわっている。かつて台湾経済のテイクオフをリードした従来型産業として、新たな価値を生む競争力を持ち続けたいと考えているのである。「アメリカにはUSAコットン、オーストラリアにはテンセルがあり、台湾にはUMORFILがある、と言われるようにしたいのです」と侯二仁は力強い言葉で締めくくった。

和明紡織三代目の陳璽年は業態転換に取り組み、繊維産業の川上・川下との連携を積極的に進めている。

労働集約型の繊維産業において、台湾に工場を残している企業はいずれも独自技術の開発に力を注いでいる。

UMORFILは地元台南の物産を活かした製品で、農業イノベーションの手本となっている。

UMORFILは世界の舞台で異彩を放ち、トップブランドもこれを使用している。(UMORFIL提供)

UMORFILは世界の舞台で異彩を放ち、トップブランドもこれを使用している。(UMORFIL提供)

ハイテク繊維はすぐれた技術によって既製服となり、台湾繊維産業の実力を見せつける。