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グローバル・アウトルック

農業の技術と知識で対外支援——

農業の技術と知識で対外支援——

国際合作発展基金会と世界野菜センター

文・劉亭均  写真・國合會 翻訳・山口 雪菜

3月 2022

ホンジュラスの農政相と農政次官、観光相がアボカド栽培計画における種苗生産を視察に訪れた。

長年にわたって台湾は海外の多くの国で、野菜や果物など栄養価と経済的価値の高い作物の栽培計画に協力してきた。その主体となっているのは、「持続可能な発展」を目標とする財団法人「国際合作発展基金会(ICDF)」と、台南に本部を置く国際NGOの「世界野菜センター(World Vegetable Center)」である。台湾が重要な創始メンバーの一つである「世界野菜センター」は、世界最大の遺伝資源保存センターである。

カリブ海の島へ

農家による灌漑システムの設置をサポートする農業技術団。

台湾の経験を輸出

面積は台湾のわずか57分の1、人口18万人余りのセントルシアはカリブ海に浮かぶ真珠である。毎年のべ100万人の観光客が訪れ、それが他の産業の発展を牽引してきた。例えば果物栽培では、台湾と同じように付加価値の高いトロピカルフルーツが栽培できるという優位性を備えている。「ここはカリブ海の国々の中で唯一、大量のバナナを生産している国です」と語るのは、2008年からカリブ海エリアに駐在する国際合作発展基金会(ICDF)農業技術団長の鄭仕隆だ。

かつてはイギリスの植民地で、独立後の現在は英連邦王国の一国であるセントルシアでは、1950年代から大規模なバナナ栽培を開始してイギリスへ輸出してきた。両国の友好な貿易関係は現在も続いている。「バナナは毎週収穫でき、まだ熟さないうちに収穫して船でイギリスへと運ばれます。その間にバナナはゆっくりと熟して黄色くなり、到着する頃においしくなっているのです」と鄭仕隆はセントルシアがイギリスのバナナ供給国となった経緯を説明する。

2016年、ハリケーン‧マシューが現地のバナナ産業に大打撃をもたらした時、同国農業省は熱帯果物の栽培技術を持つ友好国、台湾に支援を求め、同時に農業の多様化を進めることにした。そこで台湾とセントルシアはバナナの生産量を高める計画を立て、ハリケーンや強風に強い背の低い矮性種を導入した。「観光客のニーズに応えるために、パイナップルやパパイア、スイカ、メロンといった、現地では珍しかったトロピカルフルーツの栽培も開始して成果をあげました。作物の多様化によって農家の過当競争もなくなり、近隣諸国への輸出の機会も開けたのです」とICDF技術合作処処長の顔銘宏は言う。

カリブ海の一帯で14年にわたって支援活動を行なってきた鄭仕隆は感慨深そうにこう話す。「地元の農家の人々は、Taiwan is helpingと言ってくれます。台湾は技術をもたらしただけでなく、この地域の人々が必要としている『善意』をももたらしたのです」と。


自給自足でチャンスをつかむ

中米のホンジュラスには、日常的に食べるアボカドの栽培に適した環境があるのだが、極度に輸入に頼り、一時は需要量の83.4%を輸入していた。そこで同国は2018年から台湾の国際合作発展基金会(ICDF)駐ホンジュラス技術団と協力して国家アボカド計画をスタートさせた。まずアボカドの種苗能力を向上させ、安定的な生産に必要な量の健康な種苗を育てることとした。

ホンジュラス国内でのアボカドの需要が多いため、ICDFと農業技術団は、地元の消費者が好む品種をメインにするよう提案し、現地で最も広く受け入れられているハス種を栽培することにし、年間25万株の種苗を生産することが目標となった。さらに「拡大アボカド栽培計画」が実施された。アメリカの非営利団体である「貧しい人々のための食糧(Food For The Poor)」のホンジュラスでのパートナー、CEPUDOから無償で関連設備と資材が提供されることになり、順調に最初の一歩が踏み出せた。これによりホンジュラスの180世帯に540近い就労の機会をもたらすことができると見込まれた。

「全額補助されるということで、もともと農業を営んでいた高齢の農家がアボカド栽培に切り替え、それを次の世代が支えることができました」と駐ホンジュラス技術団長の林世勲は言う。「若い農家の中には、コーヒー畑を上の世代から引き継いだ後、自国の政府が台湾と協力してアボカド栽培を推進していることを知り、台湾の農業技術団から苗を買っていく人もいます」と言う。

経済的条件を考慮して、技術団はハイテク設備を普及させるのではなく、アボカドの「剪定技術」や「ミツバチを使った受粉技術」などを指導し、アボカドの生産量を増やしている。

新型コロナウイルスの感染が拡大した時期には全国的にロックダウンが実施されたため、指導中だった僻遠地域の農家は外出ができなくなった。彼らはトウモロコシや野菜を食べて何とかやり過ごせたが、アボカドの世話をすることはできず、そのまま枯れていくのを見ているしかなかった。そうした中、技術団は補助金を申請して栽培に必要な物資を僻遠地域に送り、さらに高温の中、感染予防のための防護服を着て一本ずつアボカドの木の手入れをし、少なからぬ果樹を守ることができたのである。これに対して農家の人々は「『苦しい時こそ真の友を知る』ことを台湾が教えてくれた」と感謝してくれたという。

新しい作物に挑戦するホンジュラスの若い農家に、技術団がアボカド栽培を指導する様子。

 
TAVIプロジェクト

(世界野菜センター提供)

遺伝資源保存と栄養提供

世界野菜センターは外交部と農業委員会の委託を受け、3年にわたる「TAVI(Taiwan-Africa Vegetable Initiative)」プロジェクトを開始した。現在までのところ、世界野菜センターと、タンザニアの地域遺伝資源保存センター、エスワティニ王国のNPGRC(国立植物遺伝資源センター)とともに、456のアフリカの野菜と野生近親種の遺伝資源6300余りのサンプルを収集した。これはアフリカ伝統野菜の遺伝資源を守るためで、最終的には4800種を目標としている。

アフリカの野菜の生物多様性を保存することは、より栄養価が高く、環境に適した野菜を将来的に確保するためだが、当面の急務は現地の人々が充分な栄養を摂れるようにすることだ。そのために、世界野菜センターは商業品種の種子と便利なレシピを提供し、エスワティニ王国とタンザニア、マダガスカル、ベナンでの野菜生産量向上に協力している。現地の人々の食糧不足を解消し、長年にわたって不足している栄養を提供するためである。

TAVIプロジェクトの責任者である世界野菜センターのMaarten van Zonneveld博士は、野菜の種の消失の原因はたくさんあるが、それは現地の農業や食生活、栄養供給に大きなダメージをもたらすと語っている。

中でもエスワティニ王国の状況は比較的深刻だ。同国の人口の3分の1は14歳以下だが、平均寿命は世界で下から12番目なのである。TAVIプロジェクトの影響を受け、エスワティニ王国はゼロ飢餓戦略の下で全国学校給食計画(NSFP)を実施し始め、生徒たちに栄養豊富な野菜を提供していくことになった。

台湾が資金を支援するTAVIプロジェクトは、アフリカの2つの地域における植物の遺伝資源を確保し、また野菜摂取の推進を通して人々の栄養格差を縮小することで、アフリカと全世界に貢献しているのである。

TAVIプロジェクトにおいて、台湾の外交部と農業委員会は友好国であるエスワティニ王国の学校給食計画に協力している。写真は生徒たちが指導を受けて自ら野菜を植える様子。(世界野菜センター提供)