トレイルによる経済振興
宮城県の観光振興を積極的に推し進めている宮城県議員からも台湾に協力要請があり、2023年4月には台湾観光局と宮城県議会によって協力意向書が締結された。
これまで培われてきた日台友好の信頼関係をベースに、双方が4つのルートを選出し、千里歩道協会がマッチングを担当する。太平洋が一望できる台湾東北部の「草嶺古道」と気仙沼の「唐桑コース」、温泉も楽しめる台湾礁渓の「跑馬古道」と大崎の「鳴子温泉」、台湾でもよく知られた「金字碑古道」と「奥松島コース」、基隆「暖東渓谷」と「登米コース」がそれぞれフレンドシップトレイルを締結する。
なかでも、基隆暖東渓谷のある暖暖地域は、淡蘭百年登山道の北路と中路の起点であり、かつては台湾北部における藍染原料や石炭、茶葉の輸送拠点でもあった。暖東渓谷トレイルは淡蘭古道中路の人々の生活と経済に欠かせない道である。猴峒から三貂嶺の金字碑古道までは、かつて淡蘭官道が通っていた。歴史的な遺跡が数多く残され、淡蘭古道200年の魅力を体験できる。
淡蘭古道では、路上のあちこちで氷河期の生き残りとされる植物「双扇蕨」を見ることができる。また沿線の店舗では、地元で栽培されているカボチャやジンジャーリリーなどを使ったスペシャルメニューやお弁当、オリジナル商品を開発していて、積極的に地方創生を推進している。
台湾の現地視察に何度も訪れたことのある宮城県議員は、言葉の端々に台湾への感謝をにじませる。ある時、跑馬古道を視察していると、道端にブッソウゲの花が咲いていた。ガイドはその花を手に取り、直接口をつけて蜜を味わうことができると紹介してくれた。宮城県議員の高橋宗也氏はその時のことを振り返る。「私が子供の頃も同じようにした記憶があります。今になって台湾で、このように懐かしい体験ができるとは思ってもみませんでした。台湾に来るたび、自分の故郷へ帰ったような感じがします。」
2023年、台湾と仙台の航空路線が復活し、お互いのフレンドシップトレイルを訪ねる旅が一層便利になった。トレイルによる交流は、地元の観光と経済にも寄与している。
歩く旅というのは最も本質的なスタイルの旅であり、同時にサステナブルを実践し、CO2削減にも貢献できる。台湾では、激しい雨と風の日も、太陽が道を照らす日も、行き交う人に「こんにちは!」と声を掛けられ、うなずいて微笑んだ経験をしたことが、誰しもあるだろう。息を切らして歩いていたら、後ろから来た人に追い抜かれて「頑張って!」と励まされることもある。台湾のトレイルを歩くと、あちこちで台湾の生活や文化に出会うことができる。そこからまた台湾の違った一面が見えてくるだろう。
千里歩道協会執行長・周聖心氏(右)は、「古道の上で出会うもの全てが、台湾の生活と文化である。」と語る。
トレイルでは、自分への挑戦によって達成感が得られ、仲間との旅では喜びを感じられる。
歩くことで、五感を開放し、地域の文化、歴史、生態系を学ぶ。最もサステナブルな旅である。