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台湾には強風の吹く場所が多数ある。特に彰化県沖は洋上風力発電所として高い可能性を秘めている。(荘坤儒撮影)
2022年、台湾は初めての「アジア太平洋永続行動博覧会(Asia-Pacific Forum & Exposition for Sustainability, APFES)」を開催し、産官学の研究成果を結集して2050年までにネットゼロ(温室効果ガスの排出量を正味ゼロにする)を達成する決意を示した。会場には、地方自治体や大学、企業などによる、「SDGs(持続可能な開発目標)」への取り組みの成果が展示された。安全な水、都市と地方の持続可能な発展、陸の生態保全などである。実現は遠い彼方のように思える目標だが、さまざまな分野が専門性と創意を以て取り組むことで、着実に生活に根付きつつある。
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中国医薬大学の水湳キャンパスにある学生宿舎は、低炭素建築連盟の認証を取得した。(中国医薬大学提供)
エネルギー転換への恵まれた条件
サステナビリティ·トランスフォーメーション·サミットにおいて、環境保護署環境衛生及び毒物管理処の蔡玲儀処長は次のように述べた。台湾における二酸化炭素排出量の9割は燃料燃焼から来ているが、エネルギー転換において台湾はすでに世界の趨勢に従い、水素エネルギーやカーボンキャプチャーの研究を開始、台湾に優位性のある洋上風力発電や地熱発電の開発も進めている。
国際的な洋上風力発電統計会社の4C Offshoreによると、世界で最も優れた洋上の風の場トップ20のうち16か所は台湾海峡にある。台湾の中央山脈と福建省の武夷山の間に狭い通り道ができ、加えて北東から強い季節風が吹くため、台湾の西海岸海域は風が強く、中でも彰化県沖の風が最も強いのである。
これまで台湾での洋上風力発電所の建設は外国企業が中心になっていたが、近年は「ローカル化」が重視されるようになり、台湾の上緯新能源(Swancore Renewable Energy)や、雲豹能源(J&V Energy Technology)、永冠能源科技(Yeong Guan Energy Technology)、天力離岸風電(Tien Li Offshore Wind Technology)などの企業が「洋上風力発電台湾チーム」を結成し、サプライチェーンの現地化に取り組み、台湾での関連技術の発展に力を注いでいる。
今年、台湾のサステナビリティ·アクション·アワード(TSAA)におけるSDGsの「クリーンエネルギー」部門では、台湾電力が「洋上風力発電第一期」の項目で銀賞に輝いた。コロナ禍の間、台湾電力は、外国人技術者の入国や海外の原材料の輸入が進まない中、彰化県芳苑郷の沖に洋上風力発電機21基を建造した。これにより毎年平均3.6kWhの発電ができ、9万世帯の年間電力使用量をまかなえる。施工期間中、台湾電力は防音シートを用いて工事の騒音を減らし、地元の漁業者や観察員を招いてクジラやイルカにやさしい措置を実施した。また、周辺のカキの養殖に影響しないよう、ボーリングの工法も変えた。
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「新竹生博物館」プロジェクトは、台湾では数少ない軍事工業の遺跡で、高さ60メートルの煙突には第二次世界大戦時の弾痕が残っている。右の写真は、現地の歴史を伝えるインタラクティブシアター。(陽明交通大学保温プロジェクト提供)
サステナビリティを学校へ
博覧会のブースを見ると、サステナビリティに取り組む大学の成果も政府や企業に引けを取らないことがわかる。むしろ大学は地域社会に密着しているため、地域の高齢者にサービスを提供して地方創生に協力し、持続可能な環境を生み出しており、健康と社会福祉、雇用と経済成長、サステナブルな都市などSDGsの目標を達成しやすい。例えば「持続可能な都市」部門で金賞に輝いた陽明交通大学は「新竹生博物館」プロジェクトを推進した。かつての日本海軍第六燃料廠を中心に、日本統治時代の工業遺跡と後の眷村の歴史的建築物を保存し、映画祭やインタラクティブシアター、VRガイドなどの方法で、人々に過去に触れてもらうというものだ。
「持続可能なエネルギー」部門では、多くの大学がサステナビリティセンターを設立し、SDGsを学校運営の目標に取り入れている。グリーンビルディングの採用やカーボンニュートラルの推進などである。例えば、中国医薬大学の水湳キャンパスの宿舎は、国内の低炭素建築連盟の認証を取得したほか、フランスのNOVUM DESIGN AWARD金賞にも輝いた。台北大学商学部は企業サステナビリティ研究センターを設立し、「台湾サステナビリティ評価」を創設、社会、経済、環境、透明化の四つの面から、企業の社会的責任報告書に挙げられた上場企業を評価している。この評価は2021年から国泰証券と協力し、台湾の上場企業のESG(環境·社会·ガバナンス)パフォーマンスを研究し、投資家の参考に供している。
台湾大学理学部と工学部、生物農学部の教授は、台達電(Delta)文教基金会と協力し、我が国の友好国である太平洋のツバルの環境問題解決に協力している。モジュール化した省エネ再生水システム、水耕野菜システム、水質·気候センサーシステムなどを開発し、現地の飲用水や食物、衛生などの基本的なニーズを満たしている。
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台湾永続能源研究基金会の簡又新董事長は、サステナビリティに向けた台湾の行動を世界とつなごうとしている。(APFES提供)
産学協力でネットゼロへ
民間企業もサステナビリティを目指す多くの団体を設立し、政策に関する提言を行なうなどして、産業と政府の懸け橋となっている。
ビル·ゲイツ氏は著書『地球の未来のため僕が決断したこと』の中で、「ネットゼロの企業や産業を確立する力のある国は、今後数十年の間、世界経済をリードするだろう」と述べている。
多くの台湾企業は大学と協力し、二酸化炭素排出削減技術の開発に取り組んでいる。例えば、成功大学は国内で初めて二酸化炭素排出量をマイナスにする「カーボンネガティブ·パイロット工場」を構築した。カーボンネガティブ技術は排気ガスの中の二酸化炭素をメタンとエタン、プロパンへと転換するものだ。そのうちメタンは台湾の天然ガス燃料の自主生産技術を実現する。エタンとプロパンは、水素を分離、炭素固定を経て、二酸化炭素を石油化学産業の川上の原料とする。成功大学化学工学科の陳志勇教授によると、二酸化炭素を捕集して封じ込めるカーボンキャプチャー(CCS)や二酸化炭素の純化、吸収剤の再生、水素化触媒など、一連のコアテクノロジーはすでに15項目の国際認証を取得しており、台湾のカーボンネガティブ技術が世界の水準に達していることが証明された。将来的に、この一連の技術は各産業に導入され、中油(CPC)、中鋼(CSC)、台湾電力、台湾プラスチックといった大企業でも用いられることとなる。
SDGsの「クリーンエネルギー」部門において、国営企業の台湾糖業は太陽光発電設備の水上·陸上建設という項目でサステナブルアクション賞の金賞を受賞した。台湾糖業の放置されていた土地を太陽光発電エリアや光電遊水池などに転換するという措置で、すべて完成すれば7億kWhの発電ができ、カーボンニュートラルに大きく貢献することとなる。
SDGsのもう一つの目標である「産業と技術革新の基礎をつくる」部門では鴻海精密(ホンハイ)が金賞に輝いた。同社は近年、電気自動車(EV)の開発に力を注いでおり、2020年にMIH電気自動車オープンプラットフォームを開設した。分野を越えた協力を促進して開発期間を短縮し、イノベーションの力を高めようとするもので、すでに内外のメーカー2200社が加入している。わずか2年のうちに、鴻海と裕隆汽車傘下の鴻華先進科技(Foxtron)は、初めてのSUVの電気自動車Model Cを開発し、近々予約を受け付けるという。台湾で初めての電気自動車ブランドである。
台湾には情報通信産業と半導体産業の実力があり、台湾積体電路製造(TSMC)や日月光半導体(ASE)、友達光電(AUO)、同欣電子、GARMINなど、多くの企業がそれぞれの領域で世界一の座についている。これらをつなげば、台湾の電気自動車革命を推進できるだろう。
蔡英文総統は、昨年4月22日のアースデイに、2050年にネットゼロを実現するという目標を宣言した。行政院も、今年3月に台湾の温室効果ガス排出ゼロへのロードマップと、テクノロジーの開発と気候法の二大政策を基礎とすること、そしてエネルギー、産業、生活、社会の四大転換戦略を打ち出した。さらに2030年までに9000億元の予算を投じてネットゼロへの転換を進めるとしている。また、台湾永続能源基金会は、大学や企業に対して、国連が2030年までの目標としているSDGsの実践を呼びかけ、台湾の持続可能な発展に向けて邁進している。
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成功大学は国内初の「カーボンネガティブ工場」を構築した。(国立成功大学ニュースセンター提供)
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持続可能な発展の思考を取り入れる企業が増えている。友達光電は再生循環材料を導入し、炭素管理とエネルギー貯蔵のプラットフォームを構築した。
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台湾のMIH電気自動車オープンプラットフォームには、さまざまな業種の企業が加入し、イノベーションを加速させている。
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持続可能な発展は、政府、企業、学界、社会がともに努力して達成しなければならない。(APFES提供)