
インド・ベンガルールにあるエンバシー・マンヤータ・ビジネス・パークは「テクノロジーと緑豊かな環境」というインドのイメージを示している。
「インドが2025年までに経済成長の目標に達するために、台湾は最も重要なパートナーだと言えます」と、中華民国駐インド台北経済文化センターの葛葆萱代表(大使)は強調する。
また、「今こそ、インドへ投資する最高の好機です」と言うのは「印度台商総会(インド台湾商工会)」の何俊炘会頭だ。
オート三輪が音を立てて、ニューデリーのPaschimi Marg通りを行き来している。まだ午前9時前だが、「駐インド台北経済文化センター」の外ではインドの人々がビザ手続きの始まるのを待っており、親切に我々にも「9時にならないと始まらないよ」と教えてくれた。
駐インド台北経済文化センターの葛葆萱代表は、与党インド人民党国会議員を訪問する前の忙しい合間を縫って『台湾光華』の取材を受けてくれた。「彼(議員)は親しい友人ですが、今日しか時間が空いていないので」と説明してくれる。

「毎日スケジュールを組んで、reach out(接触)しています。1日を無駄にしないよう、やるべきことを見つけます」と駐インド台北経済文化センターの葛葆萱代表(大使)は言う。
最高の好機
葛代表によれば、今年、台湾とインドの二国間貿易は84億米ドルを超えて史上最高になると予想されており、しかも今後も成長を続けるだろうという。
実は1995年に台湾とインドが互いの首都に在外公館を置くことに合意した後も、両国間の経済的な交流は少なかった。それが劇的に変化した原因は「インドの雄大な志」だと葛代表は言う。3期目のインド首相就任を果たしたモディ首相が、2047年までに「先進国」と「繁栄したインド」となることを目標に大々的にインフラ整備を進め、各分野で急速に発展が進んでいるのだ。
第二に、インドと中国の間には3400キロに及ぶ未確定国境があり、中印関係を特殊なものにしていることだ。「こうした制約がある中で、インドは台湾との協力を望むのです。それにインドの各界とも台湾に友好的で、台湾の大規模なインド進出を期待しています」

台湾企業と各界からの期待に応え、何俊炘会頭は「印度台商総会」を再編成した。
台湾企業のために
太思科技(Taisys Technologies)グループの董事長でもある「印度台商総会」(インド台湾商工会)の何俊炘会頭はこう指摘する。モディ首相が2016年の就任以来、全国統一税制(GST)や産業回廊等のインフラ建設を進めたため、次第に健全で整った市場が形成されている。さらに重要なのは、過去3年間の地政学的変化によってサプライチェーンが中国からインドに移り、大きな発展の機会がもたらされたことだ。
「この3年間の急成長を見ると、今はインドに投資する最高の好機です」と何会頭は言う。2024年初めにインドで事業展開する台湾企業は約250社だったが、年末が近づくにつれ300社近くに増えてきている。
「かつては、インドで台湾企業は独力で奮闘し、その経験も伝えられませんでした」と言う何会頭は、各界の期待に応え、まず2023年7月にデリー台商会の会頭に就任した。「私に与えられた任務は、台商総会を再編成して、台湾企業のためのプラットフォームを作ることでした」
2024年4月に何会頭は印度台商総会の会頭に就任、5月に台商総会が開いたゴルフ大会には100人を超える台湾人ビジネスマンが一堂に会した。
台商総会は、デリーの中心地にデリー台商会所を開設、そこでインドやアジアの台商会会員を接遇するためだ。また9月にはムンバイ広域を後背地とする西マハーラーシュトラ印度台商会やチェンナイ会所が開設、今後はムンバイやベンガルールにも会所ができる予定だ。
「インドは広大です。台湾企業のあるすべての町に台商会が設立され、ネットワークで互いにつながることを願っています」と何会頭は言う。

デルタ電子インド支社の財政支援により、インドのサストラ大学の大学院生は台湾の元智大学電機通信学部に1年間留学する。この国際的な産学人材養成プログラムは台湾とインドの人材交流を深めている。
業界での地位を勝ち取る
葛葆萱代表は「台湾企業の実力を考えれば、インドの経済発展において台湾が不在であるはずはありません。とりわけ電子部品製造業での協力をインドからは非常に期待されており、我々は業界での地位を勝ち取るべきです」と話す。
台湾の半導体受託製造企業「力晶積成電子製造(PSMC)」はインドのタタ・エレクトロニクスと提携し、モディ首相の故郷であるグジャラート州にインド初のファウンドリを建設する予定で、2万人以上の雇用創出が見込まれている。葛代表によれば、PSMCは技術ライセンス契約を結んで、12インチウエハー工場をインドがゼロから立ち上げる支援をするという。この重要な発展に台湾が重要な役割を果たすことになるのだ。
インド政府が重要視する企業にはほかにも、インドで20年以上事業展開してきた電子機器メーカーの鴻海グループ(フォックスコン)がある。インドに100億米ドル近くを投資する鴻海は、カルナータカ州とタミル・ナードゥ州にiPhoneの組立て工場や電気自動車部品の製造・組立て工場を持つ。
2024年9月、デルタ電子(台達電子)もインド進出20周年を祝い、ベンガルールに新本社ビルと研究開発センターを建設すると発表した。デルタ電子・インドの林正彬総裁は「デルタ電子はインドの技術的な優位性だけでなく、豊かな人材を見込んでいます」と言い、インドのエネルギー市場と産業オートメーションに新たな勢いをもたらせることを願う。

ベンガルールにあるアドバンテックの生産拠点。
黄金の三角地帯
今年(2024年)9月にインド駐在満4年となった葛代表は、今までで最も誇らしい成果として、今年10月16日の駐ムンバイ台北経済文化弁事処(以下「ムンバイ弁事処」)設立を挙げる。これは、2012年チェンナイ弁事処開設以来12年ぶりの中華民国インド在外公館設立で、地理的に言うと、インドにおける台湾の「黄金の三角地帯」の布局となる。
ムンバイはインド最大の金融都市であり、世界100カ国近くがムンバイに総領事館を置く。ムンバイとプネーはインドで最も裕福なマハーラーシュトラ州にあり、機械や自動車、電子機器製造の主要地でもあるため、ムンバイからプネーにかけては専門学校も多く、人材が得やすい。ムンバイ弁事処設立後は、グジャラート州を含む近隣4州および連邦直轄領のビザや書類認証などの業務を取り扱えるようになり、また台湾企業の現地との協力や投資も支援が可能になった。

インドのベンガルールのあちこちで建設工事が行われている。
自由貿易協定を
「現在、我々にとって最も重要なのは、インドと自由貿易協定を結ぶことです。その名称はひとまず置いておきます。それは柔軟に対応できますから」と葛代表は切迫感をもって語る。「二国間の自由貿易協定がなければ、台湾の中小企業はインド市場に参入できません。そのため投資・貿易協定をアップグレードする必要があります」
葛代表はこんなエピソードを話してくれた。
「2年ほど前にインド北東部の州知事が私にパイナップルを送ってくれて、その甘さは台湾のものに匹敵するほどでした。台湾に行ったことがある彼の部下が、佳徳糕餅のパイナップルケーキがお気に入りで、インドで佳徳糕餅が工場を作ってくれればと願ったそうです。なぜならインドが台湾からパイナップルケーキを輸入すると50%もの関税がかかるからです。私はインターネットでパイナップルケーキのレシピを見つけ、州知事に送りましたが、もしインドが関税を引き下げれば、台湾のパイナップルケーキ・メーカーもインドに輸出します。そして売れ行きがよければ、すぐにインドに工場を設立するでしょう」
自由貿易協定を結ぶことで中小企業の投資も促進できるのだと、葛代表は語る。
葛代表がインドの政府や産業界、学術界に対しよく語るのは、「台湾がインドに輸出するのはテレビや冷蔵庫などではなく中間製品、つまりインドで組立て、また他国へと輸出するものだから、互いに競合することはなく、むしろ補完し合える」という考えだ。
例えば産業用コンピューターで世界シェアトップのアドバンテック(研華科技)は、ベンガルールに生産拠点を構え、台湾から輸入した部品を現地のエンジニアが組立て、「インド製」のラベルを貼ってインド各地に販売している。まさに葛代表の言う通り、台湾から輸入したものをインドで製造するという互恵関係が生まれている。

ベンガルール空港に向かう道路に掲げられたインドのタイヤメーカー「アポロ・タイヤズ」の広告。インド繁栄の前途が感じられる。
交流の重要性
「現在、インドからの留学生約3000人が台湾の修士・博士課程で学んでいますが、これでは全く足りません」と葛代表は言う。だが代表がインドに着任後、インドの大学との協力で37カ所の『台湾教育センター』が設立され、インドの大学生の中国語学習と台湾への留学を促している。留学して台湾を理解し、華語を話せる人材は、インド帰国後に台湾企業の大きな助けとなるはずだ、と葛代表は言う。
「数カ月前、インド教育省高等教育部門の高官を訪問して相談すると、彼は非常に乗り気で、台湾とインドの政府が半分ずつの資金を出し合い、台湾教育センター設立100カ所を目標にしようという話になりました」
2023年12月、台湾の教育部(教育省)は10余りの大学の代表者を率いてインドを訪れ、共同での半導体人材訓練など、50以上の覚書を交わした。葛代表は「台湾の新南向政策の最も成功した側面は、人と人との交流だと思います」と語る。インドと台湾の交流は今後も深まり、さらなる高みへと達するだろう。

アドバンテック・インド支社では、台湾から輸入した部品を現地のエンジニアが組立て、「インド製」のラベルを貼っている。

印度台商総会のデリー台商会所では、アジアやインド各地の台商会会員を接遇することができる。

ベンガルールにあるデルタ電子・インドの新しい本社ビルと研究開発センターは、世界的なグリーンビルディング評価システム「LEED」のゴールド認証を取得している。

インドは中産階級の増加率が世界一であり、それによって世界で最も急成長する経済大国ともなっている。

ベンガルール空港は夜でも人の行き来が絶えない。

ベンガルールのショッピングモール「フェニックスモール・オブ・アジア」の豪華な造りは、インドの経済発展を象徴する。

現在ベンガルールで建設中のヘバゴディ・メトロ駅。インフラ整備を急速に進めるインドの一面が見て取れる。

ケンペゴウダ国際空港(ベンガルール空港)に立つこの像は、この都市を築いたケンペ・ゴウダを記念したものだ。