
今年(2025年)初め、コンビニでベルギーチョコレートと台湾の牛乳を合わせたソフトクリームが発売されると、その濃厚な風味が人気となり、行列ができる人気商品となった。ベルギーの漫画『タンタンの冒険』や、可愛らしい『スマーフ』は世界中で大人にも子供にも愛されている。台湾とベルギーが共同で建造した世界第二の洋上風力発電工事用作業船「環海翡翠輪」(Green Jade)は、台湾の再生可能エネルギーを発展させている。台湾とベルギーの交流は、医薬、文化芸術、半導体などの分野でも進んでおり、私たちの暮らしとも密接に関わっている。ベルギー台北弁事処のマシュー・ブランダーズ処長のお話を通して、台湾とベルギーの近さに改めて気づかされた。
「ベルギー台北弁事処から、巳年のお祝いを申し上げます」――今年1月、『台湾光華』にベルギー台北弁事処のマシュー・ブランダーズ処長からグリーティングカードが届いた。ベルギーの画家ディミトリ・ピオット氏が描いた作品のカードだ。緑の蛇の背に台北101とブリュッセル市庁舎がそびえていて、その間を天灯が温かい光を放ちながら昇っていくという構図だ。台湾とベルギーのランドマークに、おめでたい蛇と天灯が巧みに描かれている。
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台湾とベルギーの間には密接な交流がある。台南の奇美博物館における「画家たち:16-17世紀ネーデルランド絵画の時代」特別展でもベルギーの画家の作品が展示された。(ベルギー台北弁事処提供)
台湾は第一希望の赴任先
冬の晴れた日に私たちはベルギー台北弁事処を訪ねた。オフィスで迎えてくれたマシュー・ブランダーズ処長は、「コーヒーとお茶のどちらにしましょう。それともビールにしますか」とユーモラスにベルギービールを宣伝し、互いの距離を縮めてくれる。
父親も外交官だったというマシュー・ブランダーズ氏は、幼い頃から世界各地を転々とし、さまざまな文化に触れてきた。外交官になる前は弁護士として働き、その仕事のためにサウジアラビアやマレーシア、インドネシアにも滞在した経験があり、外交官になってからはシンガポール、日本、ブラジルなどに派遣された。
変化を好む氏は、さまざまな赴任先で文化交流を楽しみ、どこにでも喜んで赴任してきたが、4回目の海外赴任に当たり、子供ができたため考え方が変わったという。父親として、赴任先における子供の教育環境が重要な要素となった。「台湾には良好な教育リソースがあり、医療衛生や治安なども良く、赴任先を選ぶ際の第一志望となりました。そして幸運にも台湾に来ることになったのです」と言う。
ブランダーズ氏は2023年8月に台湾に着任し、すでに一年半余りになる。「台湾の居住環境は素晴らしいものです。子供たちも自分で街を歩き、自分でバスに乗いています。時には『今晩は同級生とご飯を食べてから帰る』とメッセージを送ってきます。親として、子供が外にいても安心していられる国というのは、世界を見渡してもなかなかないものです」と語る。
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正真正銘の台湾通
ブランダーズ氏はこう話す。ひとつの国に赴任すると、一年目は興奮気味で、常に学習しなければならない。例えば、オフィス付近に自動車販売店があるのだが、そこではしばしば紙銭(冥土で使う紙幣)を燃やしたり、線香を手に自動車の前後を回っている人を見かけた。何かの儀式をしているようだというので、台湾の民間信仰に興味を持ったという。
また、台湾人は常に安全に気を配っていて、あまり冒険的な行動はしないことに気付いた。例えば、多くの海域では水泳が禁止されており、海水浴場でも定められた範囲内でしか泳がない。また救命胴着をつけ、ライフガードもいるので、台湾人は「水」に畏敬の念を抱いていると感じる。
しかしその一方、台湾人は「火」に対してまったく違う態度を示す。例えば、天灯に願い事を書き、火を灯して空に上げる。また、台南の鹽水蜂炮という祭りでは、四方からロケット花火が水平に飛んでくる中に人々は完全武装して立ち、その姿に見ている方が心配になる。「水」を恐れるが、「火」は恐れないというのは台湾人自身が気付いていない民族の習性なのかもしれない。
ベルギー台北弁事処のフェイスブックを開くと、常にブランダーズ処長の訪問先がアップされている。氏は、訪れた台湾各地の印象を次々と語ってくれる。高雄は港湾都市で、港の周辺にある文化施設は非常によくできている。長い歴史を持つ台南も、ブランダーズ氏は幾度も訪れている。台南市は1993年にベルギーのルーヴェン市と姉妹都市になり、昨年(2024年)の台南史400年の祝賀イベントには、ブランダーズ氏がルーヴェン市のムハンマド・リドウアニ市長に同行して参加し、両市の友好を深めた
ブランダーズ処長はまた、桃園市についても語ってくれた。桃園市の拉拉山は美しく、林相が豊かで神木を観賞できる。桃園国際空港は、海外からの旅客が入国する門戸でもある。その桃園には芸術文化関連の施設が多数オープンしている。桃園市立図書館新総館、横山書法芸術館、桃園市児童美術館などだ。昨年の台北国際ブックフェアの後、ベルギー台北弁事処はブックフェアのベルギーパビリオンで展示した書架と書籍をすべて桃園市立図書館に寄贈した。その新総館は同年7月にベルギーコーナーを正式オープンし、数百冊にのぼるベルギーの蔵書を展示するとともに絵本ストーリー講座を開くなどして、ベルギーを知る窓口としての役割を果たしている。
ブランダーズ氏は台湾の食も楽しんでいる。食べ物のえり好みはしないという氏は、臭豆腐も、あまりにも臭いものでなければ食べられると言って笑う。数々の台湾料理の中で、ブランダーズ氏が最も驚いたのがベジタリアン向けの料理だという。台湾の菜食料理は種類が豊富で調理方法も多様で、どこででも食べることができる。これは他の国ではなかなか見られない特色だと氏は見ている。ブランダーズ氏自身はベジタリアンではないが、台湾で菜食料理が大好きになり、一日一食はベジタリアン料理を食べ、自転車にも乗るようになったことで半年で20キロも体重を落とすことができたそうだ。多くの人はダイエットに苦労するが、自分は簡単に痩せられて幸運だと考えている。以前の自分の写真を見ると、まるで別人で、自分の兄のようだと言う。
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台南市とベルギーのルーヴェン市は姉妹都市の関係にあり、同市のムハンマド・リドウアニ市長(前列左から2人目)が台南を訪問した際、ブランダーズ氏(後列一番左)も同行し、両市の友好を深めた。(台南市政府提供)
台湾とベルギーが共同で海上作業船開発
ベルギーは、過去にオーストリア、フランス、オランダに統治されたことがあり、台湾の文化的背景と似通った部分があるとブランダーズ氏は語る。周囲を強国に囲まれているため、新しい方法で問題を乗り越えなければならないのである。そうした中で「尊重し開放する」という態度で世界各地の人材を引き寄せ、海外と協力することで新たな方法を見出して障害を乗り越えていく。こうした点が台湾とベルギーに共通するところだとブランダーズ氏は言う。
世界的に温室効果ガスのネットゼロが求められている中、台湾もベルギーも積極的にこの課題に取り組んでいる。そうした中で、台湾とベルギーが共同で開発した海上作業船の環海翡翠輪(Green Jade)は素晴らしい成功例だ。
台湾の国際造船(CSBC)とベルギーのDEMEオフショアは合弁会社、台船環海風電工程(CDWE)を設立した。双方の親会社はいずれも洋上風力発電施設建設の技術と経験を持ち、CDWEは3年をかけて台湾初の、また世界で2番目に大きな全旋回式大型クレーン船を建造し、環海翡翠輪(Green Jade)と名付けた。
これは世界有数の海上作業船で、デッキには4000トン吊りクレーンが設置されている。ブームの中さは165メートルに達し、一度に自動車3000台分の重さを30階建ての高さまで吊り上げることが可能だ。昨年、Green Jadeは彰化沖に洋上風力発電施設の設置工事を順調に完了し、台湾の再生可能エネルギー発展を加速させている。
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台湾とベルギーの深い縁
台湾とベルギーの協力は、短期的なものから中長期のものまであり、ブランダーズ氏は、自身が就任する以前から安定的に発展しており、自分は幸いにもその成功と成果を引き継ぐことになっただけだと謙遜する。
例えば、ベルギーの漫画は世界に知られているが、台湾の漫画創作も国際的に注目されるようになり、ベルギー漫画センターは台湾の漫画家・小荘を招いて展覧会を開いた。また、ブランダーズ氏は台中の国家漫画博物館の正式オープンを心待ちにしている。オープン時にはベルギー漫画センターも祝賀に訪れる予定で、双方の協力計画が実現すると期待されているのだ。
ブランダーズ氏に、新しい一年の計画をうかがうと、たくさんのアイディアを語ってくれた。最近はサイクリングが大好きになり、台湾でベルギーのサイクリングチームを結成して、台湾の美しさに触れるツアーを組みたいと考えている。また、金瓜石や九份を起点に、ベルギーと共通点のある鉱山の歴史に触れるツアーも計画できる。50数年前には、ベルギー出身のアーネスト・デリル神父が新北市の瑞芳区で育化民族舞踊団を結成し、後にこの舞踊団のメンバーを率いてヨーロッパへ赴き、文化外交として巡回公演を行なった。これらは大部分の台湾人が知らないベルギーと台湾のつながりである。ブランダーズ氏はこの他にも、澎湖での花火フェスティバル観賞、緑島への温泉旅行、玉山登山などを挙げる。台湾での生活は始まったばかりで、まだまだ素晴らしい台湾に触れていきたいと語ってくださった。
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マシュー・ブランダーズ処長は台湾各地を訪れ、LGBTプライドパレードやビーチクリーンなど、さまざまな活動に積極的に参加している。(ベルギー台北弁事処提供)
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台湾とベルギーが共同で開発した海上作業船「環海翡翠輪(Green Jade)」は、台湾の再生可能エネルギー産業の発展を加速させている。(台船環海風電工程公司提供)
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桃園市立図書館新総館にはベルギー特別エリアが設けられており、台湾人がベルギーを知るきっかけになることが期待されている。(桃園市立図書館提供)

ベルギー台北弁事処は2025年の台北国際ブックフェアに出展し、ベルギーの画家や出版社を招いて市民と交流を深めた。


ベルギーの画家ディミトリ・ピオット氏が描いた新年のグリーティングカード。台湾とベルギーそれぞれのランドマークの間を天灯がゆっくりと上っていく構図で、両国の友好を象徴している。(ベルギー台北弁事処提供)

サイクリングが大好きだというブランダーズ氏。今後も自転車で台湾各地を訪れ、台湾とベルギーの交流を深めていきたいと考えている。

風光明媚な桃園市の拉拉山。豊かな林相と巨木が印象的だったとブランダーズ氏は語る。