
最近、いたるところでNFTを目にする。アメリカのデジタルアーティストBeepleのNFT作品「Everydays-The First 5000 Days」が、クリスティーズのオークションで6900万米ドル(約19億台湾ドル)で落札し、台湾でもNFTブームが巻き起こっているのである。
台湾では霹靂布袋戯NFT、鶏肉飯NFT、フライドチキンNFT、大学NFTなどが次々と登場している。お金の神様である財神爺もこの流行に後れてはいない。台湾最大の財神廟である武徳宮では、春節になると銭母(これを元金として商売や投資をすれば神様のご加護でお金が儲かるとされる)を配っていたが、これが「十年銭母NFT」と「財神廟趙公明NFT」として発行されるようになった。以前は春節になると銭母を受け取るために信者が行列を作っていたが、今ではこれが「武徳メタバース」に入り、一度に10年分(バーチャルとリアルの銭母)を買えるようになったのである。財神爺NFTは一大ブームとなり、発売当日には、インターネットで購入を申し込む人が多すぎて、プラットフォームがダウンしたほとだ。

詹婷怡は、NFTの勢いは今後も続くと見ており、重要なのは法的環境を整えて、よい方向へ向かわせることだと考える。
NFTの独特の価値
NFTとは何なのだろう。どうしてこれほど話題になっているのだろうか。
NFT(Non-Fungible Token)とは、「代替不可能なトークン」のことで、デジタルデータをブロックチェーン上に記録したものである。例えば、イラストや音楽、写真、GIF、著作権、ゲームキャラクター、さらにはツイッターの投稿文などもNFTになる。NFTでは、そのコンテンツの創作者や購入者、そしてそれをブロックチェーンにアップした者などが記録される。
「NFTは価値を内包するツールで、例えば、音楽を入れたCDや、データを入れたUSB、今なら各種の代替性トークンやNFTなど、どれも一種の価値を代表するものです」と、国家通訊伝播委員会の元主任委員で台湾ブロックチェーン愛好者協会栄誉理事の詹婷怡は、より分かりやすく説明する。非代替性というからにはNFTは唯一無二の価値を表し、少なくとも購入者にとっては代替性のないものである。そのためNFTは二つとない芸術作品と同じで、その価値は購買する側の思いによって決まる。

止められないNFTの勢い
NFTが大きな注目を浴び、多くの有名人がSNSのプロフィールにBorde Ape Yacht Club(ボアード‧エイプ‧ヨット‧クラブ)の猿のNFTコレクションを使うようになった。アジアの人気スター、周杰倫(ジェイ‧チョウ)がインスタグラムで「私の猿が盗まれた」と発表すると、その猿はすでにマーケットプレイスで転売されており、155ETH(約1400万台湾ドル)という高値で売りに出されていた。マドンナもこの猿のNFTをコレクションしていて、180ETH(約57万米ドル)で4988号の猿を購入。そしてインスタグラムで「私もついにメタバースに入った」と宣言した。
NFTがしばしば数万米ドル単位で取引されることが、IT系の大企業をも動かすこととなった。デジタルトランスフォーメーション学院の共同創設者で院長、台湾大学商学研究所兼任教授の詹文男はこう話す。「最近、アメリカのGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)などの巨大企業は人材が集まらず、暗号通貨圏で人を探すしかなくなっています」
「デジタルトランスフォーメーションの角度から見ると、NFTは重要なイノベーティブ‧アプリケーションの契機で、必然の趨勢でもあります」と詹婷怡は言う。NFTが成熟したのは、ブロックチェーン技術と暗号通貨、DAO(分散型自律組織)といった情報アプリケーションが発達したからで、これらの技術が結集して新たな経済モデルが生まれたと考えられる。

ブロックチェーン‧イノベーションのインキュベーターである台北方舟(ARK TPE)。ここにはNFTイノベーションを目指すチームが少なからず集まり、台湾のデジタル産業のエネルギーを発揮している。
クリエーターの次世代経済
彼女は猿のNFTを例に説明する。猿のNFTが打ち出されると、ある匿名の人物が第1798号を購入し、これに「Jenkins the Valet」と名をつけた。Jenkinsは大きな歯が飛び出していて、ホテルのコンシェルジュのような服を着ている。この匿名の人物はJenkinsのために次のような物語を作った。Jenkinsはボアード‧エイプ‧ヨット‧クラブで駐車代行の職を手に入れた。これに母親は泣いて喜び、一番上等なバナナを出してお祝いをした。その特殊な身分から、Jenkinsは世界で最も権力があり、最も影響力を持つ猿と接触する機会を得て、大勢の猿の要人や著名人の秘密を知り、エリート猿たちのプライベートなカギを預かることとなる……。
このJenkinsの物語が大きな話題となり、猿のNFTコレクターたちが集まり、インターネット上のバーチャルなWriter's Roomにまで発展した。「Writer's Room」NFTのメンバーはJenkinsなどの猿の小説や演劇の内容や方向に投票でき、共同で物語の創作を進める。また自分の猿のNFTを小説や演劇に出演させることもできる。こうして「駐車代行のJenkins」は世界最大のエージェンシーであるCAA(クリエイティヴ‧アーティスツ‧エージェンシー)と契約し、ニューヨークタイムズのベストセラー作家と共同で本を出し、さらにハリウッドでの映画化も進められている。

NFTのジェネレーティブ‧アーティストである呉哲宇は、世界進出を果たした。その作品はアルゴリズムとアートを融合したもので、コレクターに注目されている。
NFTでチャリティ
NFTはチャリティ活動とも手を組み、愛の価値をも広めている。例えば、呉哲宇と台湾の5人のジェネレーティブ‧アーティストは、フォルモサ‧アート‧バンクで「百岳計画%」を発起した。台湾の「百岳」をテーマに共同創作でNFTの五大シリーズを制作するというものだ。彼らはNPOと協力して一般市民向けに1万枚のNFT「%」を発行する。寄付をした人は寄付1回につき、ジェネレーティブアートNFTを受け取ることができ、NPOはそこから手数料を受け取って運営資金に充てることができるという。
また、施振栄が創設した「文化科技発展連盟」は「2022 Cultech文化科技共創集智提案」公募活動を行なったが、企業から応募された提案の中にもNFTアプリケーションが見られた。遠東グループのCity'superは、専属のNFTを持っている人だけがログインしてショッピングができるというものだ。台新銀行文化芸術基金会は、台湾の小規模農家や農協などを統合してNFTを発行し、優れたアーティストの創作をサポートしている。

ブロックチェーン上に作品を発表している呉哲宇は、2020~2022年のNFTアートを集めて初めてリアルの個展を開き、全面的な没入型展示に再現した。
慎重かつ楽観的にNFTと向き合う
NFTは金融ツールと同じで、投資にはリスクが伴う。台湾金融科技協会の理事長で、元行政院政務委員の蔡玉玲はこう指摘する。台湾の市場で流行しているNFTの大部分は海外発行で、「バーチャルな世界には国境がないので、この点が最初のチャレンジになります」
「各国政府がNFTに対してまだ規制の動きに出ていないのは、NFTが新しく、変化が速いからです」と蔡玉玲は言う。NFTと関わる知的財産権や所有権の問題、詐欺やマネーロンダリングの問題は、いずれも現行の法令で処理できる。
蔡玉玲はまた、NFTの分野は変化が非常に速く、操作のハードルも高いため、NFTに投資する人は、その売買に関する知識を一定程度持っていなければならないと注意を促す。さもなければ、価格が大きく変動した時に慌てて損失を出してしまうからだ。また、投資する人は契約書に書かれた権利と義務、そしてマーケットプレイスのユーザー規範についてもよく理解し、自らの権益を守らなければならない。
詹文男も、NFTに手を出す前にその本質とリスクを十分に理解し、考える必要があると指摘する。「企業にとっては、NFTは新たな市場や新たな顧客を開拓するツールになるかも知れません。しかし個人の場合は、まず自分が利益を得るために投資するのか、それとも単純にファンとして支持するだけなのかを考え、それから順を追って行動するべきです」と言う。
一部の人にとって、NFTはビジネスチャンスであり、イノベーションでもあるが、NFTに否定的な人は、これはリスクであり、下手をすれば住む家さえ失う可能性もあると考える。いずれにしても、詹婷怡は慎重かつ楽観的に向き合うべきだと考える。「テクノロジーの応用は、もともと多元的な可能性を持つものです。良い面を伸ばすにはどうすればいいかを考え、法的環境を整える必要があるでしょう」と言う。NFTブームの中、参加しないという選択はできるが、メタバースの到来を避けることはできない。何も考えずにここに入っていくのか、それともより良いアプリケーションを創造するのか。これからのネットの世界がどうなるか、若い世代にかかっている。


天官武財神の趙公明が黒虎に乗る。このNFTを購入すれば神のご加護が得られるとされ、信者に人気を博している。(北港武徳宮提供)


台湾風フライドチキンのNFTは海外のタコスのNFTに負けておらず、本格的な台湾の味を表現している。(師園ئQ٦p鶏提供)

NFTはデジタル製品に革命を起こした。NFTアートそのものにコレクションの価値があり、さらに金融資産としての価値もあるというので、アートの世界を変えつつある。
