台湾茶文化の記憶
すでに定着しているコーヒーやワインの評価体系に対して、台湾の茶文化は西洋人にとっては見慣れぬ世界であり、台湾人自身も台湾茶のことをよく知らないことが、台湾茶文化推進の上での壁となった。「台湾茶に関する既存の資料は散在しているため、推進にとりかかる前に、まずこれらの知識を系統だててまとめ、翻訳する必要があります」と陳孝溥は言う。それは台湾茶文化の記憶のデータバンクを構築するような作業である。
茶文化に関する膨大な資料を整理するため、彼らは文献の翻訳とデジタル化を進めた。
それと同時にウィキペディアにおいて台湾茶に関する語彙を確立して「台茶字典」を編纂し、専門用語の英訳も進めている。だが、翻訳に当たっては常に困難に直面する。
陳孝溥は次のような例を挙げる。「現在、茶葉のコンクールには一定の評価基準が設けられていますが、その評価方式が、台湾人でなければどういう意味なのかわからないのです」
例えば、非常に強い茶の香りは「香気穿鼻(香気が鼻を穿つ)」と表現する。「しかし、台湾文化の中にいなければ、これがどんな意味なのかわかりません」と語る陳孝溥は、もう一つ説明が困難な単語として「回甘」を挙げる。この二文字には深い意味が込められているのだが、西洋人には詳細に説明しなければならない。「香気穿鼻とは、鼻腔の後方に強い香りを感じること。『回甘』はsweet aftertasteとなり、喉を通ってから風味が戻ってくる、と説明しなければなりません」こうした説明も、まだ妥協の産物なのである。
東洋人は「茶韻」と言って、茶を楽しむ経験全体を重視するが、西洋人は茶の風味を重んじる。欧州台湾精品茶学会は、この両者をつなぐプラットフォームを構築し、台湾茶を世界に広めたいと考えている。