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グローバル・アウトルック

西洋に台湾茶文化を紹介する

西洋に台湾茶文化を紹介する

——欧州台湾精品茶学会

文・蘇晨瑜  写真・林格立 翻訳・山口 雪菜

11月 2021

百年以上前に台湾からは欧米に茶葉が輸出されていた。「フォルモサ・ウーロン」という美しい名で呼ばれ、茶のシャンパンと称えられていた。

清の末期に淡水の港が開かれ、スコットランドの商人ジョン・ドッドが台北の大稲埕に宝順洋行を設立した。先見の明のあった彼は2隻のクリッパー船を借り、台湾の上質の烏龍茶127.86トンをニューヨークに輸出した。

高速のクリッパー船は海賊を避けて無事に海を渡った。そして届いた台湾茶は「フォルモサ・ティー」と呼ばれ、ニューヨークの上流階級に愛された。

 

フォルモサ・ティーはかつて東洋を代表する高級茶で、Formosa Oolongとプリントされた美しい茶缶が世界の50余ヶ国に輸出されていた。今から100年以上も前の台湾茶の黄金時代である。

しかし、世界各地の産地から茶葉が大量に輸出されるようになると「茶のシャンパン」と呼ばれたフォルモサ・ティーの輸出量は激減し、台湾茶の黄金時代は終わった。西洋人が銘茶を味わいながらフォルモサについて語り合う姿も過去のものとなったのである。

西洋に台湾の高級茶を紹介

2021年、ドイツ在住7年になる陳安吉は、台湾茶の愛好家数人とともに欧州台湾精品茶学会(以下、学会)を設立し、権威ある台湾茶葉学会と協力意向書を交わした。ともに台湾茶の知名度を高めるために、台湾の茶文化を欧州に紹介することが目的である。

茶を愛する陳安吉は、台湾の豊富な上質の茶を再び西洋人に紹介したいと考えた。そうした中で「ワインやコーヒーなど、西洋で普及している飲み物に比べ、台湾茶(アジア全体の茶を含めて)の客観的な評価体系が充分に整っていないことに気付きました」と言う。

西洋人に台湾茶を紹介したいなら、まず考えなければならないことがある。「その茶文化の中で暮らしたことがない人に、どのように客観的に茶を描写するか、です」と陳安吉は指摘する。

学会副会長の陳孝溥はさらに説明を加える。学会としては、茶器の種類も重んじるような葉茶について「その背後の文化的意義や、なぜそのように淹れるのか、また味わう上での重点なども考えていきたいのです」

西洋人に台湾茶を広める活動を行なっている欧州台湾精品茶学会は、客観的な評価方法で台湾茶の味や香りを伝えようとしている。

台湾茶文化の記憶

すでに定着しているコーヒーやワインの評価体系に対して、台湾の茶文化は西洋人にとっては見慣れぬ世界であり、台湾人自身も台湾茶のことをよく知らないことが、台湾茶文化推進の上での壁となった。「台湾茶に関する既存の資料は散在しているため、推進にとりかかる前に、まずこれらの知識を系統だててまとめ、翻訳する必要があります」と陳孝溥は言う。それは台湾茶文化の記憶のデータバンクを構築するような作業である。

茶文化に関する膨大な資料を整理するため、彼らは文献の翻訳とデジタル化を進めた。

それと同時にウィキペディアにおいて台湾茶に関する語彙を確立して「台茶字典」を編纂し、専門用語の英訳も進めている。だが、翻訳に当たっては常に困難に直面する。

陳孝溥は次のような例を挙げる。「現在、茶葉のコンクールには一定の評価基準が設けられていますが、その評価方式が、台湾人でなければどういう意味なのかわからないのです」

例えば、非常に強い茶の香りは「香気穿鼻(香気が鼻を穿つ)」と表現する。「しかし、台湾文化の中にいなければ、これがどんな意味なのかわかりません」と語る陳孝溥は、もう一つ説明が困難な単語として「回甘」を挙げる。この二文字には深い意味が込められているのだが、西洋人には詳細に説明しなければならない。「香気穿鼻とは、鼻腔の後方に強い香りを感じること。『回甘』はsweet aftertasteとなり、喉を通ってから風味が戻ってくる、と説明しなければなりません」こうした説明も、まだ妥協の産物なのである。

東洋人は「茶韻」と言って、茶を楽しむ経験全体を重視するが、西洋人は茶の風味を重んじる。欧州台湾精品茶学会は、この両者をつなぐプラットフォームを構築し、台湾茶を世界に広めたいと考えている。

東西で違う風味の認識

西洋では客観的、科学的な評価が重んじられ、味や香りに関する評価の方法が整っている。一方の東洋では「茶韻」と呼ばれる全体の雰囲気や、一杯の茶をどう味わうかが重んじられる。

また、台湾の評価方式は「台湾的」過ぎ、台湾特有の野菜や植物の風味にたとえることが多い。そこで陳安吉は、欧州で馴染みのあるハーブや野菜果物の味や香りにたとえて説明する必要があるのだと言う。

例えば、ドイツは白ワインが有名なので、ドイツ人が白ワインを評価する時に、季節や風味、印象などを論じるのに倣って台湾茶を形容することにした。例えば、味わいの似ている春のホワイトアスパラガスで包種茶を形容するなどだ。

台湾の上質な烏龍茶を楽しむ茶会で、茶を味わい茶を論じる。欧州台湾精品茶学会のメンバーは、米国女性クラブのハンブルク支部や台湾ハンブルク女性クラブの幹部とも交流し、充実したひとときを過ごした。(欧州台湾精品茶学会提供)

地域によって異なる推進方法

西欧の人々はよくお茶を飲むが、多くの場合はティーバッグで、茶葉そのもののことはよく知らない。逆に東欧では茶葉から淹れることが多い。こうした点からも陳安吉は地域によって紹介方法を変える必要があると考える。例えば、厳格なドイツ人には茶の科学を語り、フランス人には茶とスイーツの組み合わせなどを紹介する。

彼女はポーランドやチェコで、茶の味が分かる達人に出会ったことがある。「こういう人には細かい説明は必要なく、座ってゆっくりとお茶を楽しめばいいのです」と言う。

欧州台湾精品茶学会のメンバーは、2021年8月に初めて駐独の謝志偉・大使を訪問し、台湾烏龍茶を味わってもらった。(欧州台湾精品茶学会提供)

400年の台湾茶文化

現在、学会は茶文化の概念の輸出に力を注ぐだけでなく、ヨーロッパ現地の芸術フェスティバルや文化フェスティバルに積極的に参加している。例えばハンブルク美術工芸博物館には「台湾茶文化の日」を申請し、ベルリン・ティー・フェスティバルとハンブルグ文化局とともにさまざまな企画を打ち出している。また、東方美人茶に関してはEUの地理的表示保護(PGI)と伝統的特産品保証(TSG)の申請にも協力している。

陳安吉は、台湾茶の中でも東方美人茶はEUの認証を取得できる可能性を持っていると考える。東方美人茶の主な産地は新竹と苗栗の一帯で、茶葉はウンカという虫に噛まれることで、蜜やフルーツのような甘い香りを持つようになる。これが認証を取得できれば、EU市場での販売促進と流通にも有利になり、台湾高級茶の世界的な知名度向上にもつながる。

初心に返ると、陳安吉が台湾の茶文化推進を始めたのは海外で暮らす台湾人としてのアイデンティティのためであった。「自分は誰なのか、台湾茶とは何か、その特徴はどこにあるのかを人々に伝えたいのです」と言う。

仲間とともに台湾の上質の茶を紹介し、茶を通して物語を語る。陳安吉は、これからも自ら茶文化大使を務めていきたいと語る。「私たちが語りたいのは、台湾人や台湾茶、そして台湾社会のこの400年の物語です」台湾茶は素材として豊かな物語を持ち、「この400年の出来事はそれだけで豊富で壮大なのです」と言う。

 

台湾茶はおいしいだけではない。茶にまつわる文化や茶館、そこから広がる自由な思想は台湾の民主化においても重要な役割を果たしてきた。

台湾の製茶技術は世界をリードしており、EUの認証を取得できれば、さらに知名度を高めることができる。