心の伴侶を得て
柯彼得は登山家を目指しているのではなく、医療の合間に山に登るのが楽しみなのである。2002年にはエベレストの標高4500メートル地点にある診療所で3ヶ月にわたってボランティア診療を行なった。「高山が見えるところで診療できることほどうれしいことはありません」
この診療所には小さなオーブンがあり、王媛玲はパイナップルの缶詰を使ってケーキを焼いた。診療所はエベレスト登山のルート上ではないが、ケーキが食べられるというので多くの著名な登山家がわざわざ訪ねてきた。例えば、初のエベレスト無酸素登頂を果たしたピーター・ハーベラーや、エベレストに連なる世界第四高峰のローツェ初登頂に成功したワリー・バーグらである。
2002年、柯彼得は台東キリスト教病院に移り、救急・外来担当として1.5人分働いた。それでも病院に長期休暇を申請し、砕氷船の船内医としても勤務してきた。妻を連れて5年連続、南極圏や北極圏、アラスカなどの極地を巡った。「私は妻と一緒にいるのが好きなので、彼女を連れていきました。さまざまな砕氷船に乗り、世界最大の原子力砕氷船にも乗りました」と言う。
「台湾に戻るとうれしくなります。台湾は何もかもすばらしくて、天国ですよ。それなのに多くの台湾人はそれに気づいていません。景色もよく、安全です。オーストラリアのように薬物中毒の人が盗みをはたらき、中古品市場で売りさばくこともありません。台湾には中古品マーケットがあまりありませんから」と言う。
2008年の台風8号(モーラコット)による八八水害では、南廻の鉄道と道路が被害に遭い、多くの先住民集落が外部との交通手段を失って孤立してしまった。柯彼得と台東キリスト教病院の医療団はヘリで達仁郷土坂村に飛び、緊急医療救援を行ない、災害直後に被災者のニーズに応え、住民の心を支えた。
台東キリスト教病院は、台東のがん患者が治療のために苦労して病院通いをしなくて済むよう、がん治療病棟建設のための資金を集めており、目標まであと5000万元となっている。
だが、柯彼得はより深刻な課題を指摘する。病院施設の建設は容易だが、問題は僻遠地域での医療に携わろうという医師が集まるかどうかなのである。これまでも多くの医師が2〜3年で去っていった。台湾の国民皆保険制度は非常によくできていて公平だ。お金のあるなしにかかわらず、誰もが質の高い治療を受けられる。しかし、患者は小さな病気でも大病院へ行きたがり、医師の専門分野も細分化が進んでいる。例えば、ただの風邪なのに循環器科の医師に診てもらったりすると、その医師の専門は心臓カテーテルで、その専門的視野からしか診られない可能性もあるのだ。
常にマイペースの柯彼得だが、台湾の健保制度の課題について語り始めると表情は厳しくなる。「このような問題を解決するには海外に学ばなければなりません。第一線の『かかりつけ医』が簡単な婦人科や外科の治療もできるようにし、重症患者だけが大病院に行くようにしなければ、医療資源の浪費は避けられません」と語る。
柯彼得と妻の王媛玲は北極や南極も訪れた。(柯彼得提供)