遥か見知らぬ土地で
故事書屋を設立した陶氏桂さんの嫁ぎ先は、花蓮駅の近くで民宿を経営している。10年余り前に民宿がいつも満室だった頃、姑の蘇玉桂さんは五十肩を患って客室の清掃がつらくなり、息子に早く嫁をと考えた。息子の劉志中さんは無口で結婚はすまいと考えていたが、母親の苦労をおもんばかり、知り合いの紹介でお見合いして陶氏桂さんと結婚することになった。
20歳になったばかりの陶氏桂さんが台湾に来た時、華語はまったくできなかった。「9月9日に台湾に到着、2日後には姑に連れられ、花蓮明義小学校が開設していた華語コースに通うことになりました」そこで多くのベトナム人女性と知り合った。「皆がよく面倒を見てくれ、先生も熱心に教えてくださるし、居心地がよくてホームシックにもなりませんでした」
台湾に来て民宿のおかみになったものの、客の言葉がさっぱりわからず、困り果てた陶氏桂さんは毎日単語を40~50個覚えることを自分に課した。すると3カ月後には宿泊客とコミュニケーションできるようになっていた。
そんな姿を見た義理の両親は彼女に新たな提案をした。「新住民(結婚で海外から来た人)」のためのサービスセンターがYWCAにあるので、そこで電話を受けるボランティアをすればいいというのだ。自動車免許の取得方法を説明したり生活上の様々な問い合わせに答えるサービスだった。
ドメスティックバイオレンスの訴えなどを聞くと、陶氏桂さんは自分の幸せを感じずにはいられない。「誰でも私のように台湾に来てすぐ華語を学ばせてもらえるのだと思っていました。義理の両親には『こんなに私によくしてくれるなんて。私を叩いたり怒鳴ったりもしないし』と冗談っぽく言ったほどです」彼女は義理の両親を「お父さん」「お母さん」と呼び、「嫁ではなく、自分の娘のように接してくれます」と言う。
「義理の父はこう言います。『華語を学びに行くのは学校教育、ボランティアは社会教育、それに家庭教育もある』と」また義理の両親はベトナムの伝統も尊重してくれる。食事の前には必ず「おじいさん、おばあさん、お先にどうぞ」と言ってから食べ始めるベトナムのマナーを、家庭教育にも取り入れてくれた。
越南故事書屋の絵本はブッククロッシングの概念で市民に貸し出している。(林格立撮影)