1990年代からのハラール認証推進
イスラム教の教義には、アルコールや豚肉の摂取の禁止のほかに、衣食住や旅行に関する多くの規則がある。例えば、食べる家禽や家畜は『イスラム法』に従って処理されなければならず、調理用品や食器の使用にも厳格な規定がある。
1990年代から、台湾の食品業者は輸出時の必要性から地元のモスクにハラール認証を求めるようになった。現在台湾でハラール認証を行なっている機関は、中国回教協会、台北清真寺(モスク)、台湾ハラール産業品質保証推進協会、台湾イスラム協会、イスラム商務発展有限公司、海外のハラール認/検証機構の台湾代理などがあり、台湾でハラール認証を受ける食品は増えている。
旅行は現地の料理を楽しむ最高の機会だ。台湾生まれの牛肉麺は、観光客が必ず食べたがる名物の一つだが、台北駅と西門町にほど近くに「張家清真黄牛肉麺館」がある。開業60年を超える同店の看板には「Halal」と書かれ、ハラール認証を受けていることがわかる。店内には「天下第一麺」と大きく書かれたポスターが貼られ、客の評価なども書き込まれている。
取材に赴くと、2代目でイスラム教徒の張亜珍さんが忙しそうに水餃子を作っていた。5秒で1個、1日に少なくとも1500個は作ると張さんは言う。調理場の鍋には「白湯」と「紅焼」の2種類のスープが用意されている。白湯は牛骨をウイキョウや桂皮、八角、花椒などと煮込んだもの、 紅焼は、当店オリジナルのラー油による味付けだが、少量の砂糖を加えて辛さを抑えている。近年開発した「牛肉捲餅」は、焼いたクレープ状の生地で牛肉を巻くほか、卵と甜麺醤も加えるのでボリュームがある。また「牛腩(牛バラ)麺」はしっかりした肉質で、 牛肉捲餅とともに人気メニューだ。夕食時や休日などいつも満席状態で、口コミでやってくるムスリム観光客も多い。
張家清真黄牛肉麺館のメニューはいたってシンプル。牛肉メニューの紅焼(スパイシー味)、清燉(あっさり味)、筋肉入り、ぶっかけのほか、牛肉を入れない麻醤麺(ゴマと香辛料味)や酸辣(サンラー)麺、沙茶(サテ味)麺などもある。牛肉はニュージーランドとオーストラリアから輸入のハラール認証を受けたものだ。
「スープをおいしくするには、骨を長時間煮込んで、スパイスの風味を肉に馴染ませなければなりません」と張亜珍さんは言う。その味に魅了されて、海外で支店を開けばと提案してくれる観光客もいるが、すでに人手が足りず、分身が欲しいと思うほどだ。
飲食店だけでなく、町の至る所にあるコンビニでも温かいハラールフードが食べられる。昨年ファミリーマートはムスリムフレンドリーな食品を意欲的に開発。店内のムスリムフレンドリー商品コーナーを拡大し、ムスリムのための調理済み食品も置く。焼き芋や茶葉味ゆで卵のほか、マレーシアのハラール認証を受けた東南アジア風のトムヤムおでん「馬尚煮」もあり、半年も経たないうちに台湾全土に拡大し、155店舗以上がムスリムフレンドリー商品を扱っている。
取材班は、台北101ビルの地下1階にあるファミリーマートを訪れた。店内のムスリムフレンドリー商品コーナーには、ハラール認証を受けた飲料水、台湾のカップ麺、ドライフルーツ、ビスケット、チョコレート、ご飯、パン、ドリップバッグ・コーヒー、スナック菓子、チューインガムなど51品目がそろっているという。「このコーナーに並べている商品はどれも売れ筋です」と蘇淑美店長は言う。
上述のおでん「馬尚煮」は、マレーシア製で人気の魚のつみれや竹輪といった練り製品、台湾のシイタケやトウモロコシ、百頁豆腐(押し豆腐)などを、タイ風のトムヤムスープで煮たものだ。このコーナーのおかげでイスラム教徒は食事の利便性が増し、おでんを一口食べて「これぞ故郷の味」と感激する人もいると、蘇店長は言う。
エバー航空の機内食を作るエバーグリーン・スカイ・ケータリング・コーポレーション(EGSC)は、ハラール料理の専用生産ラインを設置し、2014年にハラールキッチン認証とハラール食品認証の両方を取得した。ファミリーマートは今年、EGSC製のハラール冷凍食品3品目と機内食のバターパンを販売している。3品目はそれぞれチキンパテのターメリックライス添え、インドカレーフィッシュのスパイスライス添え、コルマチキンのジャスミンライス添えで、コンビニ食品も高品質になり得ることを示した。
イード・アル=フィトル会場のハラール料理を売る店には長い列ができた。(郭美瑜撮影)