「殺很大」というコマーシャルのキャッチコピーで、オンラインゲーム「殺online」が全国で知られるようになった。「殺很大(大きく殺す)」という、文法的におかしくてバカバカしい表現が大流行し、「輸很大」とか「拗很大」といった表現も次々と生まれ、しばしば耳にするようになった。
中には「殺很大という言葉を聞くたびに、火很大(はらわたが煮えくりかえる)」と抗議する人もいるほどだ。
だが、こういう流行語を評価する人もいる。詩人の陳黎は、この表現には新鮮味があると述べる。「既存の言語表現を打破し、聞き慣れないものに対する新鮮さをもたらす。詩の言葉のように、絶えず人々に向かって撥ねてくる」と。
最近の流行語は、ネット上でのやり取りやコピーなどで急速に広まる。これらの言葉は、非常に「山寨;」(本来は賊の棲み家、山の砦の意味。現在は、海賊版、あるいはブランド品と同等の機能を備えた無名メーカーの安いデジタル製品などを指す)的であったり、「雷人」(雷に打たれるように衝撃的)だったり、あるいは「很黄很暴力」(煽情的で暴力的)だったりする。しかし、これらは特定の地域の特定の時代の感覚や社会の雰囲気を反映しており、その影響力を軽視することはできないのである。
「言語は架け橋であり、また歴史的記憶の倉庫でもある。我々の文化的習慣や思考の論理はすべてそこに沈澱している。だからこそ最低限のコミュニケーションと理解の可能性が保障されているのである」
―南方朔『言語は我々の居所』

「ロリコン」――漫画やアニメの影響で美少女のフィギュアが流行し、ファンの間で人気のコレクションアイテムとなっている。
言葉のスパイス
流行語は広く使われる通俗的な言葉で、表現力と感染力を備えている。
詩と散文で知られる名作家の余光中は、新聞のインタビューを受けた際、自分も「粉絲」(ファン)や「high」などの流行語を選択的に使うと語った。「凸槌」(失敗)や「趴;趴;走」(あちこち歩き回る)や「轟趴;」(ホームパーティ)などに比べると、粉絲は可愛らしいからだという。余光中は、流行語はスパイスのようなもので、適度に用いれば味わいが増すが、使いすぎると食えない代物になると考える。
テレビに出てくるタレントは口を開けば流行語を使うが、時には政治家も国民との距離を縮めるために使う。
今年4月、台中市の胡志強市長は、世論調査の支持率が高いことから、台中市の直轄市昇格を中央政府に早く決めるよう求めるべきだと議員から建議された。その時、胡市長は支持率が高いのは「殺很大」で、メリットはないと笑った。

「殺很大」――「殺」という文字の威力が最大限に発揮され、人々を驚かせている。
「炒飯」の別の意味
流行語の多くは、同じ時代や同じ地域に住む人々の間でのみ面白く感じるものだ。
台湾では選挙のたびに「凍蒜」(「当選」の台湾語発音の当て字)の掛け声が聞かれる。台湾語の発音が流行語となった事例である。
また「炒飯」という言葉は、男女の情交の代名詞として広く使われているが、その由来を知る人は少ない。
「炒飯」については笑い話がある。ある男性が一年間海外に行くことになった時、妻は彼に、生理的に必要な時は他の女性と性的関係を持っても構わないと言った。夫は妻に感謝し、妻にも同じことを許し、1回につき米1粒を瓶に入れておこうと約束した。
1年後に帰国した男性は、米が3粒入った瓶を妻に見せ、妻も自分の瓶を取り出した。それが空っぽだったので男性が喜んでいると、使用人が炒飯を手に入ってきて「お米がなかったので、奥様の瓶の米を使って作りました」と言ったのである。
男女関係を討論するあるテレビ番組で、露骨な表現を避けるために「炒飯」を隠語として使うことにしたところ、それが広く受け入れられ、台湾では「炒飯」に別の意味が込められるようになったのである。
「打醤油」
大陸や香港との往来が盛んになったが、文化的背景が異なるため、流行語も異なる。「八卦」(ゴシップ)や「小強」(ゴキブリ。周星馳の映画「唐伯虎点秋香」から)などは香港生まれで台湾でも使われている流行語だ。だが「港女」(拝金主義でナルシスト、自分は特別だと思っている香港女性)や「俯臥撐;」(腕立て伏せ。貴州の少女が暴行され殺害された事件の被疑者が、自分は腕立て伏せをしていただけだと主張したことから「自分とは無関係」という意味で使われる)や「売飛仏」(my favoriteの広東語の当て字)などは、台湾人には面白味が分からない。
台湾の一番の流行語が「殺很大」なら、大陸のそれは「打醤油」(醤油を買う)だろう。
これは、テレビの街頭インタビューを受けたある市民のおかしな答えから始まった。広州のテレビ局が街頭でスターのヌード写真について市民に尋ねたところ、ある男性が「俺には関係ない!俺は打醤油(醤油を買いに行く)ところなんだ」と答えたのである。この「醤油男」の「醤油論」がネットで広まって大いに受け、多くの人が自分に無関係なことを「打醤油」と言うようになった。
2008年に中国で選ばれたネットの十大流行語のトップ3は台湾でも使われている。
1位は「山寨;」。山寨;携帯から始まって、今では何でも山寨;版が手に入る。山寨;というのはもとは広東の方言で、海賊版やコピー商品のことを指したが、それが「草の音が権威に抵抗し、大衆がエリートに対抗する」という意味合いを持つようになった。
2位は「雷」だ。雷はもともと名詞だが、これを動詞や形容詞などとして使うのが流行っており、大きなショックや驚きを表わす。「很雷」(衝撃的)や「被雷到」(驚かされる)などと使う。
3位は「囧;」だ。これはもともと「明るい、光る」といった意味の古い漢字だが、この文字が、眉をしかめた悲しそうな顔のように見えるため、憂鬱や悲しみ、無言などを意味する記号として使われ始めた。「21世紀に最も流行している漢字」と呼ばれている。
仏心が来た!
テレビは流行語の発信地であり中継地でもあり、そこから生まれた言葉は多い。
アーティストのジェイ・チョウ(周杰;倫)が頻繁に使う「很屌;」(すげえ)や、「很瞎」(めちゃくちゃ、でたらめ)などはメディアを通して広まり、若者の間に普及している。
「仏心が来た」(心が優しい)というのは、王偉忠がプロデュースするバラエティ『全民大悶鍋』の中で、アップル・デイリー発行人の黎智英を真似た香港式の表現だ。
「丁丁」というのは、有名な幼児番組『テレタビーズ』に登場するティンキーウィンキーの中国語名だ。ティンキーウィンキーは、おっとりしていて動くのも話すのも遅いので「お前は丁丁だな」「丁丁は天才だよ」などと皮肉に使われる。
日本のアニメの影響を受けて「ロリータ」「ロリコン」という言葉も入ってきた。ロリコンは未成年の女子に対する偏愛を表現する言葉で、ロリコンの「コン」が「好き」という意味に使われる。台北の男子高校生の間では、中山女子高の女子生徒に憧れる「中山コン」や、景美女子高に憧れる「景美コン」などのグループに分かれるという。
カードゲームや漫画から生まれた「いい人カード」という言葉も流行している。ゲームでは、好きな女性のためにどんなに自分を犠牲にしていても「いい人カード」を引くと、完全に打ち負かされる。現実の生活では、プロポーズされた女性が断る時、よく「あなたはいい人だから、きっと私よりふさわしい人がいるはず」と言う。つまり「いい人カード」は失恋を意味するのである。
「咖;」(カーと読む)は英語のキャストの意味で使われ、テレビなどで流行している。キャスティングや役割の意味で、A咖;は大スターや重要な役割、B咖;はその次のランク、C咖;と言えば、あまり重要ではない役割を指す。
台湾語の奇妙な当て字
「肛温!」という文字を初めて見た人はぎょっとするだろうが、これが台湾語の「感恩」(感謝)の当て字だと知ると思わず笑ってしまう。
このように台湾語訛りの発音の当て字は多い。例えば「很」は「粉」と書き、「我」は「偶」、「是」は「素」、「去」は「企」、「吃」は「粗」、「同学」は「童靴」などと書く。いずれもネット上で広く使われる。
ネットで使われる造語には一般の人にも分かるものもあれば、一部の人にしか理解できないものもある。例えば「砍;掉重練」というのは、古い自分の役割を切り捨てて、新しい役割に変えることだ。また「郷民」というのは、群衆と一緒に騒ぎ立てるのが好きな人を指し、これも周星馳の映画『九品芝麻官』から来たものだ。
ネット上に文章を書いて人と議論することは「灌水」と言い、自分では意見を書かずに他人のやりとりだけを見る人のことを「潜水」と呼ぶ。中国では、最初にレスポンスを書いた人は「ソファー」に座り、2人目は「椅子」、3人目は「木の腰かけ」、4人目以降は「床」に座ると言う。
香港のネットユーザーが使う流行語は台湾でも馴染みがある。「潜水」というのは責任を逃れて隠れること、「滴汗」は気まずい、反論できない、どうしたらいいのか分からないという意味、「神級」はオンラインゲームで誰にも到達できないレベルに達したことを言う。
流行語は、若者が生み出し、アイデンティティを感じるサブカルチャーで、調査によると、使用頻度がもっとも高いのは中学高校の男子生徒だ。
高雄の英明中学の生徒数名が調査したところによると、ネット作家の九把刀(柯景騰)が青少年に人気があるのは、その作品に「熱血」や「屌;」といった若者のサブカルチャー言語が使われているからだという。
九把刀本人は、こうしたサブカルチャー言語が自分の作品の人気の理由だとは考えていないが、日常の言葉を使っている点がその作品の大きな特色だと認めている。
「殺し屋は、比べるもののないほど自由に、最も猛々しい熱血をもって涙を止めた」という具合に、九把刀は頻繁に「熱血」という言葉を使う。真新しい言葉ではなく、特に刺激的な文字でもないが、シンプルで感じがよく伝わる。実際のところ「熱血」は九把刀の文章スタイルであり、口癖でもあり、彼の性格でもある。
どの世代にも流行語がある
著名な作家の張大春は、若い世代が新鮮な言葉で自分たちと上の世代との違いを示そうとすることは非難するようなことではなく、大騒ぎするほどのことでもないと言う。
張大春は「火星文(ネットスラング)をなぜ救う?」という文章で、自分も中学生の頃は仲間と一緒に独自の言葉を作っていたと言う。彼らは化学元素を表わす「琺」(フランシウム)という文字を、活発でやんちゃという意味に使い、「お前、ちょっと『琺』過ぎないか」などと使っていたという。
「世代とともに流行語も変わるだけ」と語る張大春は、若者の流行語を恐れる必要はないと言う。今の流行語も、いずれは次の世代の新流行語に取って代わられるのである。
文化評論家の南方朔は、言語と語彙は歴史の産物だと考える。現代思想家のエルネスト・ラクラウは、「一つの言葉が反応を呼び起こせなくなった時、人々は、その言葉が代表する時代が終わったことを知るべきだ」と述べている。
現代の言葉は、少し「山寨;」で「雷」かも知れないが、それでも非常に「熱血」であることに違いはなさそうだ。