移住労働者のニーズを知る
IBU厨房のもう一つの名前は「冬瓜山書店」だ。書棚には「燦爛時光冬山文庫」の看板が置かれており、ここが燦爛時光書店の精神を受け継いで、古本の「貸し出しのみ」を行なっていることがわかる。
自由に本を読めるだけではない。移住労働者の台湾での生活や仕事上の問題を解決するという趣旨から、毎週水曜日には外国人介護士のための中国語の授業、土曜日には工場で働くインドネシア人のための中国語の授業を行ない、仕事で使う言語の学習に協力している。これらの授業のために、宜蘭市や三星郷からタクシーで来る人もいる。スマホばかり見ているより、生活を充実させられるからだという。
こうしたニーズを理解できるのは、黄燕妮さん自身が同じ経験をしてきたからだ。スマトラ出身の彼女は、半分は華人の血を引いており、華人排斥事件が起こる中で成長した。台湾に嫁いできたばかりの頃は言葉も通じず、金目当てで台湾に来たのだろうと、近所の人から差別もされた。そうではないことを証明するために、彼女は家計を支えるために働き、小学生の息子とともに中国語の発音記号から勉強して卒業証書も得た。中国語も台湾語もできるようになった彼女は、移住労働者の通訳という仕事に就き、自信をもって働くようになった。
「インドネシアに住んでいた頃、私は華僑なので現地のインドネシア人を見下しているところがありました。でも、通訳を始めてから、台湾人はなぜこれほどインドネシア人の漁船員に関心を寄せるのか考えるようになり、私こそ同胞に関心を寄せなければと思うようになりました」と気持ちの変化を語る。
台湾人家庭で介護士を務める移住労働者を研究する梁莉芳さんによると、結婚で移住してきた人も含めると、台湾の人口の30人に1人は新住民または移住労働者だが、台湾社会で彼らは見えにくい存在だと言う。彼女が学生とともに訪問調査をしたところ、新住民や移住労働者は異郷で孤独を感じていて、コミュニケーションにも壁があるため協力が必要だということが分かった。冬瓜山書店を通して、彼らのための新刊発表会を開いたり、インドネシア語のコンサートを開いたりするなど、東南アジア研究の傍ら、梁莉芳さんは実践を通して人々を助けている。
黄燕妮さんの大学生の息子さんは彼女にインドネシア語を学び始めたそうだ。彼女の人生の旅路において、台湾は異郷ではなくなり、夢を実践でき人助けができる故郷となったのである。
「燦爛時光冬山書棚」の札が置かれ、東南アジアの各種言語の書籍を移住労働者に貸し出している。
台湾大学華語教学研究所で学んだアメリカ人教師ジョエル・シェヴリエさんが、インドネシアから来た介護士にボランティアで中国語を教えている。(冬瓜山書店提供)
冬瓜山書店が開催したイベント「小旅行を越えて——冬山から東南アジアへ」ではタイ舞踊が披露された。(冬瓜山書店提供)
冬瓜山書店とIBU厨房は、料理と書籍を通して東南アジア出身の 労働者や新住民のニーズに応え、交流の場を提供している。