「春日の春盤に細い生菜、両京の梅発する時を憶う勿れ」--唐・杜甫〈立春〉
フードライター陳静宜の『喔!台味原是如此』には「潤餅(台湾風春巻き/ルンビン)は文字のない家系図のように、あなたのルーツを記録している。あなたが誰で、どこから来たのか、占い師に聞く必要はない。潤餅を一口食べればすぐに分かる」とある。
台湾では、自分の家で潤餅に何を包むかで、家族のルーツが分かる。潤餅を作らない家なら閩南人ではない可能性がある。だが、マレーシアやシンガポールの華人なら、この話題に加わるかも知れない。彼らも潤餅を食べるからだ。
シンガポールから旅行に来た蔡紹恩は、早朝に台北市永楽市場にある林良号潤餅店の行列に並び、一口食べて「おいしい」と声を上げた。「林良号の潤餅はおいしいです。しょっぱすぎず、野菜は甘みがあり、肉は歯ごたえがあります」。シンガポールにも潤餅があり、「薄餅(Popiah)」と呼ぶが、ムスリムのマレー人が多いことから、肉を入れないものが多いそうだ。
金得春巻は羽根つきで、鍋で軽く焼いてくれるので香ばしさが加わる。
移民のルーツがわかる潤餅
台湾では潤餅(lūn-piánn)と呼ぶが、金門では「拭餅」と呼ぶ。中国や東南アジア各地で調査をしている台湾料理作家の陳静宜は「潤餅から移民のルーツがたどれます」と言う。福建省の漳州では「潤餅」、厦門(アモイ)では「薄餅」、また泉州では具材が豊富なので「潤餅菜」とも呼ぶ。シンガポールやマレーシアでは「薄餅」と言い、この料理はインドネシアの世界文化遺産にも登録されていて、至る所で売っている。
「インドネシア政府は、潤餅は華人の食べ物であると同時にインドネシアの一部だと考えています。かつてここを植民地支配していたオランダにも伝わっていて、loempiaと呼ばれて人気があります。潤餅が最も西まで伝わった事例と言えるかもしれません」と陳静宜は言う。

豊富で多様な具材
潤餅に包む具材は豊富で、それぞれに調理方法がある。豆干(硬い豆腐)は香りよく炒りつけ、もやしは湯通ししてからシャキシャキに炒め、ニンジンは油で炒めて甘みを出す。
「どの材料にも、それを入れる理由があります」と陳静宜は強調する。潤餅の皮を広げ、まずピーナッツ粉を敷くのは、野菜の水分が皮に浸みないようにするためだ。メインは肉、豆干、錦糸玉子、ニンジン、セロリ、香菜、ニラなどで、刻みネギは仕上げの香り付けに加える。
ライマメ(リマ豆)を入れるという人は、台南出身である可能性が高い。台南ではカニ肉やエビ、カラスミを包む家もある。
嘉南平原など農業の盛んな地域では、潤餅に中華麺などを包むが、台南市内ではそれはしない。台中の「楊清華」三代目の楊才生は、潤餅と一緒に焼きそばを買っていく人を見たことがあるそうだ。その人にとっては、潤餅には焼きそばという組み合わせが定番なのであろう。

海の幸、山の幸
人々が台湾に移住してくる途中で、潤餅にも各地の物産が包まれるようになった。陳静宜によると、台湾の潤餅に粉状の海苔をかけるのは、厦門のアオサの名残りで、日本統治時代に受け入れられた海苔に変わったという。
特徴的な潤餅もある。具材の半分がニンジンというのは泉州潤餅のトレードマークで、厦門のものは、さまざまな具材を一緒に炒めてしっかり味をつけてあり、そこにライマメの歯ごたえを加える。現代版には衣をつけて揚げた牡蠣が入っていることもある。
紅糟(紅麹を用いた調味料)で味付けした肉を包み、モヤシをたくさん入れるのは福州の潤餅の特色だ。春から夏にかけては、食物繊維の多いモヤシは身体に良いからだと言う。これらの食材は台湾の潤餅でもよく使われている。
台湾の潤餅に入れる蛋酥(溶き卵を揚げたもの)は、野菜の中に旨味を加える働きをする。今年、マレーシアの食文化に関する2冊目の本『我説福建麺,你説蝦麺』を出した陳静宜は、マレーシアのマラッカの華人が、ラードを作った後の豚の脂身を入れるのも同じ道理だと言う。
「私が一番ユニークだと思ったのはペナンの『娘惹金杯(パイティー)』です」と彼女は言う。カップ状の形に小麦粉の生地を流し込んで揚げ、そこに具を入れたもので、これも潤餅が変化したものだと思われる。
その話によると、インドネシアの潤餅の特色は薬味皿がついていることだ。甘いソースやトウガラシ、おろしニンニクなどが添えられる。
フードライターの陳静宜は、潤餅に包む具材から家族のルーツがわかると言う。
家族そろって包む
潤餅の最大の意義は、家族が一緒に具材を調理し、包んでいただくという点にある。子供たちは、買ってきたばかりの熱々の潤餅皮を二つに折り、破れないように上手に食べる。
だが、最近は家庭で潤餅を作って食べる人は少なくなり、このままでは家族との楽しい思い出や潤餅への想いも消えてしまうのではないか、と陳静宜は心配する。
「潤餅は文字のない家系図のようなもの」と言う通り、潤餅を通して家族の特徴を作り上げることができる。さあ、私たちも地元の食材を潤餅に包み、人とのつながりを包もうではないか。
ドイツから来たMaxさん(右)は「金得春巻は今まで食べた中で一番おいしい」と言う。


台南の金得春巻は、お客の注文を聞き、甘さや辛さなどの好みによって調整してくれる。

「林良号」の潤餅にはカレー粉で風味をつけた大量のキャベツとモヤシが入っている。

