
醤油は黒いものとお考えだろうか。そんな伝統的な考えを打ち破ろうというのが、嘉義布袋にある新来源醤園だ。70年余りの歴史を持つ伝統醸造法を守りながら、時間をかけてじっくりと醤油を手造りし、醤油の新たな風味を模索している。
嘉義の布袋には、いつも太陽が照りつけている。9月上旬は雨も少なく、風には海の香りがわずかに感じられる。蕭家の「新来源醤園」は、路地を幾度か曲がった奥にある。醤油甕のずらりと置かれた古い家屋は伝統の三合院の作りで、蕭来旺の曾曾祖父の代から彼らはこの家で暮らしてきた。蕭家4代にわたる醤油造りの物語もここから始まる。

新来源醤園の四代目、蕭新旺は70年余りにわたって蕭家に伝えられてきた伝統の方法で、透き通った甘みのある白醤油を造る。
4代にわたる醸造物語
「私たちで4代目だったのですよ」と、笠をかぶった蕭家のおかみさんが、大豆をより分ける手を休めることなく、最新情報を提供してくれた。それまでずっと自分たちは3代目だと信じていたのだが、最近になって近所に住む90歳を超えるお年寄りが教えてくれた。曾曾祖父の代には、蕭家の作る野菜の醤油漬けが近所では評判になっていたと。
昔、雲林や嘉義の海岸沿いには塩田が多く、塩が手に入りやすことから、周辺には家族規模の小さな醤油製造所が多くあり、新来源醤園もそのうちの一つだった。今や新来源は「白蔭醤(もろみ)」や「白蔭油(醤油)」で有名となり、しかも嘉義布袋にたった1軒残る手造り醤油の老舗だが、実はその昔は、野菜などの醤油漬けで商売を起こしたのだった。
新来源が当時作っていた醤油漬けには、さまざまなものがあったが、とりわけ豆腐乳(豆腐の発酵食品)やキュウリ漬けは人気商品だった。こうした漬物作りは手間がかかり、人手も必要だ。当時は、村の女性たちは農閑期になると手伝いに来たものだったし、近所の子供たちもよく蕭家の醤園に来て、野菜の皮むきなどを手伝うことで小遣い賃を得ていた。だが、時代とともに農村は人口が流出して人手が不足し、村民が互いに仕事を手伝うといった光景も見られなくなった。人手の必要な漬物作りは次第に続けられなくなり、新来源の主力商品は、大豆で作った「白蔭醤(もろみ」」だけになったのである。

丸々とした大豆の質で白醤油の風味が決まる。
廃物利用の白醤油
現在、愛好者が多く、ネットでもよく売れている「白蔭油(白醤油)」は、蕭新旺の父が廃物利用を思いついて生まれた商品だ。蕭新旺によれば、白醤油というのはもともと、もろみを醸造する際にできる副産物で、以前は廃棄するか、或いは薄めてからほかの食材を漬けこんで調味料などとして使われていた。
新来源が主力商品をもろみだけに絞った後、大量の白醤油が出るようになったため、蕭新旺の父がふと思いついて、白醤油を小瓶に詰めて知り合いに配ったところ、とても評判がよかった。こうして新来源に、白醤油という商品が一つ増えたのである。
好評だったとはいえ、当初の販売先は一般の消費者ではなく、主に大型容器に入れたものを卸売り業者やレストランなどに売っていた。そうしたレストランで、白醤油を使った料理を食べた客たちがその味の出所を探し当て、たびたび問い合わせが来るようになった。それで透明な瓶に詰めて売るようになったのである。
そもそも同村の農村時代を振り返れば、当時も村人たちがお椀を手に蕭家にやってきて、白蔭油を入れて持ち帰り、料理に使ったり、食卓に置いたりしていた。ただ全体として使う人の数が少ないのと、作る所も少ないのとで、白醤油は一般の醤油のようには普及しなかった。「北部の人の多くは、『白醤油』と言っても、聞いたこともなかったでしょう」と言う。だが最近はインターネットのおかげで名が広まり、よく売れるようになった。

蒸した大豆に種麹を加えて発酵させる。温度が高すぎれば酸味が出てしまい、すべて無駄になってしまう。
個性のある味
では、どんなものを白醤油というのだろうか。一般の醤油とはどこが違うのだろう。
普通の醤油と同じように、白醤油の醸造も、蒸し煮、冷却、麹作り、発酵、仕込み、加熱といった煩雑な工程を経る。台湾の一般の醤油が黒豆の醤油であるのに対し、白醤油は大豆で作られる。そのため工程の最大の違いは、最後の仕込みだ。一般的に黒豆醤油はたいていが乾燥式で作られる。黒豆を発酵させて菌糸を洗浄した後、塩を加え、甕に入れて発酵させる方法だ。一方、白醤油は一定の水分を加えて仕込み、半年間置いた後、加熱して完成となる。この白醤油の味をさらに調整して再び甕に入れ、発酵した大豆を加えることで、白蔭醤が出来上がる。
黒豆醤油と作り方はほぼ同じだが、実際に味わってみると、白醤油は色、香り、味ともに、大きく異なる。
黒豆醤油が濃い琥珀色をしているのに対し、白醤油の色は薄く、開封した途端、大豆の香りがたつ。また、塩辛さでは普通の醤油とあまり変わらないが、口に入れると甘い味が舌に残る。独特の味わいなので、白醤油の愛好者は永遠にこの味を愛するが、好みでない人は永遠に好きになれない。「味に個性がありますから、好き嫌いが両極端に分かれます」と蕭新旺は言う。
白醤油は、煮込み料理や食卓に置く調味料にも適するが、とりわけ甘みがあるので、魚介類によく合う。
「でも、白醤油の長所は、短所にもなります」と蕭新旺は言う。色が薄いので煮物などに使っても食材の色を悪くしない。だが色の薄さに騙されて味が足りないと思ってしまい、多く加えて塩辛くし過ぎてしまうこともある。消費者からの苦情を受けたことが何度かあるが、詳しく尋ねてみると、たいていは料理の色で判断し、醤油を入れ過ぎていた。

蒸した大豆に種麹を加えて発酵させる。温度が高すぎれば酸味が出てしまい、すべて無駄になってしまう。
70年余の歴史
70年の歴史を持つ建物の中を行き来しながら客に主力の2商品を説明する蕭新旺は、少しも手を抜かない。
蕭新旺は、学生時代に都会に出て、そのまま就職もしていたが、年老いた父の世話をするため、8年ほど前に故郷の布袋に戻って家業を継ぎ、4代目となった。
故郷に戻る以前、蕭新旺が働いていたのは、叔父が高雄で経営する、やはり「新来源」という名の醤油製造所だった。そこは生産量が多かったので、部分的な工程はオートメーション化されていた。「手作りと違って、ボタンを押せばそれですんでしまう仕事もあり、とても楽でしたよ」と蕭新旺は言う。
蕭新旺が家業を継いだことで、4代にわたる味が継承されることになった。だがそれだけではなく、70年を超える醤油醸造史も伝わることになった。例えば、蕭新旺が大豆を量るのに使っている木桶は、祖父の代から残るものだ。「木桶には『五斗』と書いてあります。『五斗米のために腰を折る(わずかな俸禄のために人の機嫌を取る)』という言葉がありますが、まさにその五斗の量なのですよ」
豆を冷ましたり、麹を作るのに用いるザルも、父の代から使い続けているものが少なくない。竹で編んだザルは通気性がよく、排熱性も高いので、大豆を早く冷ますことができ、麹の発酵でも温度が高くなり過ぎない。創立時に地元の詩人である黄元亨に書いてもらった「新来源」という揮毫は、年月を経て黄ばんではいるものの、今でも家を入ったところに高く掲げてある。
現在では、手間のかかる手造り醸造をする所は少なくなっている。だが、どんなに手間ひまかかろうとも、蕭新旺は伝統の醸造法にこだわり、蕭家4代にわたって受け継がれてきた独特の風味を残そうと決心している。

甘味があり色の薄い白醤油は海鮮料理によく合う。