樹齢千年の香り
台湾人は昔から香りを利用してきた。中でも一番に挙げられるのはクスノキであろう。「早くも200年余り前、台湾のクスノキは世界から注目されていました」と話すのは屏東科技大学森林学科助教の楊智凱だ。時は1897年にさかのぼる。クスノキは日本や中国にもあるが、台湾のクスノキから取った精油の質が最も高いことをアメリカの植物学者Lyster H.Deweyが発見した。この研究により、後に台湾の樟脳輸出の輝かしい歴史が始まる。最盛期には、台湾の北から南まで各地に樟脳を作る作業場があった。作業員はクスノキの皮をはぎ、加熱して結晶化させる。台湾の樟脳油の年間生産量は一度は世界の7~8割を占めた。世界の7割以上の人が、台湾から来た香りを嗅いだことがあったのである。
初春の肌寒い日、私たちはアロマセラピストの温佑君とともに台北植物園の名人園区を訪ね、巨大なタイワンフウの木の下に立った。温佑君は一枚の枯葉を拾って手で揉むと、「匂いを嗅いでみてください」と言う。その萎れた葉はすがすがしい香りを放ち、植物の生命力を感じさせた。「新鮮な葉なら、もっと甘い香りがします」と言う。温佑君はここの植物の一つひとつについて詳しく説明してくれる。彼女は毎年生徒たちを率いて欧米に香りの旅に出かける。世界各国の植物の香りを嗅いできたが、台湾島の香りは地中海のリゾートであるコルシカ島に匹敵し、「台湾は香りの島なのです」と言う。
温佑君は台湾の植物の香りを観察し、本も書いているが、彼女の口から語られる植物の物語は、より生き生きしている。「台湾のクスノキの香りの変化と品種は世界でも最も多様です」同じクスノキでも生長する環境や微気候の影響で異なる香りを放つのである。樟脳、ローズウッド、ラベンダー、ローズマリー、ユーカリ、さらにはビンロウや台湾の清涼飲料水‧沙士の香りなど「これらはすべてクスノキの香りで、その豊かさに驚かされます」と温佑君は言う。クスノキはまた気の流れを促すという。「気功をしていて気の滞りがある時は、クスノキの香りがその流れを促してくれます」と言う。
もう一つの台湾の香りは、北部の拉拉山にある。「外国人は目を開いて驚くでしょう。ここはすべてベニヒノキなのですから」
温佑君はベニヒノキを「天長地久」の香りと形容し、「目の前の小さな物事にとらわれなくなります」と言う。樹齢千年の神木が放つエネルギーは非常に神秘的だ。「ヒノキのエネルギーにはすごいものがあります」と言う。温佑君が生徒たちを連れて塔塔加トレイルを標高2000メートルまで登った時、マスクをしていた生徒が息苦しさを感じた。そこで彼女はマスクの中にベニヒノキの精油をたらした紙を入れたところ、呼吸が楽になった。科学的な実験においても、ベニヒノキの精油の香りを5分間嗅ぐと、ストレスが軽減して身体がリラックスし、緊張や怒りや困惑の感情が低減することが証明されている。
産官学が協力して台湾の植物の秘密を解き、国産のエッセンシャルオイルに新たな契機をもたらしている。