漁師お得意の味
水産物への関心が非常に高い黄准教授は、魚の専門知識を食通精神と組み合わせ、あちこちの海鮮を味わうために頻繁に各地へ足を運ぶ。ソーシャルメディアも活用して、フェイスブックに「養殖と魚食の文化」というグループを作り、自身で見聞きしてきたことをシェアしている。
だが世間がこぞって注目する高価格帯の魚種は、黄准教授の興味の中心ではなく、むしろ水産業者が「わざわざ売り出すものでもない」と考える品種や部位にこそ敢えて注目する。こうした品種はその名が知られることはほとんどなく、値段も高くない。見た目の悪さや水揚げ量の少なさから産地以外へ出荷されることもほとんどなく、場合によっては漁船上でしか味わえない代物なのだ。
この30年余り、黄准教授は港や魚市場を巡り、魚屋や漁師と打ち解け交流することで、漁師と共に海に出たり、魚屋と料理や食べ方の秘訣について情報交換したりできるようになった。そのおかげで、速くて便利、そして鮮度が保証された本格的な漁師料理を楽しめるようになったのだ。
近隣の港には、適宜買い取ってくれる海鮮料理店もあるが、こうした魚介は希少で、安定した仕入れができないため、通常メニューに載せることができず、自身が食通でなかったり、勝手知ったる地元の人の同伴がない場合は、一般の人が食べてみたいからといってそう出合えるものではない。
黄准教授によると、これは漁師が隠しているためでも、取り扱いが難しいとか鮮度が保てないといった技術的な問題によるものでもなく、市場相場が存在しないことや、求める人の少なさが主な原因だという。いつしか卸業者の買い付け意欲が低くなり、末端の小売市場ではなおのこと見かけなくなってしまったというわけだ。
一例として、岩礁や船底にびっしりと付着しているフジツボや、ぱっとしない見た目にくわえ舌が絡まりそうな名を持つことから、魚屋で「あの魚」と呼ばれているほどその名が知られていないミズテング(中国語では「小鰭鐮齒魚」、「シャオチィリェンツーユィ」と発音)が挙げられる。これらはソーシャルメディアのおかげで近年になりようやく徐々に知られるようになってきた。
また、漁師が「釘抜き」という通称で呼ぶカジキは、人気がある身の部分だけでなく、大きな胃袋、腹身、背びれ、尾筒、そして目までもがそれぞれ異なる風味や食感を持っており、郷土料理に取り入れると、味わう価値のある漁師ならではの味となる。こうした特殊な材料や部位は、黄准教授の著作『怪奇海產店:海島子民的海味新指南』(奇妙きてれつ海産店:島民の海鮮味わい方ガイド)でそれぞれ紹介されている。