台湾独自のパンを作る
こうして各界の努力とアメリカの協力の下、台湾の小麦粉食品文化が発達し、今では街に麺類やパンの店が林立するようになった。「パン屋の密度で言うと、台湾は世界一です」と劉志偉は言う。台湾人にとって今や小麦粉食品は欠かせないものとなったのである。さらに、世界的なパン職人のコンクールでも、しばしば台湾人が受賞するようになっている。
2年に一度開かれる、モンディアル・デュ・パン(Mondial du Pain)は、フランスの国家最優秀職人賞(MOF)の受賞者が組織するアンバサドール協会によるパンの世界的コンクールである。このコンクールでは、パン職人1名と22歳以下のアシスタント1名の2人一組で、8時間半以内に14項目、11種類のパンを合計150個作る。技術だけでなく、創意や体力、そして2人のコンビネーションも試される。アンバサドール協会はパンの文化を発揚して継承することを目的としており、職人の技術だけでなく産業として後進の育成も重視するため、受賞如何にかかわらず、一生に一度しか出場できない。直近の大会では、台湾の陳耀訓がグランプリに輝いた。
陳耀訓は、大会参加のために台湾各地を訪ねて台湾らしい特色のある食材を探した。台湾は物産が豊富で、四季折々の果物があり、ドライフルーツ作りの技術も一流である。さらに台湾固有種の台湾キヌアや、先住民族が用いる香辛料の馬告(アオモジの実)などもある。研究を重ね、陳耀訓は馬告とパイナップル、大湖のドライ・ストロベリーを使い、審査員を唸らせるパンを作った。ドイツ、フランス、日本、オランダなど18ヶ国の代表を抑えてグランプリに輝いたのである。陳輝訓は、コンクールで製作理念を語ることで、台湾の製パン技術の実力だけでなく、台湾の農産物も世界に紹介することができたと語る。
モンディアル・デュ・パンで台湾が2回連続優勝したことについて陳輝訓は、台湾の豊富な物産とイノベーションの力が台湾の強みだと語る。近年、台湾のパン職人の技術は進歩し、天然の素材のみで、添加物を用いなくても柔らかくておいしいパンを作ることができるようになった。台湾の職人たちは、地元の食材を用いて安心・安全でおいしいパンを作っている。陳耀訓はコンビニに招かれて「本物の食材、無添加」のパンを開発した。コンビニも食品添加物を使わない方向に向かうべきで「より多くの人が良いパンを作ってこそ消費者に影響をもたらし、産業全体を変えることができる」と考えている。
これまで台湾は常に欧米や日本から製パン技術を学んできた。陳輝訓も日本で弟子入りした経験があり、日本の職人の精神に敬服した。昨年は日本の熊本製粉に招かれて、初めて海外のパン職人として同社のブランドに「陳耀訓使用」と名を冠し、日本で講習会も行なった。台湾の製パン技術が日本でも高く評価されていることがわかる。
今年、陳耀訓はデンマークのバターブランドのイメージキャラクターを引き受け、台湾の製パン技術と農産物をもってフィリピン、マレーシア、シンガポール、ベトナムなどで展示を行ない、ともにアジア市場を開拓している。
先輩たちの努力と、アメリカからの物資や技術が、台湾の食生活を変えてきた。小麦粉を輸入に頼る台湾だが、世界で注目されるパン職人が次々と誕生している。そして台湾の農産物もパンとともに世界の舞台に立ち、その多様な食文化で世界中の人々の舌を魅了するに至ったのである。
かつて小麦粉を使った料理は農繁期の軽食だったが、今は日常生活にとけ込んでいる。(左は荘坤儒撮影)
かつて小麦粉を使った料理は農繁期の軽食だったが、今は日常生活にとけ込んでいる。(左は荘坤儒撮影)
小麦粉食品巡回講習会は台湾の津々浦々で開かれ、小麦粉文化の種をまいた。(農業委員会提供)
台湾では街のいたるところにパン屋があり、いつでもおいしいパンが食べられる。
世界一のパンを決めるフランスのモンディアル・デュ・パンで優勝した陳耀訓。職人の精神でおいしいパンを作り上げる。
美しくデコレーションされたケーキは、1970年代から台湾人の生活に入り込み、お祝いの気分を盛り上げる存在となった。(外交部資料)
農産物が豊富で、人材と創意も豊かな台湾では、海外から学んだ製パン技術が大いに発展し、陳耀訓(右から3人目)のような世界チャンピオンが多数誕生している。
写真は、陳耀訓がコンクール会場で人々を驚かせた作品「祥獅献瑞」。(陳耀訓提供)
台湾とアメリカがともに推進してきた結果、小麦粉は今では私たちの生活に欠かせないものになっている。(農業委員会提供)