悪地の実り
曾金仁は、悪地は不毛の地で、台風や豪雨が来ると土壌は流れ落ちてしまうという。悪地のなだらかな斜面を開墾した人がいたが、肥料をやっても水とともに流れてしまった。
「ところが、農家には分からないものです。ここの土は粘り気があり、雨が降らなければ硬くて何も植えられません。それが、サトウキビを植えると糖度が非常に高く、香りのよい黒砂糖ができるのです。研究機関が土壌を分析した結果、悪地の土壌はマグネシウムや鉄分などを豊富に含んでいて、それが独特な風味の要因になっていることが分かったのです」
悪地には、土地に合った作物を植えることが重要だ。農政機関に講義を依頼して悪地の泥岩地にふさわしい作物を探していった。その結果、グアバやバンレイシ、マンゴー、ミカンなどがよいことが分かった。
三陽工業を退職して帰郷した蔡鴻謨は、環境にやさしい農法で作物を育てている。除草剤を使わず、有機肥料をやったグアバは歯ごたえが良くて肌理が細かく、さっぱりした甘さがある。以前の同僚の間だけで売り切れてしまった。
柯炳煌は富源景観平台で「悪地スターアップル」などの果物を栽培しており、その箱には「富源悪地のスターアップル、乾燥地は天の恵み」と印刷してあり、非常によく売れている。
一昨年は台風の被害に遭ったが、今年は売れ行きが良く、特に台湾に30万人いる東南アジアからの移住者に人気があるという。中でもベトナムから来た人々に特に愛さており、一人で30キロ注文する人もいる。
2010年に林務局が利吉悪地を、住民が推進するジオパークのモデル地区に選んだ。曾金仁は、ジオパークと地域産業を結びつけるという目標に賛同している。特に利吉村は他の僻遠地域と同様、人口の高齢化と流出に直面しており、若者は仕事を得るために村を出ていかざるを得ない。地域の産業が復興すれば誰もが収入を得られるようになり、ジオパークをめぐるジオツーリズムや大地保全といった成果も得られる。
コミュニティ協会の努力のおかげで、まず退職した警察官や住民が帰省して田畑を耕すようになり、農繁期には付近の先住民族に手伝ってもらっている。また、悪地で栽培する果物がしだいに売上を伸ばし、以前はアルバイトをしていた先住民も農業の列に加わり、休耕していた水田を耕すようになった。
曾金仁によると、利吉村の人々は、以前は余所の町へ働きに行っていたが、現在、農繁期には他の村から働きに来てもらうようになったという。
ジオパークのネットワークを通して地域産業が興隆し、「悪地」が実りをもたらした。この悪地での農業とエコツーリズムこそ、地域住民と大地との共存の道なのである。
東華大学の劉瑩三教授は、利吉泥岩悪地の地層の中からリンを含む光る欠片を取り、プレート運動によって形成された大地であることの証明だと説明する。
利吉村元村長の曾金仁は、悪地こそ利吉村の宝だと考える。
悪地で育つスターアップルは特にベトナムからの移住者に愛されている。
悪地で育つスターアップルは特にベトナムからの移住者に愛されている。
悪地の釈迦頭(バンレイシ)は大旺という品種で、大きいものでは重さ1キロにもなり、果肉が詰まっている。
数々の果物を栽培する利吉村卑南郷の野菜果物第40生産販売班は「悪地」生産班である。
地域産業と大地保全が共存することで、利吉は悪地ではなく宝の地となった。