
見た目はどうということのないトリュフは非常に高価な食材で、「キッチンのダイヤモンド」とも呼ばれる。写真は傅春旭と林介龍のチームが台東県太麻里郷で採取したもの。
地中から掘り出されたトリュフは強い香りを放ち、世界中の人々を魅了する。キャビアとフォアグラと並ぶ世界三大珍味のひとつとされ、高価なことから「キッチンのダイヤモンド」とも呼ばれる。見たところどうということのない菌類が、欧米のみならず、台湾の地中の世界にも光を当てようとしている。

写真のY字の部位は、トリュフの菌根形成苗の植栽に成功したことを表わしている。
台湾の地中に眠るトリュフ
2023年、農業部林業試験所の研究チームは台湾でトリュフの新種を発見した。発見された台東県太麻里の地名を取って台東黒トリュフ(Tuber taitung)と名付けられた。この品種は標高300~600メートルの土地に分布しており、これまで台湾で発見されたトリュフの中では最も標高の低い地域に生息する。
それ以前に発見されたものとしては、2021年のHydnotrya tulasnei(クルミタケ)、2018年のTuber elevatireticulatum(白トリュフの一種)、2016年のTuber lithocarpiiなどがあり、7~8年の間に5つの新種が発見された。いずれも農業部林業試験所森林保護組の研究員である傅春旭とアシスタント研究員の林介龍によるチームが挙げてきた成果である。
傅春旭によると、彼らは世界各国のトリュフ産地の温度や湿度などの基本資料に、農業部林業署森林土壌調査チームがまとめた台湾国土データを合わせ、さらに台湾大学森林環境・資源学科の胡弘道名誉教授が30年前にまとめた地下真菌分布の五大生息地を合わせて研究してきた。そして2~3のホットスポットに絞り込み、季節を見計らいながら、これらの地域を訪ねてはトリュフを探してきたのである。
だが、この高価な「菌類」は容易に見つけられるものではない。真っ黒い土に目を凝らして探し出しても、成熟期でないこともあるし、見落としてしまうことも多い。傅春旭によると、標高1200~1300メートルに生息する品種は11~2月、標高2500メートルのものは6~7月に採集できる可能性がある。「ただ、蓮華池(標高576~925メートル)は混乱していて確定できません」という。彼らの研究によると、トリュフの生育条件は、アルカリ性の土壌と涼しい気候というものだが、標高が下がると、この条件は適用できず、生長は不規則になって予測が難しいのである。

研究チームはトリュフの胞子からの繁殖を試みている。貴重な菌株を保存してさまざまな樹木の苗に接種することで、トリュフの各種生育データをとるほか、将来的な量産に向けての準備も進めている。
新品種の発表に欠かせないデータ
こうしてようやくトリュフが採取できても、さまざまな条件を満たしていなければ、その「身分」を証明することは困難だ。
研究チームによると、世界的にトリュフの新品種を発表するには、胞子の数や大小、全体の形態など、細部を描写しなければならず、また近縁の種との比較を行なって、それらとは異なることを証明しなければならないのである。
中でも、成熟した胞子の確認には長い時間がかかる。林介龍によると、彼らがある年の5月に南投県蓮華池で採取した10個のトリュフを実験室に持ち帰ったところ、胞子が未成熟であることがわかり、7~8月と翌年の2月に再び採集に行ったが、採ることはできなかったのである。
顕微鏡で見ると、白トリュフの胞子は亀の甲羅のような形を成していて、黒トリュフの形状とは大きく異なるが、いずれもトリュフの繁殖能力を証明する重要な存在だ。実験室にはまだ成熟した胞子がないために品種を証明できないトリュフが多数あり、研究チームが産地を訪れて再び収穫しなければ、台湾の新品種を世界に発表することはできないのである。

傅春旭(右)と林介龍(左)のチームは世界各地のトリュフ産地を訪れて栽培経験を収集し、台湾のトリュフ研究に役立てている。(林介龍提供)
30年前の台湾トリュフへの道
昨今の目覚ましい発見を語る際、忘れてはならないのは、30年前に台湾トリュフ研究の基礎を確立した胡弘道の研究チームだ。
彼らは1992年に台湾で初めてトリュフの新品種――Tuber formosanumの発見を発表し、2009年にはTuber furfuraceumを発表した。胡弘道はまた1990年代に台湾大学実験林においてアジア初のトリュフ栽培園を設置し、数年をかけて20キロほどのトリュフの収穫に成功した。
それから研究は途絶えていたが、幸いなことに傅春旭と林介龍がこの「台湾トリュフの夢」を引き継ぐことになり、さらに5つの新品種を発見したのである。彼らは、台湾のトリュフは決してこの5種だけにとどまらないと考えている。「少なくとも15種は生息する条件があります」というのである。
環境の影響を大きく受ける菌類であるトリュフは、アルカリ土壌を好み、ヨーロッパでは石灰岩から成るカルスト地形の土地でよく収穫される。林介龍によると、南投県の日月潭や埔里一帯と台東県の利嘉、太麻里、安朔東南森林区は、氷河期の遺存種が多い地域であり、東部の石灰岩地形はアルカリ土壌という条件を持つため、まだ世界でも発見されていない新種が生息している可能性があるということだ。
もう一つ注目したいのは、台湾の標高の高い森林には分厚い腐植土層があり、そうした中の酸性土壌で珍しい品種のトリュフが採取されることもあることだ。「黒トリュフが採取された土壌のpH値は高くても5~6で、中性の7を超えることはありません」と林介龍は言う。これは、台湾で発見された新品種と海外の品種との大きな違いを示している。
トリュフをいかに見つけるか、どのように栽培するかは、世界でも常に注目されているテーマだが、産地や品種によってそれぞれ性質が異なる。土壌の酸性・アルカリ性、温度、湿度、宿主の違いや周辺の菌類など、さまざまな要素が交差して影響し合い、これまで知られていなかった特徴が発見される可能性もある。

各地で採集したトリュフの子実体。大きいものは7センチ、小さいものは1センチに満たない。
「黒い宝」のさらなる研究
傅春旭は次のように推論する。「これらの微生物は氷河期に台湾に逃れてきて、ここの温度や湿度、気候条件などに適応した後、ともに進化して互いに競争し、刺激し合ってきました。こうして長い時間を経て、台湾の生物種がさらに特別なものとなったのでしょう」と。この推論は、台湾の地中に生息する真菌の種類が世界の6%を占めるという事実と呼応している。
トリュフを探し、研究する過程は、実際のところ台湾の生物多様性を保全することにもつながる。地球上の生物の7割は地下に生息するものと細菌なのである。これらは通常私たちが目にすることはないが、完全な生態系と環境の保護には欠かせない存在である。
生物多様性だけではない。トリュフは環境に対する要求が高く、また経済価値も高い。現在提唱されているフォレストエコロジーと森林率を重視する森林経済の範疇においても、トリュフは将来的な発展の可能性が大きい。トリュフは宿主である他の植物と共存関係にあるからだ。真菌は植物の根から炭水化物などの栄養を吸収し、宿主である植物は菌類を通して水分や養分を得る。そのため、慣行農法などで化学物質を使用すれば土壌内の微生物群はバランスを失い、その成長に影響を及ぼす。したがって、トリュフの生息には汚染のない健康な土壌が必要なのである。
傅春旭はさらに「トリュフを産業化するには『適地適種』を追求しなければなりません」と呼び掛ける。トリュフは植えればすぐに収穫できるものではない。胡弘道の研究では、少なくとも6~7年、長ければ10年はかかるとしている。根気強く見守ってこそ、台湾で何とか続いてきたトリュフ研究が継続でき、世界に光を放つことが可能になるのだ。

トリュフの胞子が成熟しているかどうかは、顕微鏡を通さなければわからない。

白トリュフの胞子

黒トリュフの胞子
