5代目の栄光
ほかにも人材はいた。往年の味を再びという理想を掲げ、烏龍茶によって梨山高山紅茶を生産する「華剛茶業」もまた、あちこちの茶葉コンテストで受賞を重ねていた。
華剛茶業を継いで5代目に当たる杜蒼林は、幼い頃に祖父が入れてくれた凍頂烏龍の、豊かで余韻の残る味わいが忘れられなかった。
病の祖父の世話をするために2005年に故郷に戻り、製茶を手伝い始めた杜蒼林は、製茶の師匠から「生茶は撹拌しなければ香らない」とよく聞かされた。だが、なぜ撹拌するのか、撹拌の違いがどう影響するのかまでは誰も知らなかった。
杜蒼林は茶業改良場などで授業を受け、製茶の科学的理論を学んだ。今は自らも中興大学で教える彼は「製造過程でなぜ緑茶が清香烏龍や果香烏龍に変わるのか、さらに発酵させるとなぜ紅烏龍になるのか。それは工程中の温度や湿度によってポリフェノールや酵素の働きが変わり、それが作用して、フレッシュ、フローラル、フルーティなどの風味を生むのです」と説明する。
学んだ知識を製茶に応用して、昔の鉄観音や凍頂烏龍の製茶技術や味を再現させたかった。2009年の秋茶から試作を開始、標高2000メートルに育つ青心烏龍の生茶を用い、複数種の撹拌を経て、揉捻は望月式揉捻機を使った。こうして生まれた紅烏龍は独特のフルーティな香りがした。
なおも発酵させようと撹拌を6回にしたこともあったが、撹拌数を増やすと失敗率も高まった。全神経を集中して精確に制御する必要があった。
杜蒼林によれば、高山青心烏龍の特徴はまろみのある味で、それで作った梨山紅茶は香りも味もダージリンより甘く繊細、しかも烏龍茶のフローラルな香りを帯びる。
「努力がチャンスを生むとは限りませんが、トライすればチャンスは生まれます」2013年、農糧署による第1回衛生安全製茶場評価において華剛茶業は標高2400メートル以上のエリアで唯一の5つ星製茶所に選ばれ、日本の静岡県で3年に1度催される世界お茶まつりに招待された。
お茶まつりでは、三笠宮家の彬子さまが杜蒼林のブースにわざわざお越しになり、東日本大震災に対する台湾の支援に感謝を述べられ、また梨山紅茶を試飲して「すばらしい」と言われた。それが読売新聞にも掲載されると、翌日には梨山紅茶を買いたいと問い合わせが相次いだ。
この2013年に杜蒼林は、3年後には静岡の世界緑茶コンテストに応募して必ず受賞すると自信をもって語った。その通りに2016年、華剛茶業は梨山清香烏龍と梨山紅茶で、二つの最高金賞(10位以内)を獲得した。
お天道様の配慮で、雨が多すぎず乾燥もしすぎなければ、チャノミドリヒメヨコバイ(ウンカ)という虫が現われて茶葉を噛み、それによって茶葉には他にはない蜜の香りが生じる。