各国文化の融合
マーケットでの1品料理から現在の7品フルコースまで、どの料理にも台湾、ドイツ、イタリアの文化が響き合っている。
前日に発酵させてこの日早朝に焼いたプレッツェルを秀さんが持ってきて「これはドイツ‧バイエルン地方の伝統的なパンです」と言う。カラスザンショウ入りバターを塗って食べる。「元はローズマリー入りでしたが、地元の味をと原住民族がよく使うカラスザンショウに換えました」
次は「馬告(アオモジ)風味燻製カジキピザ」だ。スモークサーモンを使うイタリアのサルモーネピザからヒントを得て、はえ縄漁で成功港に水揚げされたカジキを使う。カジキは25度の低温で8時間以上かけて燻製にしたもので、トッピングには自家製のドイツ白チーズ「クワルク」も載せ、夫婦の好きなスパイス「馬告」で香りを出し、さらにルッコラを加えると、恰比兔子の人気料理が出来上がる。時には原住民族の伝統食である豚生肉の塩漬け「シラウ」を用いた「アミ族塩漬け豚のクリスピーピザ」を出すこともある。
メインは「シイラのソテーと手打ちココアパスタ」だ。太平洋で取れたシイラに地元産のパイナップルが見事にマッチしている。ココアを入れたパスタはフェートさんの奇抜な発想と実験の賜物だ。ココアパスタにはエリンギ‧クリームソースを合わせる。当初のマッシュルームをエリンギに置き換えたもので、より美味しさを増して当店の定番になった。
テーブル上の四季
台東のスローフード実践者たちは大家族のようなもので、二人もフェスティバルに参加して多くの農家と知り合い、環境にやさしい農業による食材との出会いでさらに味が広がった。ジャガイモが採れる春にはメニューにジャガイモのニョッキが登場し、夏のメインはココアパスタ、秋はトマトの出番でトスカーナ風トマトソースやオイル漬けトマト、冬には鶏胸肉のバターソテーにガーリック風味の蜂蜜ワインビネガーソースをかける。
「新しいメニューにはある程度のレベルが期待されます。私たちは料理の勉強をしたわけではないので、ただ良い食材で自分の好きな料理を作る。それが魅力です」と秀さんは言う。努力のおかげで恰比兔子は2024年のスローフード品評で三つ星を得た。なおも実験は続けられ、フェートさんは酒粕の使用を試みているという。「エリンギの酒粕クリームソース」の登場が楽しみだ。