食材や食器も大自然から
アワと水をほぼ1対1の割合で鍋に入れ、イブさんがアワを炊く。スローフードに関わるようになったのは、「産地食卓プロジェクト」に参加してからだという。カイアナ制作室は、観光客にアワの文化を知ってもらい、アワ料理を味わってもらうなど、アワの体験に力を注いできた。「まさに我が家がアワの産地と食卓の結びつきを実践していましたから」とイブさんは言う。このテーマはイブさんには難しくない。
鍋の中の水分がやや減ってきた後はアワをかき混ぜ続ける。イブさんはアワの炊き方を母から学んだ。「叩いてから混ぜます。アワを叩くのは粘り気を出すためです。脱穀する時のようにかなり力を入れて叩かないと、モチのような食感になりません」こうして炊いたアワは、ピーナッツ粉や豚バラ肉、そしてイブさんの母が得意な漬物と組合わされてスローフード‧フェスティバルに出され、人気料理となった。
フェスティバルでの使い捨て食器使用不可も、実践は簡単だとイブさんは言う。エコツーリズムで既に月桃の葉を食器として使用しているからだ。彼女は月桃の葉を1枚取り出して実演して見せてくれた。チマキを包むように葉を折り曲げ、形を整えて爪楊枝で留めると食器になる。彼女は笑って言った。「フェスティバルで料理を出すことより、月桃の葉を見つけてくる方が苦労です。葉を手に入れたら、きれいに洗って折り畳みます。フェスティバルが近づくと、この辺りの葉はぜんぶなくなってしまう、と皆が言いますよ」
イブさんは家でさまざまな草花や野菜‧果物を植えており、食材とするだけでなく、季節に応じて草花でテーブルを飾る。「ここが私の市場です。もしこの地を離れたら料理が出せません。材料はすべてここにあるのですから」
イブさんが並べてくれたアワ定食。見た目も味も良く、しかも語りきれないほどの物語がある。