近年流行のワーキングホリデーで、若い人は様々な仕事を体験し、志を同じくする世界の友に出会い、一生の目標まで見つけてしまう。
台湾の若者は、わが国が他国と締結するワーキングホリデー協定を利用することができる。外国の若者は労力や知識を無料宿泊と交換し、わずかな出費で台湾各地を巡る楽しみを得ている。これが近ごろ人気の新しい旅の形である。
「旅は若者を鍛える」というフランスのことわざが、欧米の若者を旅に送り出す。簡単な荷物だけで故郷を遠く離れ、働く代わりに無料で宿泊し、異国の生活を体験する。
海外では既に長く行われている旅はワーキングホリデーとも呼ばれ、近年国内でもブームになっている。
2004年6月、台湾とニュージーランドがワーキングホリデー協定を締結した。ニュージーランドは年間600件のワーキングホリデービザを18~30歳の台湾青年に発給し、ニュージーランドに1年間滞在できる。その後、オーストラリア、日本、カナダ、ドイツ、韓国、イギリスともワーキングホリデー協定が結ばれた。
外交部の統計によると、実施開始から今年4月末までに、各国のワーキングホリデービザで出国した台湾青年は合計4万9626人、人数枠のないオーストラリアが最も多く、累計3万6010人にのぼる。

11:00 AM チェックアウトが済んだら客室の掃除。
ワーキングホリデーは二国間協定だから、国内の若者が海外に出ていく一方で、海外からどれだけの若者が台湾に来ているのか、気になるところだろう。
中華大学観光学部学部長・蘇成田によると、台湾の若者はワーキングホリデーに憧れ、年間万単位の人が海外へ旅立つ。だが、台湾でワーキングホリデーを体験する海外青年はこれまで1000人未満だという。原因は恐らく、国内の短期アルバイトの機会が少ないこと、時給が低すぎて生活費と旅費をカバーできないことが挙げられるが、更に、台湾の雇い主がワーキングホリデーの権利義務をよく理解していないこと、宣伝不足など、努力の余地は大きい。
昔、外国人青年が台湾に来て思いつく職場は英会話教室だったが、最近1~2年は、民宿や有機農場がバックパッカーに最も人気で、特に香港、マレーシア、シンガポールの若者が多い。通常、公式ルートではないKiTaiwan、WWOOF (World Wide Opportunities on Organic Farms)などのマッチングを通じて1ヶ月の観光ビザで訪台し、賃金のやりとりなしに、労働や知識と宿泊とを交換している。年齢制限はないが、20~30歳の若い女性が多い。
労働・知識と宿泊を交換するワークステイにビジネスチャンスを見出し、旅の達人・民宿予約サイト「民宿の家」創設者・白志棠は、経済部商業司の「サービス業イノベーションリサーチ」助成金100万元を獲得し、2011年2月にウェブサイトKiTaiwanを立ち上げた。毎日平均2~3件のマッチングに成功している。これまで3千名を超す会員は、台湾人と香港人がそれぞれ3分の1を占め、他はマレーシア、シンガポール、カナダ華僑である。香港・マレーシアの旅客は大半が社会人、台湾は学生が主体になっている。
ウェブサイト成功のために、白志棠は一年かけて台湾全土の民宿と農場を訪れた。今では150軒の民宿と農場が加入している。
WWOOFは1970年代にイギリスで生れた世界的組織で、有機農場のワークステイを専門に提供する。国内では宜蘭の逢春園、南投の老五民宿もWWOOF台湾組織のメンバーになっている。アイルランドから老五民宿を訪れてワークステイし、異国の生活を体験した人もいる。

9:00 AM 天山嶺有機農場で草を取り害虫を除去して、おいしい野菜を育てる。
面白いことに、ワークステイで訪台するのは近隣の香港、マレーシア、シンガポールの若い人が多い。
2010年、香港から来た22歳の学生・張浩楠は、折り畳み自転車での40日間台湾一周を計画していた。白志棠の手配で、張浩楠は台中新社の劦陶宛民宿に行き、重い陶土を運び、客の接待を手伝った。老五民宿では草刈機を押し、酢の甕を運んだ。街ごとに違う生活を体験した上、台湾旅行の夢もかなった。
同じく香港から来た王芷琳は今年4月に仕事を辞め、初めて降り立つ小島、澎湖へ飛んだ。香港の張りつめた生活と比べ「澎湖の人はやさしくて、生活はシンプルでゆったりしています。ここで1ヶ月暮らして、台湾に移民したくなりました」
台湾の何もかもが新鮮に感じられる。バイクも例外ではない。香港は狭い土地に人が密集し、バイクは少なく、25歳の王芷琳は乗ったことがなかった。澎湖では、バイクが最も普通で便利な交通手段である。澎湖は風が強くて最初はバイクの後ろに乗るのが怖かったが、そのうち景色を眺めて写真を撮り、カメラのバッテリーも換えられるようになった。
澎湖は海産物が新鮮でおいしい。以前はあまり海産物を食べなかった王芷琳だが、イカやカキを食べて、そのおいしさに驚いた。潮の香りと独特の食感。彼女は海草ヤリイカそうめん、黒糖氷、サボテンアイスははずせない菊島の味と薦める。
澎湖で最も印象に残るのが『聖書』でモーセがエジプトを出るときに紅海が二つに割れた奇跡を、目の当たりにしたかのような体験だった。満潮の時、奎壁山海岸と赤嶼の間の潮間帯は水を被っているが、潮が退くと海水が分かれ、S字型の踏浪歩道が現れ、人を魅了する。
王芷琳は、ワークステイで真に澎湖人の生活に溶け込めたことは、表面を眺める旅よりずっと有意義だったという。

6:00 PM 日が沈み、一日の仕事が終わると明日のために就寝する。
普通、民宿が提供する仕事は「一般交換」と「専門交換」に大別できる。一般交換は清掃や朝食準備、皿洗い、除草など労力型の仕事である。専門交換は新メニュー開発、ウェブサイト翻訳、壁面アート、インテリア、フラワーアレンジ、ガーデニング、ガイド、フィールド調査、コンサートなどがある。
民宿業者によって需要も異なり、写真撮影をしてほしい、旅行記事を書いてほしい、単に民宿オーナーにフェイスブックやブログ、ウェイボーの使い方を教えるだけということもある。宿泊日程と交換内容を確認した後、協力備忘録に署名を交して、一日の労働時間も含め互いの権利を保障する。
白志棠によると、一般交換の仕事の内容を理解することは、民宿オーナーのアシスタントになることを意味する。民宿経営を夢見る人にはいい入門学習になる。だが一般交換は制限や要求が多く、通常朝7時には起床して労働しなければならない。5時起きで朝食の手伝いをする場合もある。誰でもできる仕事だから、マッチング成功率も自由度も専門交換より劣る。
一方、専門交換の仕事は多様である。国立高雄餐旅大学の学生が宜蘭の北成庄で蓮づくしメニューの開発を手伝い、香港の経済学部の大学生は、アートへの愛から花蓮の欣緑農園に招かれ、壁を塗り替え、部屋の壁には自分の絵を残した。
香港のグラフィックデザイナー洪婷婷は今年5月に澎湖の民宿「遇見(出会い)」を訪れた。ベッドメイクや朝食準備のほか、冷房、音楽、香水、冷水を準備し、訪れた客がくつろげるようにした。また、特技を活かして、オーナー徐鳴懋が香港で旅行見本市に出展するパンフレットのデザインも手伝った。
オーナーによっては変わった需要もある。台東の青山農場夫婦は多忙なため、幼児リズミックダンスの達人を探している。お客の子供と一緒に、歌やダンスや体操をしてもらうのである。南投の老五民宿のオーナー盧振旭はマラソン好きで、ワークステイの旅人をロードレースに誘ったこともある。
老五民宿では面白い仕事を体験できる。酢の醸造、瓶詰め、天山嶺有機農場で草取り、虫取り、野菜作り、甘喜葡萄園で袋かけ、収穫、マントウ店では薪焚き手作りマントウを作る。
盧振旭の印象に残る台湾系アメリカ人のジャネットは、昨年初めて一人で台湾に帰り親戚友人を訪ね、ワークステイに参加した。多才な彼女は作詞作曲、ギターにドラムができ、夜は弾き語りで客を楽しませた。そうして1ヵ月が過ぎ、航空券の日付も過ぎて、はたとアメリカに帰らねばと気づいた。
夜は客とふれあい、おしゃべりするのも仕事のうちである。澎湖の民宿「遇見」の女性オーナー曽婉婷の心づくしで、宿泊客は入室前にビール券を1枚もらえるから、夜9時過ぎには庭でビールを飲みながら星空を眺める客がいる。だからワークステイで来ている人もおしゃべりに加わり、互いの旅の経験を交換してほしいと願っている。

11:00 AM チェックアウトが済んだら客室の掃除。
「等価交換が台湾ワークステイの旅の特色です」白志棠は若い人が創意工夫し、得意分野を活かして無料宿泊の機会を得るよう励ます。少ない資金で台湾旅行の夢がかなうからである。
もっとも、ワークステイの旅人は民宿までの往復交通費と、仕事時間以外の旅の資金を準備し、旅行保険の手続きもするよう白は注意を促す。また宿泊が民宿ではなく従業員宿舎のこともある。三食賄い付きもあれば、自前の場合もある。仕事との兼ね合いがあるから、時間や経費を計算して綿密に計画を立てないと、がっかりして帰ることになりかねない。
香港から澎湖にワークステイに行く場合、香港・台北・澎湖の往復航空券が約4000香港ドル(約1万5千元)かかるが、澎湖は物価が安いから、王芷琳が遇見にいた1ヶ月と10日で使ったのは、2000香港ドル(約7700元)にもならなかった。
「普通の旅行と比べてワークステイは経済的で、特に宿泊は完全に無料です」香港から来た呉嘉麗の推算では、一泊台湾元700~1000元、30日で2万1000元から3万元かかる。今回彼女は台湾に3ヶ月滞在し、予算上限4万香港ドル(約15万元)で、節約した多額の宿泊費で、より多くのスポットを旅行する予定にしている。
10年近く勤めた旅行会社のオペレータを辞めた呉嘉麗は、今年5月に南投の清境普羅旺斯玫瑰荘園(プロバンス・ローズ・ロッジ)のレストランで働き、時間がある時には、合歓山へ日の出を見に、青青草原へハイキングにと出かけ、夜はホタル狩りや温泉を満喫した。清境から澎湖へ行く途中、阿里山、日月潭、墾丁、高雄も回った。
船も体験しようと、冒険心いっぱいの呉嘉麗は布袋港から澎湖へ向かう船に乗り、一時間半の揺れにフラフラになった。だが澎湖の海と空が彼女を虜にした。「バカンス天国です。砂浜が美しくて異国情緒たっぷり」
澎湖の旅を終えたら、呉は花蓮の民宿「海或手作」でワークステイを続ける。台東鹿野高台で熱気球フェスティバルに参加し、景色を鳥瞰する楽しみも体験するつもりでいる。

花蓮の欣緑農園の壁にはワークステイした人が描いたイラストが残っている。
現地の人と関わることで、呉は自分の変化に気づく。清境に着いたばかりの時は笑顔がなかった。香港人は仕事に表情を出さない。だがロッジのスタッフは毎日楽しそうにしている。「ドラ、もっと気楽に、もっと笑って」と言われるうちに、笑顔で働くことに慣れていった。
旅の終わりを間近に控え、王芷琳は自分の進歩に気づく。初日はシーツをベッドの下に折り込めず、布団も平らに敷けず、枕の角も立てられなかったのに、最終日には単独でルームメイクができていた。成長の画面が一つひとつよみがえる。
ワークステイは賃金こそ無いが、貴重な生活経験を学び、世界各国の友に出会い、視野を広げ、独立思考の能力が育つ。
スイスの若い女性二人とドイツの夫婦が「遇見」に宿泊した時、マリンスポーツが好きな王はチャンス到来とばかり、彼らとヨットを借り切って海へ出て、海風に吹かれながら青い空と海を眺め、泳ぎ、サーフィンをし、満足いく時間を過ごした。「なんでも勇敢に大胆にトライするのが旅の醍醐味です」

5:00 PM 拾ってきた野良犬に餌をやる。
ワークステイは海外の青年専属ではない。白志棠は台湾青年も夏休みに自分を鍛え、視野を広げてほしいと願う。人生の方向も見つかるかもしれない。
台中と台北出身の羅千儀と呂駿は、老五民宿でワークステイし、後に従業員になった。
今年26歳の羅千儀は、昨年まず南投・水里の八福農場で働き、老五民宿、天山嶺農場に向かった。「ここの人は土地に感情があり、その有機農業・無毒青果の理念が、私にここに残る決心をさせました」
老五民宿は健康養生食を採用し、手作りマントウは客の朝食専用だったが、人気を博したため店を出すことにした。原料のカボチャ、タロイモ、ネギなど全て現地の農場から仕入れ、かまどでマントウを蒸す。でき立ては淡い薪の香りが漂い、歯ごたえもしっかりしている。
今年3月に老五民宿でワークステイした呂駿は、ちょうどマントウ店の4月開店で人手が要る時に出くわし、人生最初の正規職の仕事が始まった。台北大学経済学部卒の彼は、同級生のように金融業に群がりたくなかった。大自然に親しむ田園の仕事を願っていた。呂駿は農場で農家の喜びを体験してから、いつか自分の有機農場を持ちたいと渇望するようになる。
南投老五民宿のオーナー盧振旭は十数年前に有機茶栽培を始めた。当時、有機栽培は認知されておらず、また台風で茶畑が壊滅したため、民宿経営に転向する。客を誘導し、ワークステイを通じて土に優しい栽培を実地に理解してもらい、有機栽培の観念を広げたいと思った。
最初付近の農家を無毒農業に誘った頃は困難続きだったという。その後、甘喜葡萄園のオーナー張友淦が賛同し、今年の夏休みからワークステイの機会を提供することになった。

洪婷婷さんにとって、単独でのベッドメイキングや客室の整理は貴重な生活体験となった。
八福農場オーナーの張揚義は高専時代に、農場を持つことを夢見た。そのためにオーストラリアで1年働き、農耕生活を体験した。2010年8月には謝謝農場、老五民宿、天山嶺農場でワークステイしている。
盧振旭たちの協力を得て、同年12月に月4000元で3000平方メートルの土地を借り受け、カボチャを栽培してマントウ店に供給を始めた。昨年はカボチャが生産過剰だったためキュウリに換えたが、病虫害が起こったので、カボチャの栽培面積を減らして病虫害が少ないトウモロコシやオクラを増やさねばならなかった。それでも環境に優しい農業をあきらめず、「半農半X」の生活を続けている。
呂駿と張揚義の例は、ワークステイの体験が忘れがたい思い出となっただけでなく、生涯の目標を見つけるきっかけになることを教えてくれる。
フランスの文豪プルーストは「真に探索する旅は新しい風景を探すことではなく、新しい視線を培うことにある」と言った。旅に出るごとに、若い世代は世界と自我を探索し、思いがけない収穫を得る。若い人よ、旅に出よう!

朝食の準備と配膳は民宿ワークステイの基本的な仕事だ。
26歳、台中の羅千儀は大自然が大好きだ。昨年は南投県水里の八福農場と老五民宿、天山嶺農場でワークステイをした。老五民宿ではいろいろな面白い仕事にチャレンジでき、結局ここの正社員になることにした。
台湾の若者たちも夏休みを利用して台湾各地を旅し、視野を広げてはどうだろう。
6:00 AM 早起きしてジョギング。元気一杯で一日をスタートさせる。
7:00 AM 宿泊客のためにヘルシーで栄養豊富な朝食を準備。
9:00 AM 天山嶺有機農場で草を取り害虫を除去して、おいしい野菜を育てる。
11:00 AM チェックアウトが済んだら客室の掃除。
3:00 PM 伝統の窯で蒸す手作りの肉まんやマントウが完成し、おいしい匂いがただよう。
5:00 PM 拾ってきた野良犬に餌をやる。
6:00 PM 日が沈み、一日の仕事が終わると明日のために就寝する。

いつか環境にやさしい有機農場を経営するという夢を持つ張揚義さんは「半農半X」の生活を送っている。

環境政策を学ぶ香港の大学生、鄭暁彤さん(右)と台北の大学経済学部卒業の呂駿さん(中央)、老五民宿オーナーの盧振旭さん。桃源郷のように美しい民宿の前で大自然に触れて楽しむ。

6:00 AM 早起きしてジョギング。元気一杯で一日をスタートさせる。

チェックアウト前に必ず記念撮影をするので、ワークステイする人は写真撮影技術があった方がいい。

香港から来たグラフィックデザイナーの洪婷婷さん(右)と呉嘉麗さん。澎湖の民宿「遇見」で、掃除をする代りに無料で宿泊する。

7:00 AM 宿泊客のためにヘルシーで栄養豊富な朝食を準備。