持続可能性を植える
ナントウガシの自然繁殖を促す重要人物、それは台東県長浜郷で「竹湖山居」を営む頼金田だ。
素早くナントウガシによじ登ると、頼金田はその樹冠にネットをかぶせた。発芽率の良くないドングリを動物から守るためだ。彼のこの方法は、ナントウガシ保護の成功率を大きく高め、台湾のブナ科保護に新たな道を開いた。
その話を尋ねると、謙虚に「農家の思考方法でやっただけですよ」と答える。
兵役を終えた年、若い頼金田は実家に戻って農業を始めた。ところが災害に見舞われて大自然の力を目の当たりにし、自然環境に注意を払うようになった。そして有機農業を始めたほか、故郷に樹木を戻そうと自らせっせと植え始めた。
模索しながら植樹を続けて30年余り、当初の10ヘクタールから森林は30ヘクタールの規模となり、ブナ科などの木々が生い茂る。
彼が選んだのは稜線辺りの土地だった。北東からの季節風が吹くので湿度が高く、ほかの樹木もないので充分な日照があるからだ。台湾各地の山を回ってブナ科の実を集め、種子を休眠覚醒状態にする処理方法で発芽を促した。苗の成長をじっくり観察して丈夫に育つと、稜線上に移した。各苗木の周囲には、少なくとも20年間は成長し続けられるよう、6~7メートルのスペースを空けた。
父がそうしていたように、頼金田は園内の木や草の状態を見て回り、枝や葉にふれて生長具合を確認したり、苗木を囲むフェンスに問題がないかチェックする。
植樹だけでなく、彼は研究者と協力して樹木の生長状況の詳細なデータを記録している。ブナ科植物の研究が近年整ってきたこともあり、大きく育った樹木のデータはほぼ出そろった。不足しているのは苗木の成長記録の研究だけだ。そのため、頼金田は二十四節気を基準に、発芽から展葉、開花、結実、落果まで段階ごとの詳細な時間と樹高、湿度、気温などのデータを記録している。これは台東県長浜郷の季節学的調査となるもので、データは国際的なウェブサイトにアップロードされ、ブナ科植物の世界的研究に貢献している。
だが「生息域外保全」は簡単ではない。その地の土質や気候、湿度が障壁となる。こちらにあるトガリバガシがドングリをつけ始めているのに、あちらのタイワンアカガシはまだ背も低く、なぜほぼ同時期に植えたのに、こんなにも差が出るのかと不思議になる。頼金田によれば、タイワンアカガシは主に標高2000メートル以上に分布するので、長浜のような低標高地帯での生長はまだ観察を続ける必要がある。「だから」と頼金田は繰り返す。それぞれの植物に最適な自然環境があり、自生地以外での生育には常に一定の制限がついて回ると。
官民の協力は、自生地の保全だけでなく、木の実一つ一つの保存にもつながる。リスがドングリを土の中に埋めるように、森林の持続可能性や生態系の多様性保全のために、種子を残していく。そうすることでブナ科植物の多様性を確保でき、そして森林の「支配者」であるこれらの植物が引き続き大自然の中で重要な役割を果たしていくことができるのだ。
森林を動き回るリスは、ブナ科植物の繁殖に役立っている。(外交部資料)
蓮華池研究センター「ブナ科植物園」の台湾固有種ブナ科植物はすべて脇に紅白の棒が挿してある。ケアに注意を払うようスタッフに促すためだ。
「竹湖山居」がブナ科を育てる「櫟見之丘」は台東県長浜郷の山の稜線にあり、太平洋が見わたせる。
ブナ科植物の生息域外保全はすでに一定の成果を収めており、今後も森林生態の観察を続け、自然の研究に貢献したいと、竹湖山居を営む頼金田は言う。
ブナ科植物の開花期には、アリ、チョウ、ガ、ハチなどの昆虫が甘い蜜を求めてやってくる。