自分にぴったりの道が
インバウンド専門の旅行業者も口をそろえて「台湾は山を観光のセールスポイントにすべき」と言う。
では、四方を山に囲まれた台北でそれを確認してみよう。我々は平日の朝、野樵国際旅行社の創業者・楊志明に連れられ、駅から徒歩で象山の登山口へと向かった。
四獣山のうちの一つ象山は、週末にはハイキングを楽しむ市民でにぎわうが、平日は少し様子が異なる。身なりの整った観光客が多く、聞こえてくる言葉は日、韓、英、仏語、それにマレーシア訛りの中国語などだ。
コース途中の六つの巨岩は必見だが、外国人の一番のお目当ては、台北101を臨む展望台だ。夕方などには、酒やおつまみを持ってきて、ここで小さなパーティーを始める外国人もいるという。
山に囲まれた台北市の幸せはこれだろう。家から少し足を延ばせば、登山コースの敷かれた山がある。「南には猫空エリアのトレイル網が、北には天母古道や陽明山国家公園の多くのコースがあります」と宏祥旅行社の総経理・郭岱奇も言う。
国内の登山ブームもあり、中央から地方まで各政府機関によって次々とトレイルの整備や連結が進められてきた。郭岱奇によれば、体力の有無に関わらず、日帰りや縦走など、さまざまなコースが楽しめる。しかも、鳥や蝶が見たい、北東アジア最高峰に上りたい、氷河地形が見たい、原住民文化を体験したいなど、特別な希望にも応え得る多様なリソースが台湾の山にはある。そして「自分にぴったりの道を誰でも見つけられます」と郭岱奇は言う。
郭岱奇の宏祥旅行社はインバウンドの登山観光を主に扱って36年になる。郭の分析によれば、外国人観光客の7割が台北を訪れる。本格登山のウォーミングアップとしても、単に風景を眺め渡すためでであっても、台北には半日か1日で日帰りできるトレイルが数多くある。
取材時は冬で、暑さを嫌う欧米人客の多いシーズンだった。宏祥旅行社の陽明山・日帰りツアーは連日満員で「お客さんもみな良い評価をくれます」と郭は言う。陽明山の冷水坑、擎天崗、小油坑といった定番スポットを巡り、最後に北投の地獄谷や温泉博物館を訪れるコースで、大都会・台北の異なる風貌を知ることができる。
北東アジア最高峰の玉山には国内外から登山愛好者が訪れる。(宏祥旅行社提供)