
湿式で作られる黒豆醤油は、湿度に注意し、雑菌の混入などをチェックするため、常に甕を見て回る必要がある。
ご存知だろうか。黒豆は黒いのに光を嫌うことを。黒いのに中は緑か黄色だということを。そして黒いからこそ、黒豆茶や黒豆乳、黒豆醤油など、栄養豊かで味わい深い食品になることを。

品種改良の成果である各種黒豆。
重要な地位を占める作物
農業部(農業省)台南区農業改良場(以下「台南農改場」)の場長である羅正宗は大豆を研究して50年以上になる。彼がまず基礎知識を説明してくれた。大豆とは黄豆や黒豆の総称で、食物、油の原料、飼料になる。また、大豆の根にある根粒菌は空気中の窒素を固定するので、稲と輪作すれば土壌中の窒素と有機物を増加させ、化学肥料の使用が減らせるという。
また主要作物や戦略作物としても重要だ。食料安全保障の観点から、政府は13年前に大豆、小麦、トウモロコシの国内生産を奨励する政策を始めた。羅正宗によれば、大豆への転作では1ヘクタール当たり6万元の補助金が支給されるため、現在は主に嘉義、台南、屏東、花蓮などの4400ヘクタール以上に及ぶ面積で栽培されている。

黒豆を栽培すると土壌中の窒素と有機物が増えるので化学肥料の使用を減らせる。
台湾が誇る黒豆の品種
黒豆は重要な穀物だ。台湾の栽培品種の収穫量は1ヘクタール当たり平均3000~3500キロで、同緯度に位置する国々の中でも最多だ。しかも台湾産黒豆はタンパク質含有量が輸入物より優れ、鮮度よく香りも高い。
台南農改場の研究員である呉昭慧は黒豆の優れた品種を生み出し、「黒豆の母さん」と呼ばれる。例えば彼女の育てた台南3号は台湾での栽培面積が最も広く、嘉義県新港郷農会(農協)や台南市下営区農会では、地元で栽培した台南3号で黒豆茶や黒豆粉を販売している。
台南11号は、台南3号の子供だと言える。いずれも「青仁(中が緑色)黒豆」だ。すでに定年退職した呉昭慧が10年かけて改良した台南11号は大粒で、うどんこ病に強く、焙煎に適している。すでに18の農場に技術移転され、栽培面積は合計30~40ヘクタールに及ぶ。やはり大粒の台南8号は「黄仁(中が黄色)黒豆」で、歯ごたえがあり、甘い煮豆や甘納豆にもできる。1ヘクタール当たりの生産高は最大で3870キロに達し、100粒の重さは49グラムにもなる。
「黒豆は黒いのに光を嫌います」と言うのは台南農改場の助理研究員・黄涵霊だ。黒豆は光に特に敏感だという。日照時間の長い夏には開花が遅れたり開花しなかったりする。冬は日照時間が短いが、背丈の低いうちに早く開花してしまうので生産量も減る。台南農改場の目標は、台湾の早春(1~2月)の日照時間の短い時期によく育って収穫量の多い黒豆を育てることだ。

黒豆タンパク飲料。
「黒い瓶に入った醤油」
黒豆は廉価で、家庭でも豆乳や豆腐、スイーツが作れるし、煮豆や黒豆ごはんにしてもいい。また台湾では黒豆は醸造食品の原料としても重要で、黒豆から作る醤油は芳醇で口当たりが良い。特に台南5号は醤油醸造に適している。ロシアのウクライナ侵攻で世界の大豆価格が高騰し、台湾産との価格差が縮まったとはいえ、やはり台湾の黒豆は高い。それでも雲林県の西螺鎮農会などの醤油醸造所は、農家との契約栽培によって台湾黒豆を買付けており、煮込み料理に最適な醤油を作っている。
台南市後壁区にある永興醤油食品廠で作られる15種の醤油のうち10種が台南5号と恒春の小黒豆を原料としている。4代目責任者の頼盈秀によれば、皮が薄く肉厚の台南5号で作る醤油は味のバランスの良い控えめな味で、醤油のうま味成分である全窒素分の割合も輸入大豆より高い。台湾在来種である恒春小黒豆は皮が厚くて野性味があり、熟成すると一層強い香りを放つという。
永興醤油食品廠の広い屋上には醤油甕がずらりと並び、醤油の芳醇な強い香りが漂っていた。頼盈秀の説明によれば、これらの甕は4~6ヵ月の間、日光と夜露にさらさなければならない。3ヵ月発酵させた甕のふたを開けて彼女は言った。「ほら、台南5号の皮に含まれるアントシアニンが溶け出して豆がだんだん赤褐色になっているでしょう。でも汁の方はますます黒くなって熟成すると甘みの豊かな醤油になります」
「大きな工場は機械を用いて黄豆醤油を作りますが、小規模の醸造所は黒豆を使うことで自らの市場を開拓します」というのは、頼盈秀の父、頼振文の理念だ。永興ではカラメル色素や添加物を加えないので、醤油は明るい琥珀色をしている。これはじっくり時間をかけて黒豆を熟成させた色だ。台湾には「黒い瓶に入った醤油」という言葉がある。「一見しただけではわからない」という意味だ。黒豆醤油の芳醇さも、まさに味わってみないとわからない。

台南農改場は各種黒豆製品の開発と民間への技術移転を通じ、国産黒豆の普及に取り組んでいる。
新鮮で栄養価も高い
黒豆は、イソフラボン、アントシアニン、ポリフェノールなど、ビタミンや抗酸化物質を多く含む。台南農改場の副研究員・陳暁菁は、黒豆には遺伝子組換え品種がないし、台湾産の黒豆なら新鮮なので、健康食品の開発に適していると言う。
スポーツやフィットネス愛好家に大豆タンパクがもてはやされているが、黒豆は黄豆より優れている。陳暁菁はメタボリックシンドロームに関する実験で、黒豆タンパクの粉末に体脂肪を減らす効果があることを発見した。酵素による加水分解で小さな分子になったタンパク質は吸収されやすく、高齢者にも適している。そこで精製黒豆ペプチドなどの製品が開発され、民間への技術移転がなされた。あるメーカーの販売する黒豆タンパク飲料は、中医学のクリニックなどで食事代替品として提供されている。
さらに彼女は台南農改場の看板品種である台南3号と台南11号を用いて精製黒豆飲料を生み出した。砂糖は入っていないのに飲むと豆本来のほのかな甘みを感じる。今後はさらに黒豆ペーストや黒豆油も開発し、この素晴らしい食材を広めていくつもりだ。

台南農改場からの技術移転で、ポップコーンならぬ甘く香り高い黒豆のポップビーンズが生み出された。

永興醤油食品廠は台南5号や恒春小黒豆を厳選し、芳醇な醤油を生み出している。
