「黒い瓶に入った醤油」
黒豆は廉価で、家庭でも豆乳や豆腐、スイーツが作れるし、煮豆や黒豆ごはんにしてもいい。また台湾では黒豆は醸造食品の原料としても重要で、黒豆から作る醤油は芳醇で口当たりが良い。特に台南5号は醤油醸造に適している。ロシアのウクライナ侵攻で世界の大豆価格が高騰し、台湾産との価格差が縮まったとはいえ、やはり台湾の黒豆は高い。それでも雲林県の西螺鎮農会などの醤油醸造所は、農家との契約栽培によって台湾黒豆を買付けており、煮込み料理に最適な醤油を作っている。
台南市後壁区にある永興醤油食品廠で作られる15種の醤油のうち10種が台南5号と恒春の小黒豆を原料としている。4代目責任者の頼盈秀によれば、皮が薄く肉厚の台南5号で作る醤油は味のバランスの良い控えめな味で、醤油のうま味成分である全窒素分の割合も輸入大豆より高い。台湾在来種である恒春小黒豆は皮が厚くて野性味があり、熟成すると一層強い香りを放つという。
永興醤油食品廠の広い屋上には醤油甕がずらりと並び、醤油の芳醇な強い香りが漂っていた。頼盈秀の説明によれば、これらの甕は4~6ヵ月の間、日光と夜露にさらさなければならない。3ヵ月発酵させた甕のふたを開けて彼女は言った。「ほら、台南5号の皮に含まれるアントシアニンが溶け出して豆がだんだん赤褐色になっているでしょう。でも汁の方はますます黒くなって熟成すると甘みの豊かな醤油になります」
「大きな工場は機械を用いて黄豆醤油を作りますが、小規模の醸造所は黒豆を使うことで自らの市場を開拓します」というのは、頼盈秀の父、頼振文の理念だ。永興ではカラメル色素や添加物を加えないので、醤油は明るい琥珀色をしている。これはじっくり時間をかけて黒豆を熟成させた色だ。台湾には「黒い瓶に入った醤油」という言葉がある。「一見しただけではわからない」という意味だ。黒豆醤油の芳醇さも、まさに味わってみないとわからない。
台南農改場は各種黒豆製品の開発と民間への技術移転を通じ、国産黒豆の普及に取り組んでいる。