紫色の微かな光
茂林は高雄市中心部から北東へ58キロの所にある。周囲は多くが未開発の原生林で、濁口渓が全エリアを流れ、変化に富んだ地形をなす。ほぼ全域にルカイの人々が住み、その伝統の石板屋はワールド・モニュメント財団の文化遺産に指定されている。同エリアは世界有数の生態現象である「紫斑蝶幽谷(ルリマダラの谷)」と呼ばれ、毎年冬から翌年の春まで、蝶の大群が茂林に飛来して越冬する。
「ルカイ族はルリマダラをSvongvongと呼びます。昔から蝶は私たちのそばにいて、それが当り前でしたが、減少に気づいて初めて貴重な存在だと知りました」と話す陳亦蓁は、茂林で最初に環境にやさしいマンゴー栽培に取り組んだルカイ族である。
ルリマダラはマダラチョウ亜科ルリマダラ属で、羽を広げると4~8cmになる中・大型の蝶である。春から夏にかけて各地で繁殖し、冬は集団で暖かい南台湾に飛んで冬を越す。茂林は蝶の主要な棲息地である。高雄市茂林区ルリマダラ生態保育促進会総幹事・湯雄勁は、もっと規模の大きい越冬地が屏東県春日郷の山奥にあるが、近距離での観察は難しいという。
蝶の研究で知られる学者の詹家龍によると、台湾にはルリマダラ4種が生息する。ツマムラサキマダラ、マルバネルリマダラ、ルリマダラ、ホリシャルリマダラである。鱗構造の翅は、陽が当たる角度で異なる紫色に見える。まるで流れる紫色の光線のように不思議な美しさである。日本の昆虫学者はそのファンタジックな輝きを「幻光」と言った。
学術界ではルリマダラには年3回以上の大移動があるとされる。最初は3~4月、清明節前後の春の北帰行である。5月中旬から6月上旬には新たに羽化したルリマダラが二次移動する。10月の国慶節前後は、ルリマダラにとって最も重要な越冬のための南遷である。台湾南北百キロ以上にわたる壮観な大移動は天空の「蝶の道」といわれる。
茂林の蝶観賞は、蝶が越冬のために南へ飛んだ後の11月から翌3月まで行われる。移動のピークの時期には、毎分1万頭のルリマダラが非常な速さで飛んでいく。紫色の光の河が目の前を通り過ぎる様は、自然界の奇観といっていい。
毎年ルリマダラが北上する時、道路管理当局は国道3号線の252キロ地点に防護網を張る。(台湾ルリマダラ生態保育協会提供)