建物であり文化でもある竹建築
建築士の林雅茵は、プユマの少年会所の竹建築と台湾のほかの竹建築を比較して、次のような特色を挙げる。少年会所の建物の中心部には「核心基礎架(libattubattu)」があり、また建物の8つの方向からは地面から屋根まで達する「大斜撐柱(panubayun)」が立てられている。
林雅茵は、建築にはその民族の精神や哲学が現われていると指摘する。大斜撐柱は、八方から一点に向かう形で立っており、それが構造を安定させている。プユマ語のpanubayunが「団結」を意味することとも呼応している。
さらに「少年会所は軽い構造で、耐震性はありますが、風には抗いません」と林雅茵は言う。しかし、建物中央の地面にある石を詰めた漏斗型の「核心基礎架」は建物に重心を与え、全体の重心を下げることで建物を安定させている。この「核心基礎架」は、台湾のランドマークである台北101を揺れから守るダンパーに似ていると指摘する学者もいて、「台湾の原住民は天性の科学者だ」と言われている。
一見シンプルな竹建築だが、このような構造から2016年の台風1号の風速50メートルの暴風にもびくともせず、人々を驚かせた。「さまざまな自然の素材に対する理解は、私たちの祖先の方がずっと優れていたのです」と林雅茵は言う。
鉄筋コンクリートが建築の主流となってから、人々は自然から得られる建材の知識を失ってしまい、台湾の伝統建築の継承にも深刻な断層が生じてしまったと林雅茵は嘆く。「台湾人として、台湾の伝統建築の知恵と文化と技術を学ぶ必要があります」と言う。
しかし、伝統の建築工法の大部分は徒弟制度の中で伝えられてきたため、文字による記録は少ない。建物の設計も建築工法も職人の勘や見解による違いがある。「私は20年以上にわたって何人もの職人に学びましたが、一人また一人と世を去り、それによって何世代にもわたって受け継がれてきたものも失われてしまいました」
そこで、林雅茵と鄭浩祥は利仁基金会の竹構学苑において共同でカリキュラムを設け、さまざまな分野の人々に系統だった形で少年会所の建築方法を教え、また工法の記録を文字で残そうとしている。
『Puyuma少年会所 台湾普悠瑪部落伝統竹構造』という書籍はまだ出版されていないが、鄭浩祥さんの口述を基礎とし、少年会所の歴史から文化的意義、そして建築の特色、工法や構造、細部の工程や作業要領まで、写真と文章で説明する一冊である。
「これを文章として残さなければ、この世代の人々が世を去った時、これも一緒に失われてしまうのです」と林雅茵は言う。
少年会所の建設を学ぶ時、林雅茵さんは学生たち全員に民族の名前で呼ぶように求める。(利仁教育基金会提供、楊筱虹・蔡卓霖撮影)