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台湾をめぐる

森と海の恋

森と海の恋

サンゴや漁業のための植樹

文・鄧慧純  写真・莊坤儒 翻訳・松本 幸子

9月 2024

この10年、澎湖県は積極的にサンゴ礁再生に取り組み、同時にエコツーリズムを推進してきた。(澎湖県水産種苗繁殖場提供)

ダイバーが海に潜り、三角形の人工礁にサンゴを植える。一方、陸では地元住民が特殊なプランターを使って木の苗を植える。「カエサルのものはカエサルに、神のものは神に」という聖書の言葉があるように、山と海は別の世界だと思われがちだが、そうではない。実は山と海は遠く隔たったものではなく、それらの命運は密接に結びついているのだ。

澎湖県はここ数年、植樹とサンゴの再生や保全に尽力している。それは植樹することで海も守ろうという考えによる。決して奇想天外な考えではなく、言わば一挙両得の試みなのだ。

コーラルストーンの土台に差し込んだサンゴの枝を水槽の中で約2週間飼育してから海に移植する。

海の熱帯雨林

海の熱帯雨林と呼ばれるサンゴ礁は、海洋面積の1%に満たないとはいえ、海洋生物の4分の1がサンゴ礁で繁殖や子育てをしたり、敵から身を守ったりしている。四方を海に囲まれた台湾では豊かなサンゴが見られ、台湾の海洋委員会海洋保育署の資料によれば、世界の約1500種のサンゴのうち500種余りが台湾海域に生息する。中央研究院生物多様性研究センターの研究員‧鄭明修の調査によれば、澎湖諸島の南方四島国家公園だけで15科54属209種のサンゴが記録されている。

ただ、この10年余りは気候変動や人間活動の影響でサンゴの数は激減している。澎湖県水産種苗繁殖場の場長‧柯志鴻によれば、サンゴに適した水温は20~28度で、温かすぎても冷たすぎても白化を招いて死んでしまう。澎湖でも数年続けて台風が来ず、海水温度が上昇してサンゴがほとんど白化してしまったことがあった。また1986年の台風14号でもサンゴ礁は一夜で砕け散り、多くの海底生物の生息地が破壊されてしまった。

澎湖県農漁局局長の陳高樑が沈痛な面持ちで語った説明では、澎湖諸島は2008年に「100年に1度」と言われる大寒波に襲われて多くのサンゴが死に、残ったのはわずか1割ほどだったそうだ。2014年に澎湖南方四島国家公園が設立され、約3万6000ヘクタールが保護区となった。

柯志鴻が設計したサンゴ飼育槽はサンゴの生長に適した環境になっている。

人工再生の成果

澎湖県水産種苗繁殖場を訪れ、柯志鴻にサンゴ礁再生について説明してもらった。サンゴ礁再生作業は大きく2段階に分けられ、第1段階は陸上でサンゴを育て、次に海に移植するのだという。

柯志鴻が設計したサンゴ飼育槽の中には、ハナヤサイサンゴやミドリイシの仲間など多種のサンゴが共生し、美しいインスタレーションのようだった。柯志鴻は水槽のバルブを操作して見せながら「サンゴはきれいな水を好むので、水槽の下から水を入れて上から排水するほか、下部には汚れを排出する装置もあります」と説明する。水槽上部には気泡を出すエアストーンが設置されていた。これは「気泡によってサンゴへの直射日光を遮るためです。太陽光が強すぎるとサンゴが死んでしまうこともあります」と言う。水温、日照、水質など、サンゴに適した生育環境を作るため、柯志鴻が苦労して生み出した水槽なのだ。

水槽の外では、ボランティアたちが株分けしたサンゴをコーラルストーン製の土台に差し込む作業をしていた。これを水槽で約2週間育ててから海に移植するのだ。

海底にサンゴを定着させるのも簡単ではない。「東南アジア諸国でのサンゴ礁の再生は、たいていは海底に敷いた鉄骨にサンゴを結びつけるものです。でもここは台風が来るのでその方法は使えません」と柯志鴻は言う。コンクリートブロックを海底に置いてみたこともあったが、固定が難しく、海流や台風で壊れてしまう。そこで、中を空洞にした三角形のブロックを作り、表面にサンゴを差し込む穴を設け、株を差し込んでからそれを海底に並べた。種苗繁殖場の技士‧游恵晴は「これは言わば家の基礎のようなもので、サンゴの成長につれて複雑な立体空間が形成され、海洋生物の隠れ家となります。高層マンションのように住民もどんどん増えていくのです」と形容する。

官民連携で造る花園

種苗場によるサンゴの再生は、官民連携で行われている。種苗場が再生の技術と合法的なサンゴの入手場所を提供することで、民間企業がサンゴ保全プランを立てられるよう奨励し、より多くの協力者を集めているのだ。

游恵晴によると、種苗場は地元のダイビングショップとも協力し、環境にやさしいダイビングを推進している。例えば、ダイビングにサンゴ植え付け活動も組み込むことで、参加者にサンゴの生態を知ってもらったり、海域やサンゴとのつながりを感じてもらったりしている。またダイビングショップは定期的にサンゴの健康状態や海域状況を種苗場に報告してくれる。

「我々はこれまでに約2500平方メートル、つまりバスケットコート6個分に相当する面積のサンゴ礁を再生しました。そこを訪れる観光客は年のべ5~6万人に達します」と柯志鴻は言う。今では澎湖の鎖港で海に潜ると、色とりどりのサンゴの花園やその中にイセエビやウツボが潜んでいるのが見られるし、アオウミガメと並んで泳いだりもできる。しかも昨年5月には鎖港でサンゴの産卵風景が撮影された。これは、人工的に植えられたサンゴでも大自然の中で生きていくすべを見つけて繁殖できることを表している。

観光のためだけでなく、「サンゴ礁再生の最も重要な目的は、生息地を作ることによって海洋生態系を生き返らせ、漁業資源を取り戻すことです」と農漁局局長の陳高樑は強調する。

植樹自体の難しさ

今回のもう一つの物語は陸地が舞台だ。「澎湖で木を育てるのは非常に困難」と澎湖県林務公園管理所所長の李振綱は断言する。澎湖の年平均降水量は1000ミリなのに、蒸発量は1600ミリ以上になる。しかも土層が20~30センチと浅いうえに、穴の多い火成岩の地質で水が溜まらない。また北東からの季節風が小型台風並みに吹き荒れるのが澎湖の日常だ。強風は塩分を含むため、木の葉は塩漬けされたようになって落ちてしまう。

だが、台湾各地で植樹に取り組む慈心有機農業発展基金会(以下、慈心基金会)が3年前、植樹の助けの神となるプランター「水宝盆」を澎湖にもたらした。楕円形のこのプランターは主に再生紙でできており、苗木が1ヵ月に必要とする15リットルの水を蓄えることができる。中に取り付けられたひもが毛細管現象を利用して根に水を運び続けるので、水やりをする手間もない。水を貯えるポット部は蓋に覆われているので水分の蒸発も防ぎ、蓋に開けられた小さな穴からは雨水も入る。そして1年ほどで再生紙のプランターは生分解してしまうので環境への負担にもならない。

この「水宝盆」のおかげで3年後には苗木の生存率が95%にも達した。李振綱は、かつて植えたモクマオウの木を指差し、60センチから250センチに成長したと満足げに語った。

ダイバーがサンゴを植えること、それは希望を植えることだ。

森と海の恋

植樹の縁で、慈心基金会は澎湖県に「魚付林(うおつきりん)」という考えをシェアした。慈心基金会CEOの蘇慕容は「これは日本から来た考え方で、漁業を守る林のことです。川の上流に植樹すると、雨水が落ち葉などの有機物を川に運ぶので、下流や河口にいる魚介類の栄養となり、さらにはそれらを餌にしようと魚の群れが集まるというわけです」と説明する。

また慈心基金会植樹ディレクターの程礼怡によれば、宮城県気仙沼市の漁師たちは古くから漁業が森林に依存していることに気づいていた。森林の養分が雪解けとともに河に流れ込み、河口の牡蠣などの貝類に栄養を与え、収穫量が増えるのだ。植樹によって海を守ろうという運動はやがて日本各地の漁業組合で盛んになり、日本の教科書に登場したこともあった。

台湾にも、タイワンマスの生息地周辺に植樹した例がある。程礼怡によれば、タイワンマスは水温が17度を超えると生きられないが、山間部の過度な開発で生息地もダメージを受けた。そこで2021年に、武陵農場、林業保育署台中分署、慈心基金会、そして提携企業が協力し、大甲渓上流に2万本以上の木を植えた。「森林が広がるほど森林を通る雨水の温度が下がり、また川が木々の陰になれば川の水温も下がります。そして森の昆虫や落ち葉は川の生物の栄養源になります」

「こんな例もあります。同じ島で命運を分けた例が」と程礼怡が続けた。「カリブ海のハイチとドミニカ共和国は同じイスパニョーラ島にある国ですが、ドミニカ共和国が厳格に森林を保護して漁業資源を守ったおかげで各種観光を発展させ、国民の年収が7000米ドルに及ぶのに対し、西側のハイチでは、森林は伐採され尽くし、雨が降ると土石流になって飲用水にも事欠くほどで、漁業資源も乏しく、国民の年収は700米ドルしかありません」

気候変動に対しては誰も部外者ではいられない。対策に参加するなら、植樹こそ誰でも始められることだろう。

持続可能性を林から海へ

2024年4月中旬、植樹にうってつけの頃に、澎湖県と慈心基金会、民間企業が協力し、澎湖杭湾で植林とサンゴ再生のプロジェクトに着手した。3年で2.5ヘクタールの森林を整備する予定だ。

海岸林に防風と海岸保全だけでなく、魚付林の機能も持たせる。つまり造林地のデトリタス(生物の死骸や破片)が潮流や海流によって杭湾に運ばれ、サンゴの養分となる。樹木は澎湖に適した13種が植えられた。例えば林の前面にはクサトベラ、モクマオウ、オオハマボウ、モンパノキなどが、更にタイワントベラ、コバノナンヨウスギ、クロヨナ、シャリンバイなどの高木も組み合わせて多様性を持たせた。

取材当日、澎湖に木を植えようと多くの人がやって来ていた。「植樹の3年後、或いは10年後でもさして違いは感じられないかもしれません。成果は必ずしも1世代のうちに見られるものではありませんが、それでも必要で重要な仕事です」と李振綱は言う。気候変動に対しては誰も部外者ではいられない。対策に参加するなら、植樹こそ誰でも始められることだろう。

鎖港杭湾のダイビングショップはサンゴの健康状態を定期的に チェックするなど生態保全に協力している。(澎湖県水産種苗繁殖場提供)

杭湾ではラベンダーの花畑のように紫色のミドリイシが広がる。(澎湖県水産種苗繁殖場提供)

長年植樹活動に取り組んできた慈心基金会の蘇慕容CEOが、日本の魚付林の考えを澎湖県に紹介したことにより、森林による漁業資源の保全が進められている。

植樹と漁業資源が深く関係する例として、慈心基金会がタイワンマスの生息地に植樹した例を程礼怡は紹介してくれた。

澎湖は厳しい自然条件のせいで植樹が困難だが、この3年間、澎湖県と慈心基金会との協力によって緑地が生まれている。

プランター「水宝盆」は、水不足の澎湖で効果を発揮している。