森と海の恋
植樹の縁で、慈心基金会は澎湖県に「魚付林(うおつきりん)」という考えをシェアした。慈心基金会CEOの蘇慕容は「これは日本から来た考え方で、漁業を守る林のことです。川の上流に植樹すると、雨水が落ち葉などの有機物を川に運ぶので、下流や河口にいる魚介類の栄養となり、さらにはそれらを餌にしようと魚の群れが集まるというわけです」と説明する。
また慈心基金会植樹ディレクターの程礼怡によれば、宮城県気仙沼市の漁師たちは古くから漁業が森林に依存していることに気づいていた。森林の養分が雪解けとともに河に流れ込み、河口の牡蠣などの貝類に栄養を与え、収穫量が増えるのだ。植樹によって海を守ろうという運動はやがて日本各地の漁業組合で盛んになり、日本の教科書に登場したこともあった。
台湾にも、タイワンマスの生息地周辺に植樹した例がある。程礼怡によれば、タイワンマスは水温が17度を超えると生きられないが、山間部の過度な開発で生息地もダメージを受けた。そこで2021年に、武陵農場、林業保育署台中分署、慈心基金会、そして提携企業が協力し、大甲渓上流に2万本以上の木を植えた。「森林が広がるほど森林を通る雨水の温度が下がり、また川が木々の陰になれば川の水温も下がります。そして森の昆虫や落ち葉は川の生物の栄養源になります」
「こんな例もあります。同じ島で命運を分けた例が」と程礼怡が続けた。「カリブ海のハイチとドミニカ共和国は同じイスパニョーラ島にある国ですが、ドミニカ共和国が厳格に森林を保護して漁業資源を守ったおかげで各種観光を発展させ、国民の年収が7000米ドルに及ぶのに対し、西側のハイチでは、森林は伐採され尽くし、雨が降ると土石流になって飲用水にも事欠くほどで、漁業資源も乏しく、国民の年収は700米ドルしかありません」
気候変動に対しては誰も部外者ではいられない。対策に参加するなら、植樹こそ誰でも始められることだろう。