今日の鳥類は明日の人類
再発見されたヒガシシナアジサシは、海外からも宝物と見なされ、台湾や中国、韓国の政府もその繁殖のために無人島を保護区に指定した。また、その特性を理解するために他の生息地と情報を交換し、その渡りのルートや分布範囲を把握している。
だが、学術面の理解にとどまっていては不十分で、生態保全には多くの人が責任を果たさなければならない。2008年、くちばしにプラスチックの管がついたヒガシシナアジサシの写真が公表され、「小管事件」として物議をかもした。この写真は自然環境の破壊や漁業資源の枯渇、日増しに深刻化する海洋ゴミの問題などを人々に突き付けた。「一つの生物種の危機の背後には、多くの原因が潜んでいます」と台湾大学森林環境‧資源学科の博士研究員である洪崇航は言う。
「遅かれ早かれ大地からの反撃があるはずです。気候変動はすでに発生していますし、海洋汚染もそうです」と話す袁孝維は「今日の鳥類は明日の人類と言えます」と言い切る。「鳥類は食物連鎖の中では上位の捕食者に当ります。鳥類の一つの種が絶滅すれば、下位にある食物連鎖全体に極めて大きな変化が生じるのです」と蒋功国も同様の警告を発する。
だが、長年同じところに生息する留鳥に対して、国境を越えて移動する渡り鳥を保護するのは容易ではない。「鳥の渡りに国境はありません。越冬地、繁殖地、経由地など、そのうちの一ヶ所の国だけが保護を重視していても、大きな成果を上げることはできません」と袁孝維は言う。そうは言っても、ヒガシシナアジサシにチャンスが全くないわけではない。台湾で冬の渡り鳥として広く知られているクロツラヘラサギの場合、一度は数が500羽前後まで減少したが、多くの国が協力し合い、クロツラヘラサギ保全行動計画に署名を交わしたことにより、最近では個体数が5000羽を超えたのである。クロツラヘラサギの主要な越冬地である台湾は、国際社会から高く評価され、国際環境NGO、バードライフ‧インターナショナルの「国際保全賞」を受賞した。
ヒガシシナアジサシの境遇は、環境破壊という喫緊の課題を浮き彫りにしているが、それと同時に、人類と動物との不可分の関係も示している。これは私たちに大自然に親しむよう呼びかけ、また地球の民としての使命と責任を教えてくれる。「神話の鳥」というのは美しい名前だが、それは深刻な宿命を際立たせるものでもある。この危機をどう契機へと変えていくか。それは人間の考え一つにかかっているのである。
調光に問題のあった一枚のフィルムから、梁皆得は思いがけず、灰色がかった羽毛を持ち、嘴の先端が黒い「神話の鳥」を発見した。(梁皆得提供)
子供の頃から動物好きだったという梁皆得は、台湾の重要な鳥類ドキュメンタリーフィルム監督である。(林旻萱撮影)
馬祖の鉄尖島に並べられたデコイ(模型のおとり)。これを使ってオオアジサシとヒガシシナアジサシの群れを誘引する。
生息地の環境破壊の他に、猛禽類や蛇、齧歯類などの天敵、人為的な干渉、悪天候なども繁殖失敗の原因となる。
種の特性をより深く理解するために、鳥に足環をつける研究スタッフ。
ヒガシシナアジサシ保護区に指定されている馬祖の鉄尖島は、数少ない繁殖地の一つである。