中薬店の今後の活路
迪化街の商店に共通する特色は、どの店も行動が速く、時局を見据えて転換していく点にあると陳仕哲は言う。
こうした特性は迪化街発展の過程とも関わっている。春節前になると自然ににぎわっていた大稲埕の「歳末セール」だが、1996年に台北市がこれを大々的に宣伝し、年末の行事などを組み合わせて迪化街を「年貨大街」としたところ、たいへんなにぎわいを見せるようになり、これによって、迪化街の古い町並みも華麗なる変身を遂げた。もともと大稲埕の商店は、地域の産業が衰退していたため再開発を議論し始めていたのだが、伝統ある古い町並みを保存し、歴史や文化に対するアイデンティティを高めようというコンセンサスが生まれていったのである。
大稲埕出身という栄光と伝統産業復興への使命感に加え、消費市場の変化、若い後継者へのバトンタッチや台北市による古い店舗改造の指導、そして自然派による新たなエネルギーの注入などがあり、ここで営業する商店はそれぞれに従来の顧客層を維持しつつ、新たなビジネスチャンスを開拓することに全力を注ぎ始めたのである。
こうして、以前より鮮明でシリーズ性のあるデザインのパッケージが次々と打ち出され、日本語、英語、華語など多言語の商品説明が見られるようになった。また核家族や単身世帯向けの小さなパッケージや、温めるだけで食べられる薬膳レトルト食品、若い世代に人気のあるホットワイン用のスパイスセットなども店頭に並び始めた。生活習慣や食の流行などの変化に対応し、次々と新たな商品が打ち出されている。また、実体店舗の他に、ほとんどの商店がオンラインショップも運営するようになった。
例えば、少なからぬ外国人が名指しで訪れるのは、パッケージに台湾の絵と、日の出と波の商標がついている聯通漢芳だ。ここでは西洋のハーブと中薬材を組み合わせたハーブティーや、石鹸を手作りする人のための中薬のパウダーなどを提供している。
このような積極的な経営戦略により、中薬は国境を越えて異なる文化とも呼応するようになり、さらに現代生活における文化やビジネスとも新たなつながりを見出している。
「大稲埕で生き延びてきた商店は、それぞれの特色と顧客を持っています」と陳仕哲は言う。中薬産業はこのようにして大稲埕で百年にわたる盛衰を乗り越え、今日まで揺るがずに産業を守り続けてきた。今後はより幅広く多様な角度から台湾人の日常を守り続けていくことだろう。
中薬店の物語は、この町屋と同じく長い歴史を持ち、時の流れを感じさせる。
中薬店で塊から切ってもらう当帰(トウキ)は香りが良い。
台湾人が好きな羊肉炉、薑母鴨、麻辣鍋などの鍋料理の出汁には中薬材が入っている。
中薬の新たな可能性を探っている順昌中薬店の三代目――左から盧俊欽、盧俊雄、盧淑如。
五香粉の上級版と言われる「十三香」は、煮・炒・蒸・揚・焼などあらゆる調理方法に使え、台湾では広く普及した配合である。
迪化街エリアは、企画を通して漢薬の奥深さや魅力を再発見する「本草パーティ」を開催した。(City Explorer提供)
大稲埕にある徳利泰中薬材互動体験館にはさまざまな珍しい中薬の原型や、写真左の船型の薬研(やげん)など昔の道具が展示されていて、さまざまな発見がある。
「活きた古い町並み」と呼ばれる大稲埕で、伝統的な中薬産業は業態転換し、現代人や異国文化とのつながりを見出している。