燻した臘肉の味わい
台湾の多様な食文化の一部は、1949年に国民政府とともに大陸から渡ってきた軍や移民とともにやってきた。嘉義県水上郷の「星沙齋湖南臘肉」もその一つである。
経営者の李嘉陵さんは外省人の二世で、父親は空軍を退役し、臘肉(中華の塩漬け干し肉)作りを副業としていた。だが、当時は春節前などに親戚や友人に頼まれて作るだけだった。台北に出て働いていた李嘉陵さんは、40歳の時に帰省し、父の故郷の味を事業として経営することにした。しかし、消費者向けに量産してみると、数々の問題に直面した。腐ってしまったり、口当たりが悪いなどの問題が起き、それらの問題を一つずつ克服し、ようやく製造プロセスが確立した。今ではこの事業も35年になる。
午前8時半、従業員は冷蔵室から腸詰と臘肉を取り出し、天日にさらす準備をする。「腸詰は少なくとも6~7日は干す必要があります」と李嘉陵さんは言う。年末のシーズンに入ると、写真愛好家が集まってきて、青空の下に並べられた赤い臘肉の写真を撮っていく。
「臘肉は乾燥した寒冷な気候で干すのが理想ですが、台湾は湿度が高いので、あまりふさわしくありません」と李嘉陵さんは言う。そこで冷房を使うことになり、夜は冷蔵室で4℃の冷気に当て、昼間は日光にさらす。天日干しするには、太陽が出ていて風がなければならず、「まさにお天道様しだいの商売です」という。日差しが強すぎても良くない。早く乾いてしまうので発酵の時間が不十分となり、おいしくならないのである。
雨が続いたら、ずっと冷蔵室に入れておくしかないと言う。それも簡単なことではない。毎晩温度を調節しなければならない。「温度を下げていくのは発酵を進めるためです。うちの臘肉がおいしいのは独特の味付けをしているのだろうと言う人がいますが、実はプロセスの方が重要で、この6日間でどう発酵させるかが経験のなせる技です」と言う。
続いて李さんは私たちを作業場に案内してくれた。2班に分かれた従業員が、毎朝市場から送られてくる新鮮な豚肉を処理している。1班は豚の腿肉の筋を取っている。「筋や膜は舌ざわりに影響しますから」と言う。続いて肉を細長く切り、機械にかけてひき肉にする。これは腸詰の材料になる。調味料は塩と砂糖、うま味調味料、トウガラシ粉、花椒、コーリャン酒だけだ。
作業場のもう一方では、李さんの妻の陳守貞さんが包丁を振るい、バラ肉を幅5センチの棒状に切り、木綿の糸を通している。続いて表面に均等に塩をまぶし、もみ込んだ後、低温で5日間塩漬けにする。さらに4~5日天日に干し、それから籾殻で燻す。
工場の裏には李嘉陵さんが作った深さ2メートルほどの長い燻製器が二つある。一本の棒にバラ肉を8本吊るし、それらを燻製器の上方に並べていく。燻製器の底に炭火を入れ、その上を籾殻で覆うと煙が上がり始める。燻製する間は常に温度に注意し、燻製器内を40℃に保つ。温度が高すぎるときは上の開口部を分厚い布で覆い、火を強くしたいときは布の対角線をめくり、空気の流れを作る。
こうして5日にわたって燻すと、肉は赤く染まる。燻製器から取り出したら熱湯で洗い、灰や脂を洗い流す。
これでようやく完成だろうか。いや、まだだ。この段階では燻製の風味が強すぎるので、1~2週間は風に当てて寝かせておき、ようやく包装する。このように臘肉の製造には一か月近くがかかるのである。正午になると、李嘉陵さんは食卓一杯に臘味の料理を出してくれた。脂身と赤身が美しい紅白の縞模様になった蜜汁臘肉(臘肉のシロップ漬け)を口に含めば、そのおいしさとありがたさが染みわたる。