
2024年、世界野球(WBSC)プレミア12の決勝戦前、台湾は緊張と期待に包まれていた。落ち着かない野球ファンが「東港鎮海宮オンライン霊籤(おみくじ)」のサイトで神にお伺いを立てたところ、「苦労の末に楽が来る」という意味のおみくじを引き、ネット上にシェアして大勢のファンを喜ばせた。果たして台湾チームが本当に優勝したため、台湾のおみくじが新たに注目されることとなった。何事も神に頼りたがる台湾人だが、人々は神様に何をお願いするのだろう。おみくじは、人々にどのような知恵と慰めをもたらすのだろうか。
「人々は未知の将来を少しでも知りたいという願望を持っています」と話すのは台中教育大学台湾語文学科の林茂賢准教授だ。例えば、どんな職業に就くべきか、転職はうまくいくかなど、なかなか答えが出ない時には神様に教えを請いたいと思うものだ。仕事や学業、健康、結婚、マイホーム購入、裁判など、ありとあらゆる課題において、心に迷いや不安が生じた時、人々は神にお伺いを立てて、おみくじを引き、その言葉の中に答えを見出そうとする。

2024年の世界野球プレミア12決勝戦の前日、野球ファンがオンラインでおみくじを引いたところ、良い兆しが見えるというお告げがあり、まさに台湾の優勝を予言するものとなった。
神からの優しいお導き
林茂賢さんによると、どの廟でもおみくじを引く手順に大きな差はない。まず線香に火を灯し、神の前に立って自分の姓名と住所、お伺いしたい事柄を唱え、神のお許しを得てからおみくじを引く。おみくじを引く際は、一つの事柄について、おみくじ一回となる。一度にたくさんの事柄をお訊ねすると、神様もどれに答えていいかわからなくなるからだ。
では、どのようにおみくじを引く許可を頂くのか。ここで使うのが筊杯(ジャオベイ)だ。筊杯というのは半月形の木片が2枚1組になったもので、片面が凸、片面が平らになっている。これを床に落とした時、一つが凸面、一つが平らな面だった時は「聖筊」と言って、神のお許しが出たことを意味する。両方が凸面だったら「陰筊」で、否定を意味する。逆に両方とも平らな面が出たら「笑筊」と言って、神がまだ決めていない、あるいは笑って答えない、という意味で、お伺いの内容が不明瞭な可能性もあり、もう一度最初からやり直した方がよい。
こうした手順を経て、おみくじを引くお許しが出たら、筒から棒を一本引く。廟によって筒の大きさは違う。小さいものは筒を手に持って振り、とびだしたり落ちたりした一本を引く。床に置かれた大きな筒の場合は、両手で全てのみくじ棒をつかんでシャッフルするように動かして筒の中に落とし、一番上に頭を出している一本を引く。その後、この番号で良いかどうかを再び神様に伺い、擲筊で答えを確認する。
神のお許しが得られたら、番号が書かれた箱の中から、籤詩(みくじ箋)を取り出す。それをじっくり見比べると、書き方にいくつかのパターンがあることがわかる。100首、60甲子籤、28首などの種類があり、どのタイプを採用するかは廟が神にお伺いを立てて決める。林茂賢さんによると、おみくじの内容にも二つの種類がある。一つは有名な芝居の物語が書かれたもので、「文王拉車」や「陳三五娘」「三顧茅廬(三顧の礼)」などがある。これらの歴史物語や伝説を通して神の教えが書かれているのだ。もう一つは詩で表現されているものだ。内容が分からなくても、各種の問いに対応する解説――例えば、財必獲、訴得理、婚可成などと書かれており、同じ物語をさまざまな状況に解釈して応用できる。
昨年(2024年)の世界野球プレミア12決勝戦の前夜、野球ファンが引いたのは60甲子籤で、「霊鶏漸漸見分明、凡事且看子丑寅、雲開月出照天下、郎君即便見太平」というものだった。その解説の部分には「苦しい時は終わって喜びが来る兆しがある。功名を問うなら、十年の寒窓の末に成功の日が来る」とあり、果たして台湾チームが優勝し、おみくじの言葉通りになったことに人々は驚いたのである。

おみくじを引くときは、先に擲筊をして神の同意を得なければならない。
台湾人のスピリチュアルセラピー
擲筊にしろ、おみくじにしろ、林茂賢さんは、人々が神様にお伺いを立てるのは、何らかの選択や挫折に直面していて自分を無力に感じている時だと言う。自分の将来をおみくじ頼みにするのは危険だと考える人もいる。しかし、多くの人は神様にお伺いする前に自分で答えを出しているもので、おみくじの言葉を自分の期待する方向で解釈するのである。「おみくじの内容は最終的にはあなたを励ますもので、『ダメになる』『失敗する』といったことは書いていないのです」と言う。おみくじの中に自分を後押しする答えを見出せば、自信が持て、将来に希望も持てる。「これは実は台湾社会における一種のスピリチュアルセラピーなのです」と林茂賢さんは言う。
では「大凶」や「下下籤」を引いてしまったらどうすればいいのだろう。林茂賢さんは、気にすることはないと笑う。「大凶」を引いたとしても、人々は神にご加護を祈り、乗り越えられるようお願いし、何事にも慎重になるからだ。

実際に廟でおみくじを引く行為には儀式的な感覚がある。線香に火を灯し、神の前で心の中の迷いを唱え、お告げを頂くという一連の儀式である。
時空を超える七王爺のオンラインみくじ
多くの廟は時代とともに新しいサービスを開始している。オンラインおみくじを始める廟もあり、中でも最も広く知られているのは鎮海宮のオンラインサービスだ。
屏東県東港にある鎮海宮でお祀りしているのは蘇府七代巡で、七王爺として親しまれている。鎮海宮の委員を務める蔡志聡さんによると、この廟でオンラインおみくじを始めたのは2000年代だ。当時、廟の主任委員を務めていた洪全瑞さんは廟の運営を刷新したいと考えており、デジタル化を試みようと、ウェブデザインを専門にしている娘婿の王俊文さんに廟のサイトの作成を依頼し、オンラインおみくじサービスを始めることにした。サイトを立ち上げるプロセスでは、デザインやサービス項目など、すべて七王爺にお伺いを立て、お許しを得て進められた。
鎮海宮のオンラインおみくじのページを開くと、おみくじを引く手順が詳しく説明されている。まず、心を込めて自分の姓名と住所、お伺いしたい事柄を唱え、それから画面上のみくじ筒をクリックする。するとみくじの番号が飛び出すので、筊杯をクリックして投げる。ここで神の同意が得られたら、おみくじと解説が出てくるようになっている。蔡志聡さんによると、おみくじの文章は長いが、引いた者がそれを読む時に、いくつかの文字に特にひかれる可能性がある。これは当事者だけが感じるもので、神と信者のコミュニケーションの一つなのだという。
時間や場所の制限を受けないオンラインおみくじは24時間年中無休で引くことができ、人々のさまざまな悩みを解消してくれる。鎮海宮ではオンラインおみくじの英語版とアプリも提供しており、より利用しやすく親しみやすいものになった。鎮海宮のフェイスブックにはネットユーザーから七王爺へ感謝のメッセージが寄せられている。まるで知恵のある年配者が近くにいるかのように迷いを解いてくれるといった声だ。鎮海宮の現在の主任委員、洪新旗さんによると、時々このような参拝者が来てくれるという。海外にいた時に困難に遭遇し、オンラインでおみくじを引いて七王爺に救われたからとお礼参りに来たと、奉納金を納めていくのだという。

おみくじを引く儀式の感覚
最近はオンラインでおみくじを引ける廟が増えた。東港の東隆宮、北港朝天宮、鹿港天后宮、それに台北の霞海城隍廟などだ。しかし、実際に廟の門をくぐって線香に火を灯し、神様に相対して願い事を唱えるという行為には、他では取って代わることのできない儀式の感覚がある。
実際に廟でおみくじを引くにはコツがある。蔡志聡さんによると、何度擲筊をしても聖筊が出ないことがあり、神様がおみくじを引かせてくれない。そうした時は、問い方を変えてみた方がいい。お答えをいただくのに時間がかかるから、少し時間をおいて再びお伺いするか、日を改めてお伺いした方がよいか、訊ねてみるのだ。そうすると、すぐに聖筊が出ることがあるのだという。洪新旗さんは、さらに詳しく説明してくれた。鎮海宮の前身は三つの集落の神を集めた「共合堂」で、迎王祭典のおかげで鎮海宮は千歳とも縁を結ぶこととなり、鎮海宮には多数の神が祀られている。主神は七王爺で、その他の神々は補佐の役割を果たしている。そのため、廟の実務について神にお伺いを立てる時、鎮海廟ではまず七王爺が任に就かれているかどうかをお伺いするようにしている。お伺いする事柄の中には、七王爺以外の神では決められないこともあるからだ。そして「七王爺が任に当たっておられる時は、擲筊も非常に順調に進むのです」と言う。
現代社会には心理カウンセラーや悩み相談のホットラインなどがあるが、林茂賢さんは、このような例を挙げる。老婦人が心に不安や苦しみを抱いている時、カウンセリングを受けたりホットラインに電話をするだろうか。いや、むしろ神様に心の内を打ち明けたいと思うだろう。そうすることで気持ちは晴れるもので、これこそが宗教信仰がもたらす心の平安なのである。林茂賢さんが言う通り、どの時代にも人々は不安を抱えているもので、神のお告げを通して自信を持つことができる。オンラインであれ、実際に廟に足を運ぶのであれ、おみくじが人々の心に占める重さは変わらない。神様がおみくじを通して告げてくださる言葉は、台湾人の暮らしの中の、目には見えない優しい寄り添いなのである。

みくじ棒を引いた後、再び擲筊をして、この番号で良いかどうかを伺う。廟の決まりによって、1回聖筊が出ればよいというところもあれば、3回連続聖筊が出なければならないとされるところもある。

不安や苦悩にさいなまれている時、廟に行けば心の安定が得られ、再び歩み出す力がもたらされる。

林茂賢さんは、自信と希望を与えてくれるおみくじは、台湾社会における一種のスピリチュアルセラピーだと考える。

おみくじの言葉には神の知恵が込められており、人生を正しい方向へ導き、不安を解消してくれる。

鎮海宮の波型の建築設計は造船技術を活かしたもので、流れるような弧が美しく、廟全体を壮麗なものとしている。

おみくじを引く時は、筒の中のみくじ棒をすべて掴んで持ち上げ、それを落とした時に先端が飛び出しているものが神様があたえてくださったものだとされる。

東港鎮海宮のオンラインおみくじには英語版サイトとアプリもあり、時間や場所の制限を受けずに引くことができる。(鎮海宮公式サイトより)

七王爺を祀る鎮海宮では、年中無休でオンラインおみくじサービスを提供しており、国内外の人々を信仰でつないでいる。

オンラインであれ、実際に廟に足を運ぶのであれ、おみくじは人々の暮らしにやさしく寄り添っている。

神様は人々の悲喜こもごもをすべて引き受け、心を慰めてくれる。写真は屏東県東港の鎮海宮。