
横山書法芸術館(書芸館)は、桃園で書道文化が盛んなことから設立され、書道を中心に漢字文化圏の芸術界をつなぐ展示を行う。
全台湾で最も移住者が多く、6直轄市の中で出生率も最高、平均年齢が最も若い活気あふれる都市・桃園。近年では大規模な公共施設が次々と完成し、MRTの交通システムの整備が進み、都市の脈動がさらに加速している。
2021年に開館した桃園市立美術館系列の横山書法芸術館(以下、書芸館)は、2022年に台湾建築賞最優秀賞を受賞し、都市に新たな風を吹き込んだ。空港に程近いため建物の高さに制限があり、周囲の低層建築や前方に広がるため池と調和し、都市の中で自然の息吹を漂わせている。

書芸館の壁は、グレーホワイトの木目調の打放しコンクリート壁と、黒のきめ細かなアルミの押出型材で構成されている。
水辺に臨む書芸館
書芸館は建築家の潘天壹氏による設計だ。東洋の庭からインスピレーションが得られたといい、書芸館のある公園が「硯」、池が「墨池」、建物が「篆刻」に見立てられている。
白と黒を基調とした建築には、滑らかなグレーホワイトの打放しコンクリート壁に、天井から床まで無数の細い折り畳み式パネルが配された開口部が設けられている。2階には細かな模様が施されたアルミの押出型材が使用され、マットな黒の建材が太陽に照らされると、まるで黒曜石のような輝きを放つ。5棟の建物からなる書芸館は、遠くから見ると緑豊かな草地に5面の硯が置かれたかのようにも見える。各建物がずれるように配置されているため、建物のそばに古の風習・曲水の宴からの着想で設けられた池や公園のため池と相まって、歩く度に移ろう風景が美感に訴えてくる。

東洋の「開口部」をコンセプトにしたエントランス。中央にある池が禅を思わせるほか、ため池の多い桃園の地理的特徴を反映している。
桃園の文化芸術を振興
桃園市立美術館の館長代理・張至敏さんは、書芸館設立の経緯を振り返る。かつて桃園市政府文化局に務め年間100件以上の展示申請を取り扱ってきていた張さんは、書道芸術をテーマにした台湾唯一の美術館である書芸館について「桃園の芸術文化は非常に活発で、書道芸術もその中で一翼を担っていることは明確です」と語る。
美術館の設立前から、桃園にはパブリックアートを楽しめるスペースが30〜40ほどあり、文化局管轄の「城市故事館」群や「中壢芸術館」「桃園77芸文町」「南崁児童芸術村」など、多くの場がアーティストたちの発表・交流の大切な舞台となっていた。桃園が直轄市に昇格したことで、自然と美術館設立という流れとなったのだ。
現在では書芸館にくわえ、2024年に開館した子ども向けの「桃園市児童美術館」(以下、児美館)や、2026年の完成を目指して建設中の「桃園市立美術館(以下、大美館)」などの美術館群が次々と整備されており、桃園で芸術文化の波を巻き起こすことが期待される。

邱杰森さん「時の情景」は桃林鉄路から着想を得ており、抽象的な符号を用いて地域の記憶を再現している。
広々明るい子供たちの遊び場
子どものいる家庭に広く支持されている児美館は、建築界で最高の栄誉であるプリツカー賞を受賞した日本人建築家・山本理顕氏と、台湾の建築家・石昭永氏が手を組んで設計された。
青埔特区に位置し、MRT桃園空港線A19駅近くに建つ児美館は、道路を挟んで大美館と向かい合う。さらにA17駅近くには書芸館が、また台湾高速鉄道桃園駅と直結するA18駅そばにはアウトレットモールの華泰名品城があり、こうした文化・レジャー施設が集まって文化のグリーンベルトを形成している。休日になるとこのエリアは市民のレジャースポットとして賑わうだけでなく、遠方からの観光客にも人気の場所となっている。
青塘園内に建つ児美館は、山本氏による透き通るようなデザインが特徴で、大きなガラス窓や緑に覆われた傾斜屋根がまるで丘のように景色に溶け込んでいる。屋根の上にはスロープがある。そこをぶらぶら登っていくのも面白そうだ。
遊びの場を提供する親子館(児童館)とは異なり「児美館の目的は子どもたちの美的感覚を高めること。それを周囲の生活環境から始めたい」と張さんは話す。子どもたちの目を引くため、館では積極的にアーティストを招き、桃園の地元要素を取り入れるなど、年齢ごとに楽しめる作品を用意する。
児美館の試営業期間中の展示「未来を探そう」について、桃園市立美術館教育普及部門の周郁齢さんが説明してくれた。12人のアーティストが青埔の農村から新興都市への変貌をテーマに作品制作をしたそうで、例えば李文政さん作のゲーム機「素敵なご近所さん」では、車両や高層ビル、ため池、川といった要素にくわえ、地元の工事現場でよく見かける警告用の黒と黄色の縞模様がユーモラスに取り入れられた。鄧文貞さんは「青埔のタイムトラベル」をテーマに、歴史的考証に基づき、刺繍を通じて過去から現在までの地域の変化を子どもたちに分かりやすく伝えた。

三明治工 (Sandwishes Studio) の「種の都市」は、桃園に移り住んだ多くの海外ルーツの家族を反映した作品。床に無造作に置かれているのは東南アジアの植物の種をモチーフにしたクッションだ。
ようこそ桃園の“表座敷”へ!
公共交通機関であるMRTの建設と開通は、都市に新たな可能性をもたらす。「MRTが開通すればここは桃園市民の“表座敷”になるだけでなく、海外からの旅行者が乗り継ぎ便で訪台した際に滞在できる人気スポットになるでしょう。桃園国際空港に降り立ち短時間の滞在をする年間 200 万人の旅行者は、空港からMRT に乗って観光の最初の目的地としてここに来られます」と2年後に開通予定の桃園MRT緑線への期待を込め語るのは桃園市立図書館の館長・施照輝さんだ。
桃園MRT緑線のG11駅そばにある全面オープンして間もない桃園市立図書館・新本館は、「影・展・書・店」が一体となった複合施設だ。日本の建築チーム「梓設計」と台湾の建築家・郭自強氏の共同設計で、大きな「図書館棟」とそれより少し小さい「映画館棟」の2棟の建物からなる施設は、賑やかな桃園中正芸文特区に位置する。
2022年に先にオープンしていた図書館棟の1階には客席数200席のホールや展示スペース、蔦屋書店やスターバックスといった商業施設が入る。敷地面積が台湾最大級であり、その美しいデザインから「台湾一美しい図書館」とも称されている。また、ソフト・ハード両面の設備が充実していることから、週末になると1万~2万人の来館者が訪れる、まさに市民にとっての表座敷としての役割を果たしている。空中通路で繋がる「映画館棟」には、シネマコンプレックス・威秀影城がオープンし、飲食店も入っている。

段存真さんの「都市の軌跡」では、子供たちが球を転がしながら進める巨大なトラックが設けられ、都市を往来する感覚が再現された。
全世代が楽しめる読書の楽園
今年館長に就任した施さんは、かつては米国ロサンゼルスに派遣され、台湾観光プロモーションを担当しており、その経験から桃園市立図書館・新本館が果たすべき役割と任務に対しては広い視野を持っている。つまり、ターゲット読者層を的確に設定すれば、人々は自然と図書館に足を運ぶようになると考え、本を中心とした教育と学習の大切な拠点である図書館について「第一の目標は読書を楽しくすること」と話す。
そのため図書館では、豊富な蔵書と優れた設備を基盤に、あらゆる年齢層に向けた多彩なイベント開催にも力を入れている。館内は年齢層ごとにフロア分けがされており、2階のシニアエリアでは、拡大読書器や点字と文字が併記された本が用意されているほか、祖父母と孫が一緒にボードゲームを楽しむこともできる。3階には、通常の絵本を始めとして、飛び出す絵本、知育教材などが並ぶ。ここでは親子向けお話劇場や手作りコーナー、読書会といったイベントも日常的に開催されている。青少年を対象にした4階では、青少年向け書籍、コミックやライトノベルに加えて、レーザーカッターや3Dプリンターなどが備えられているほか、日本のアニメ「機動戦士ガンダム」シリーズのプラモデル「ガンプラ」制作やDIY教室もおこなわれている。5階の一般書籍コーナーには、働く世代に向けた「心の癒やし」コーナーなども設けられている。
新住民(海外から台湾に移り住んだ人たち)や台湾駐在者から特に喜ばれているのは、豊富な外国語の蔵書だ。英語、日本語、ベトナム語、スペイン語、フランス語、チェコ語など、さまざまな言語の本が揃っており、子ども向け絵本は2万冊、書籍は4万冊もあり実に圧巻だ。6階には、台北のベルギー弁事処(大使館に相当)と連携して設けられたフランス語コーナーもある。
館内を巡れば大人も子供も、また台湾人も外国人も、それぞれの興味に応じた蔵書に出会える。来館者の輝く表情を目にすると、桃園市立図書館・新本館を観光の起点にするのだという、館長の施さんの思いに納得させられる。

桃園市立美術館の館長代理・張至敏さん(桃園市文化局提供)

書芸館の高さ12メートルのデジタル展示室は、デジタル作品を展示するだけでなく、外の光も取り入れている。

児美館の試営業期間中に開催された「未来を探そう」展では、アーティストらを招き、地域の文化と融合させて、子供たちが楽しめるような作品が制作された。

大きな白い傾斜屋根のある児美館。

桃園市立図書館の館長・施照輝さん。

親子向けの桃園市立図書館・新本館3階には豊富な絵本のコレクションがあり、子供サイズのカラフルな備品に思わず顔がほころぶ。


蔵書数が豊富でハード面も整備され、レジャーとエンターテイメントが両立する桃園市立図書館・新本館は桃園の人気スポットで、多くの観光客も魅了している。(外交部資料)

館内で最も代表的な円錐形の明り取りは、換気と採光の機能を果たしている。

MRT桃園空港線を挟んで向かい合うように建つ桃園市児童美術館(児美館)と桃園市立美術館(大美館)は、地域の芸術文化の発展に貢献している。