風と石の歌を聞く
紅樹林駅から台2号線を三芝まで走り、中興街との交差点にあるコンビニまで来るとすでに16キロ走ったことになる。だが、これはウォーミングアップに過ぎない。スポーツコーチをする游昌憲さんによれば、ここはサイクリストたちの間で「関所」と呼ばれている。この「関所」を過ぎると、先には信号がないからだ。ここで少し休憩し、水とカロリーを補給した。いよいよ海岸コースの開始だ。
台2号線をそのまま進み、北海岸の最初の岬、「麟山鼻」にやってきた。なるほど細長い鼻が台湾海峡に伸びている。これは80万年前の大屯火山群の爆発によって作られた傑作だ。
台2号線23キロ地点にある麟山鼻レクリエーション・パークにやってきた。かたわらの小道に入って突き当りまで行くと麟山鼻漁港に着く。海に向かって右手には緑に覆われた麟山鼻遊歩道が見える。
この遊歩道では、浜辺でよく見られるオオハマボウ、クワズイモ、ゲットウ、ハマウドの台湾固有種、ギシギシ、ミフクラギ、シナマンネングサなどの植物が自生しているし、火山活動が残した火成岩が長年の波と風の浸食によって変化した「風稜石」も見られる。「風稜石は普通の岩と違って、大きな面をいくつも持ち、面と面の間に鋭い稜を成しているので、こう呼ばれます」と張瑞松さんが教えてくれた。視線を上げると、斜面に背の高いガジュマルが生え、その根が岩をがんじがらめにしている。自然のたくましい力には驚嘆するほかない。
港の向こうの砂浜はまた別の風景だ。左手に板張りの「風芝門サイクリングロード」があり、全長10キロ余り、三芝まで続いている。それでここの地名は「風芝門」だ。風芝門の辺りには、緑の植物に覆われた大きな藻礁が2カ所あり、この辺りの特殊な景観の一つとなっている。
藻類が死んで石灰化した礁体は1年にわずか1センチほどしか成長しないので、このように巨大な藻礁は貴重なものと言える。だが麟山鼻漁港の建設が周囲の生態系に影響を与えたのは確かなようだ。この辺りの岸辺に見えているいくつかの藻礁は、漁港建設によって露出するようになったと考えられる。
幸い、引き潮時にはさらに広範囲に藻礁が出現する。この自然遺産は毎年春になると、波間にみずみずしい緑を広げ、美しい光景を見せてくれる。この藻は食用にもなるアオサで、漢方薬の一種にもなる。「でも今の人は舌が肥えて、こうした海藻は生臭いと言って、あまり食べなくなりました」と張瑞松さんは言う。地元では昔はアオサを豚の餌にするためにも、わざわざ採集していたそうだ。
風芝門から三芝まで続く板張りのサイクリングロードは一見シンプルな浜辺の小道に見えるものの、実は周杰倫(ジェイ・チョウ)も気に入り、「言えない秘密(不能説的秘密)」のミュージックビデオのロケ地にしたことがある。サイクリストの間でも、台北への帰路でこの道を選べば長い上り坂を走らずにすむと口コミで伝わっている。自然の多いこの小道を楽しみながら、最後には台2号線に戻ることができるからだ。
不思議な形をした「風稜石」は火山と波と風の力によって形成された。