自転車文化を体験
台中にある中部サイエンスパークで働く人には共通の習慣がある。同パークの近くの「リス坂」という急な坂を朝の涼しいうちに自転車で走り、いったん帰宅してシャワーを浴びてから出勤すると心身ともに充実して働けるというのだ。坂でよく出会う人がいれば、自転車を止めて言葉を交わし、次は一緒にとサイクリングの約束もする。朝のサイクリングは趣味や健康法というだけでなく、人とふれあう新たな文化となっている。
翌朝6時、リス坂に行くとサイクルウェアに身を包んだ王怡文に出会った。「朝のサイクリングは1日を気持ち良く始められるし、同好の仲間と知り合えます」と言う彼女の案内で走った。路面の整備されたリス坂は、勾配やカーブの曲がり具合の難度は中程度だがスムーズなルートで、彼女と一緒に走ると面白さがよく実感できた。
早朝のサイクリングを終え、次に向かったのは自転車メーカー、ジャイアントの新本部ビルの横にある「自行車(自転車)文化探索館」だ。台中に来る前に我々は建築家の潘翼にインタビューしていた。彼によれば「探索館は最大の展示空間を生かすためにシェル構造を用い、屋根はジャイアントのロゴの形にしました」という。潘翼の作品は公共建築から企業ビルまで台湾各地に点在する。「デンマークのルイジアナ近代美術館の外にある、英国彫刻家ヘンリー・ムーアの作品がインスピレーションです。高低差のあるものを組み合わせた作品で、そこからジャイアント・ビルの高低の対比が生まれました。流動的なデザインは自転車文化からきており、流動的で自在な心を表しています」「外壁の色は厳選したブライトシルバーで、時間によって変化する陽光を反射し、自転車の躍動感を感じさせます」と語る。
「ジャイアントの創設者・劉金標が定年までに最もやりたかったのは、世界の自転車文化の進化を記録した場所を作ることでした」と、自行車文化探索館の最高執行責任者である汪家灝は言う。
自行車文化探索館の見所は多い。歴史、機能、製造技術、機械原理、材料、アートなど、自転車の各方面について展示され、再認識できる。
「自動車は速すぎ、徒歩は遅すぎるとすれば、自転車は真ん中。自動車はエンジンで、徒歩は足で進みますが、自転車は全身と大脳の協力で動きます」汪家灝は続ける。「共通認識を持つ人が増え、同様の行動様式を繰り返すとそこに文化が生まれますが、自転車も同じです。新たな乗り方に皆が楽しみを見出すと、そこに異なる層が生まれ、それが独特な文化となるのです」
出勤前の早朝のサイクリングでは、体を鍛えて集中力を高められるだけでなく、人間関係も広げられる。