
つぶらな瞳のヒガシメンフクロウは茶色の斑点のある翼を広げてさっそうと飛ぶが、保護の必要な猛禽類だ。(洪孝宇さん提供)
「わあ、すごくかわいい!」と思わず声が上がった。
農家が畑に設置した猛禽類用止まり木の上で、カタグロトビが頭をキョロキョロ動かしている様子をカメラが捉えていたのだ。ほかにも、2羽のカタグロトビが風に吹かれながら、止まり木をめぐって椅子取りゲームをしていた。ヒガシメンフクロウも、捕まえたネズミを止まり木に運んできて食べている様子が写っていた。
屏東科技大学(以下「屏科大」)鳥類生態研究室では2017年から止まり木設置による研究を進めている。これまでに台湾全土で猛禽類20種と猛禽類以外の鳥類70種をカメラに収めることに成功した。これは台湾にいる全鳥類のほぼ3分の1に当たり、田畑における生物の多様性がわかる。
だが、この世界初の止まり木撮影研究はただ台湾の鳥類に関する情報を集めることが目的ではない。それは林業保育署による猛禽類の生態保全支援給付と結びつけ、環境にやさしい農業を農家におこなってもらうことによって、絶滅の危機に瀕する猛禽類を守ろうというもので、これこそが最も重要な目的なのだ。

止まり木設置には三つの利点がある。一つは猛禽類が飛んできてネズミを捕ってくれること。二つ目は農家が自分の畑にどんな鳥が飛んでくるのかがわかること。三つ目は猛禽類分布範囲のデータが収集できることだ。
悲劇の真相
止まり木設置が始まる背後には、ある悲しい出来事が起こっていた。
「ミスター・イーグル」と呼ばれる高校教師の沈振中さんは30年余り前、生息地の激減で絶滅の危機にあるトビのことを心配していた。当時はトビがなぜ大量に姿を消したのか、誰にもわからなかった。原因がわかれば、保護の手掛かりとなるはずだった。
屏科大鳥類生態研究室が足環をつけて追跡調査を進めた結果、トビのほとんどが農地で命を落としていたことが判明した。
また解剖によれば、死因は内出血によるものだった。鳥類生態研究室の博士研究員である洪孝宇さんによれば、腐肉食の猛禽であるトビは動物の死骸を食べる。一方、農家はネズミによる被害を減らすために殺鼠剤や農薬のカルボフランを大量に使用するため、それを食べて死んだネズミをまたトビが食べ、トビにも農薬の害が及んでいるというわけだった。
トビは1980年代に大量に姿を消し、一時は台湾全土で200羽しか見られないこともあった。そんな中、対策をと声を上げたのが、沈振中さんと、その後継者で「イーグル・プリンセス」と呼ばれる林恵珊さんたちだった。その結果、動植物防疫検疫署は2015年から「全国ネズミ駆除週間」を廃止、続けて殺鼠剤への補助金も停止した。一方、企業ではトウモロコシの茎で作るエコな殺鼠剤が開発された。ネズミがそれを食べると腸に詰まって死んでしまうというものだ。また高濃度のカルボフランを含む農薬も2017年に禁止となり、やがてトビの数は徐々に増えていった。

カメラを備えた止まり木設置は世界でも類を見ない試みだ。電池が切れるかメモリーカードの容量が満杯になるまで、カード1枚に最大9000枚余りの画像が撮影できる。
発想の転換で田畑を生息地に
屏科大の博士課程で林恵珊さんの先輩になる洪孝宇さんは、博士課程1年目にこの研究と保護呼びかけに加わった。当初は非常に大きな抵抗に遭ったと彼は明かす。農家は洪さんたちを「農業をしない人間には鳥類やネズミの害の深刻さがわからない」と非難した。
従来の考えに縛られた農家にとって、農薬使用は当然一番簡単な解決方法なのだろう、と洪さんは考えたが、それでも必ず何か良い方法があると信じた。例えば、農業用機器で土中にタネを植え込めば、野鳥には食べられない。或いは温室や袋掛けを用いた栽培でも鳥害を減らせる。
やがて「農家ではやり方を変えてくれるようになり、しかも、農地というのは作物栽培をする所というだけでなく、生態保護の機能も持つと考えてくれるようになりました」と洪さんは言う。平地に生息する保護種のヒガシメンフクロウ、タイワンヤマネコ、「翡翠樹蛙」(アオガエルの仲間)はどれも農地に生息するし、センザンコウも低山に出没するなど、農地も山林も野生動物の大切な生息地なのだ。

果物農家の李淑萍さん(中央)は止まり木を設置し、カタグロトビやイソヒヨドリの撮影に成功し、その成果を客や知り合いにもシェアしている。
必ずより良い方法が
第一級保護類野生動物であり、台湾固有亜種のヒガシメンフクロウは、猛禽類では唯一、森林ではなく草むらに棲むのを好む。だが、神秘的な目をしたこのフクロウも、生息地の激減や殺鼠剤摂取による生存の危機に瀕している。
殺鼠剤を使わずにネズミを駆除するにはどうすればいいのだろうか。ある方法を提案したのが、屏科大鳥類生態研究室を冗談混じりに「鳥店」と呼ぶ「店主」の孫元勲教授だった。高所に止まりたがる猛禽類の習性を利用する。つまり田畑にぽつんと人工の止まり木を立て、猛禽類を誘い寄せてネズミを捕ってもらおうというわけだ。
だが当時まだ博士課程の学生だった洪さんは疑問を抱いた。農地には電信柱がたくさん立っているのに、人が立てた止まり木に鳥類がわざわざ止まりに来るだろうか。それに止まったとしてもネズミを捕るとは限らない。この答えは2017年の止まり木設置後に明らかとなる。
最初は畑の中に隠れて止まり木を観察したが、苦労の割に成果に乏しい。そこで洪さんは止まり木の上に自動撮影カメラを設置することを思いついた。海外の文献によれば、欧米ではたいていフクロウの巣箱を設置してネズミを捕らせていた。止まり木にカメラというのは世界でも類を見ない試みだ。
「この研究を始めるまで、私はヒガシメンフクロウを見たことがありませんでした。聞いたことがあるだけで、個体数は極めて少なく、どこにいるかもわからなかったのです」と言う洪さんにとって、このフクロウは神話上の動物に等しかった。だが間もなく、高屏渓の岸辺に設置した止まり木のカメラが、台湾語で「サル面鷹」の俗称を持つヒガシメンフクロウの姿を捉えた。

チガヤは畑に生えれば雑草として取り除かれてしまうが、実はヒガシメンフクロウのお気に入りの棲みかとなる。長く柔らかい葉が密集し、屋根のように風雨を防いでくれるため、フクロウにとっては茅葺き小屋のようなものだろう。(洪孝宇さん提供)
生態との共栄
この研究の成果は、2022年に農業部(農業省)林業保育署が打ち出した絶滅危惧種保護措置の焦点ともなった。農業部と生物多様性研究所は24の関係部門を集め、部門を超えた「ヒガシメンフクロウ保護連盟」を2022年に設立。さらに、絶滅の危機に瀕していたタイワンヤマネコとヒガシメンフクロウを、生態系保護費給付の対象にした。つまり、農家による生物生息地の保護を奨励するため、田畑や養魚池、民有林などで殺鼠剤や農薬を使用しない有機農業、或いは自然にやさしい農業をおこなう農家は、希少種保護奨励金を申請できるようにしたのだ。
例えば猛禽類の場合、栽培作物が止まり木より低い農家は、人工止まり木の設置申請ができ、これで3000元の設備維持費が受け取れる。作物の高さの条件には、サトウキビ、稲、カボチャ、レモン、グアバ、ドラゴンフルーツなどが含まれ、しかも猛禽類が撮影できれば、年に1万元の奨励金が出る。
当初、農家は猛禽類がやって来ることに懐疑的だった。だが、このプロジェクトの評価を委託された昕昌生態科研公司によれば、農家の約3分の2が撮影に成功しており、「くじに当たる」確率は極めて高いのだった。
屏東県隘寮の山のふもとでアボカドを有機栽培する李淑萍さんは、2024年9月に止まり木設置を申請すると、1ヵ月内にカタグロトビとイソヒヨドリの撮影に成功、近隣の農家でもコノハズクやカンムリワシが撮影された。
洪孝宇さんによれば、台東県池上郷ではズアオホオジロが撮影されている。これは台湾でこの鳥が目撃された2例目の記録であり、カメラが捉えたのは初めてだった。台湾に迷い込んだに違いないこの小鳥は、かつてフランスでは珍味としてグルメの食卓に上っていたことで有名だ。
止まり木設置は現在、嘉義、台南、屏東などのヒガシメンフクロウがよく出没する地域にも広がっており、生態系保護の考えを持つ人を増やすことが生息地拡大につながっている。ヒガシメンフクロウは固体数も「未知数」だったが、今や500羽近くの生息が把握されるようになった。
林恵珊さんは何年も前からスーパー「全聯」福利センターとの提携で、トビのためにエコ農業で栽培された、ブランド名「イーグル・アズキ」というアズキを全聯に並べている。消費者にも好評なことから、続いて台中市霧峰区の「カタグロトビ米」や、屏東の「フクロウ・パイナップル」も全聯に置かれるようになった。ほかにも「ヒガシメンフクロウ保護」認証の実施も計画中だ。今や猛禽類は農家のパートナーとなり、エコ農業は双方に利益をもたらしている。

屏科大鳥類生態研究室は2017年から止まり木を用いた研究を続けており、これまでに台湾全土で猛禽類以外の鳥類を70種撮影した。(洪孝宇さん提供)

止まり木で撮影されたカタグロトビがポーズをとっている。(洪孝宇さん提供)

写真は、片足で立つ、ハヤブサ科のチョウゲンボウ。(洪孝宇さん提供)

ヒガシメンフクロウは、台湾で唯一、森林ではなく草むらに棲むことを好む猛禽類だ。(洪孝宇さん提供)

屏東県高樹郷でコノハズクの保護に配慮した農業を進める農家と協力し、林恵珊さん(左)はブランド「フクロウ・パイナップル」をスーパー「全聯」で販売する。(林恵珊さん提供)