細くしなやかな竹は一年を通して生命力に満ちている。台湾の著名画家・藍蔭鼎の水彩画「千竿繞屋」には、竹に囲まれた田舎家の暮らしが描かれている。
台湾は竹が豊富で、伝統的な農業社会において竹は常に人々の暮らしとともにあった。科学技術の進歩によって、竹の応用もしだいに現代化し、今ではライフスタイルを象徴するもののひとつになっている。
夏になると旬を迎えるリョクチク(緑竹)のタケノコは、梨のような食感と繊細な甘みがあり、非常に人気がある。台北市木柵の老泉里はタケノコのコンクールの常勝軍でもある。老泉里の里長でタケノコ農家の周良富さんは、家族を連れて私たちを竹林に案内してくれた。周さんは腰に蚊取り線香をぶらさげて腕カバーをつけ、竹林へと入っていく。
タケノコは竹の地下茎から出てくる若い芽で、土から顔を出してから収穫するか、土の表面に出てくる前に収穫するかは、竹の種類によって異なる。マチク(麻竹)は土から芽を出してから収穫するが、リョクチクは土から出ると光合成の影響で苦みが出てしまうため、土の中にある状態で掘り出す必要がある。
周さんによると、竹は湿潤な環境を好み、土の表面に亀裂が入っているかどうか、土が湿っているかどうかで、タケノコの位置が分かるそうだ。タケノコのシーズンに竹林に入れば、地面からさまざまな情報を得ることができる。彼が手で土を軽く掘り起こすとタケノコが半分ほど姿を現す。それからスコップで牛の角のように曲がったタケノコ全体が見えるまで堀り、そうして鍬を振りおろせば収穫できる。こうして1本、2本と取っていき、20本ほどが収穫できた。
夏のリョクチクのタケノコは供給が間に合わないほど人気があり、新鮮なものほど高く売れると周さんは言う。このタケノコは皮がついたまま茹で、冷たくひやしてマヨネーズを添えれば、さっぱりしたサラダとなる。
竹の利用を研究する林業試験所利用組研究員の林裕仁。
竹は東洋のイメージ
竹はイネ科のタケ亜科に属する常緑性の植物で、世界に1000種以上ある。欧州を除く地域には自然に生息しているが、主に湿潤な熱帯地方に多く、8割がアジアに分布。中でも東南アジア、中国、日本、台湾に多い。なるほど竹は東洋のイメージを持たれているわけだ。
竹は叢生型と散生型に分けられる。生長は速く、1日で平均18センチも伸び、もっと速く伸びるものもある。芽を出してから3~5年で成熟した竹材としての利用が可能になる。また、土壌流失の低減に有効で、繁殖力が強く、古い竹を伐採することで新しい芽が増え、竹の品質も上がる。大多数の竹は生涯に一度だけ花をつけ、その後は枯死する。しかし地下茎が枯死することはなく、5~10年後に再び芽を出し、緑の竹林へと育っていくのである。
昔から竹は人々の衣食住に根付いてきた。竹は根も茎も、芽(タケノコ)も皮も枝も葉も使うことができる。タケノコは食用でき、竹皮は編み笠になり、葉はチマキを包む材料となる。竹の枝は箒や箸、竹トンボになるし、稈は竹笛や、家屋や神輿の建材となり、焼けば竹炭になる。竹は常に私たちの生活とともにあったのだ。
数えきれないほどの用途がある竹は、工芸品に加工できるだけでなく、柔らかいタケノコもさまざまな料理になる。
台湾の竹資源
竹類の専門家である呂錦明によると、台湾は気温も湿度も高く、降水量も豊富であることから、北から南まで、平地から高山まで、どこでも竹がよく育つ。標高3000メートルの合歓山にも、台湾固有種のヤダケの仲間、玉山矢竹(Yushania niitakayamensis)が生育している。
政府農業部の調査によると、台湾には89種を超える竹が生育しており、そのうち25種は原生種だ。農業部の資料によると、台湾で経済的に活用されているのは、マチク(麻竹)、モウソウチク(孟宗竹)、シチク(刺竹)、リョクチク(緑竹)、Bambusa dolichoclada(長枝竹)、そして台湾固有種のタイワンマダケ/ケイチク(桂竹)の6種だ。農業部林業試験所蓮華池研究センターは台湾で最も竹の研究に力を注いでいる機関で、主に竹の植栽密度や植栽距離など、竹林管理を研究している。
その研究員の曾聡堯はマチク林にタケノコの皮が散乱しているのを見て、「山でゴミをまき散らすのはイノシシで、タケノコが芽を出すとすぐに食べられてしまいます」と言う。その話によるとタケノコはイノシシの好物で、サルも食べに来ることがあるそうだ。
ヤダケの仲間のタイワンヤダケは樹陰に密生しており、玉山矢竹やホウタクセンチクは台湾の原生種である。曾聡堯によると、玉山矢竹は中央山脈の標高の高い地域に生育し、タイワンヤダケやホウタクセンチクは標高がやや低い山地に分布している。
ヤダケは稈が細くて強く、かつては原住民族がこれで狩猟用の矢を作り、そのタケノコも食用されてきた。陽明山のホウタクセンチクは自然保護区内に生育するため、陽明山国家公園管理処はタケノコの採集規則を定めている。
曾聡堯によると、竹材として利用するには3~4年生のものが良く、4年目以上のものは老竹とされる。そのため「三は残し、四は取り、七は残さない」というのが竹林経営の原則だという。定期的に枯竹や老竹を伐採していけば、竹林の活力を維持することができる。
1980年代以前、台湾の竹産業は今より盛んだった。「当時は、串焼き用の竹串や、タケノコを干したメンマが外貨を稼いできました」と呂錦明は言う。清の時代、台南には竹仔街、嘉義には竹椅街、鹿港には竹篾街などの市があった。
竹ボール
タケノコ文化
食物繊維が多く、低カロリーで栄養豊富なタケノコは、現在でもしばしば食卓に並ぶ。春分を過ぎると春雨の季節となり、「雨後の筍」と言われるように次々と芽を出す。清明節(春分から15日目)の前後にはヤダケ、続いてケイチク、轎槓竹(Phyllostachys lithophila)、リョクチク、烏殻緑竹、マチク、甜龍竹(Dendrocalamus brandisii)のタケノコが出回り、旧暦10月以降になると「冬筍」と呼ばれるモウソウチクのタケノコの季節となる。
「どのタケノコも食べられますが、上手に処理しなければおいしくなりません」と呂錦明は言う。流水に半日ほどさらしてから乾かし、袋に詰めて冷蔵しておけば、肉と炒めたり、スープに入れたりできる。
老泉社区発展協会理事長の周良銓はリョクチクタケノコの調理方法を教えてくれた。皮が付いたままのタケノコを鍋に入れて水をひたひたに注ぎ、強火で沸騰させてから弱火にして30分煮て、ふたをしたまま30分蒸らす。それを冷ませばタケノコのサラダにでき、さらに冷蔵保存することもできる。
台湾には豊富なタケノコ料理がある。曾聡堯によると、台湾ではタケノコは野菜とされ、干物にしたり、漬け込んだり、マチクの葉で竹葉青酒を作ったり、チマキを包んだりする。また原住民族はケイチクの稈に米を詰めて竹筒飯を作る。米が竹の香りを吸収し、旨味が際立つ。
蓮華池研究センターの職員食堂の料理人はさまざまなタケノコを用いて料理を作る。リョクチクのタケノコは茹でて冷やせば甘みのあるサラダになり、マチクのタケノコはスペアリブと一緒にスープにする。このほかに、魯肉飯などにはタケノコと高菜の炒め物が添えられ、最近になって栽培されるようになった甜龍竹のタケノコはキクラゲや豚肉とともに炒める。春節や祝い事には豚バラの塊肉とメンマの煮物が出され、竹山名産のタケノコ入り卵焼きも人気がある。
消費者のニーズに応えて、タケノコ農家二代目の李星辰さんは防腐剤を使わない真空加工技術を開発した。パックを開ければそのまま食べられるリョクチクのタケノコのブランド「日茂竹筍」を打ち立てて、北米の中華系市場に向けて輸出している。
「冬筍」は量が少ないため、経済的価値が最も高い。南投県の竹山や鹿谷は冬筍の産地として知られており、台湾でも数少ないタケノコ専用市場が設けられている。中でも鹿谷のタケノコ市場は冬筍のために設けられており、その人気ぶりがわかるというものだ。
竹山鎮は台湾でも竹産業が最も盛んな地域であり、竹林に覆われていることから竹山鎮と名付けられたほどだ。竹細工の職人も多く、この地域特有のタケノコ文化が育まれてきた。
旧正月にはどの家庭でも海の幸、山の幸のご馳走が並ぶが、竹山では「山の幸」と言えば冬筍である。「竹山では、冬筍の煮物や冬筍魷魚蒜(冬筍とスルメイカと葉ニンニクのスープ)がなければ年越しになりません」と話すのは林業試験所森林利用組研究員で竹山出身の林裕仁だ。また、竹山の各家庭で作られる「醤筍」はマチクのタケノコを一口大に切り、塩と豆麹と甘草などで漬けこんだもので、まったく繊維質を感じさせないほど柔らかく、ご飯のお供になる。
タケノコ農家の周良富さん。夏に旬を迎えるリョクチクのタケノコは梨のように柔らかくて甘みがあると語る。
竹の新たな使いみち
時代が進み科学技術が発達するにつれ、竹の利用方法も変わってきた。林裕仁の研究室には、竹編み細工や竹製の玩具、竹炭、バイオ燃料用の竹のペレットなど、伝統的なものから現代的なものまでさまざまな製品が並んでいる。
竹産業の指導を行なっている林裕仁によると、台湾のケイチクは、よくしなり折れにくいのが特徴だ。日本ではこれを竹刀の素材として愛用しており、南投県の宏達公司と竹育公司が台湾でも竹刀の加工をしている。老舗の宏達公司は桃園県復興郷のタイワンマダケ(ケイチクの一種)加工の高い技術を持ち、世界的にも重要な竹刀製造業者とされている。
竹の経済価値は加工によって高まる。高温で焼成した竹炭には導電性があって電磁波を低減でき、その微細な孔によって空気を浄化する機能も持つ。さらに竹炭の遠赤外線効果は血液循環を改善し、装飾品にもなる。
近年は世界的に二酸化炭素排出削減やネットゼロが提唱されており、そうした中で竹を利用した循環経済が注目されるようになった。林裕仁によると、一般の樹木は造林から20年を一期とするが、竹は3~5年で成熟した竹材として経済的に利用できるようになる。また竹が二酸化炭素を吸収して固定する量は樹木の3~4倍に達するため、カーボンシンク(二酸化炭素吸収源)として非常に高い機能を持つ。そこで政府は企業に対し、竹林経営に資金を提供するよう奨励しており、これによって竹産業を活性化し、造林と産業の良好な循環を促そうとしている。
「ただ、竹の使用量を増やすためには、大量の竹材を使う建築に頼らなければなりません」と林裕仁は言う。
竹かご
竹建築
台湾では、建築士の甘銘源と李緑枝が最も早くから竹建築の現代化によるサステナビリティの実践に取り組んできた。
「かつては台湾のヒノキ材を好んで用い、さらにベトナムやアメリカからヒノキを輸入していましたが、ヒノキは生長して建材として使えるようになるまで数百年もかかり、しかも環太平洋地域にしか生育しないので、資源はすぐに使い切ってしまいます。その後、建材のサプライチェーンの背後には深刻な環境破壊があることに気付き、地元の建材を探すようになったのです」と甘銘源は語る。そこで、4年で成熟した建材になる竹を使うようになったのである。
2011年、甘銘源と李緑枝は台湾で初めて竹建築の研究に取り組み始めた。「台風と地震の多い台湾では、建物に安全性が求められ、多方面を考慮しなければなりません」と言う。彼らは同好の士とともに「台湾竹会」を結成して竹資源の使用を推進し始めた。そして竹材の応用を産官学で共同研究することで、防カビ、防虫のほかに、割れを防止し、耐久性を高められる高温乾燥処理方法などを見出した。
竹建築の現代化においては、構造に変化を持たせ、竹材を曲げる技術が必要不可欠となる。また竹材同士をつなぐには縄を用いた縛り接合、ほぞ穴を使った差し込みなど、さまざまな方法があるが、甘銘源らは大型の竹建築に有効なジョイントシステムを開発した。そして、竹材と接合に関する知識をまとめて出版し、自然資源の利用を呼びかけている。
台南市にある長栄大学の長栄堂と、桃園市大湳森林公園の竹構造アートである弦竹亭は、銅で保護した竹構造の屋根を持ち、人々はその下で自由に過ごすことができる。こうして人と竹、人と環境との対話も開かれている。
「木造家屋との違いは、竹の家には野性味があることです」と甘銘源は言う。竹建築には頻繁なメンテナンスが必要だが、自然の材質が人々に与える経験は素晴らしいもので、大きな価値があると言える。
素朴な竹材は、自然回帰という夢を実現してくれる。サステナビリティを目指す道において、竹とともにある暮らしは無限の可能性を秘めていると言えるだろう。
メンマを加えた豚の角煮。
バランス竹トンボ
竹は加工を経ることで経済的価値が高まり、高温で焼成した竹炭は日常生活に用いることができる。
竹林の土表の亀裂や土の湿り具合から、タケノコがある場所を特定することができる。
台北市木柵老泉里では、市民が教育やレジャーのためにタケノコ掘りに来ることを歓迎している。
甜龍筍とキクラゲの炒め物。
マヨネーズをかけたタケノコのサラダ。
ケイチクのタケノコと高菜の古漬けの煮物。
竹建築は美しいだけでなく、サステナブル建築としての価値も持つ。