
レストラン「慕名私房料理」は巧みに野草を用い、食材に対するお客の既成概念や味覚にチャレンジしている。
アミ族は「草食の民族」とも呼ばれ、一人が食べるために採る野草の量は、3台の草刈り機にも勝ると言われている。アミ族の野草文化には昔からの食の知恵が詰まっているだけでなく、低炭素、サステナビリティ、生物多様性といった現代的な意義も持つ。花蓮・台東の市場や観光夜市、レストランなどを訪れれば、野草に出会え、この土地ならではの味を楽しむことができる。
「你好(Nga'ay ho)」――花蓮県原住民野菜(野草)学校の呉雪月校長が、我々取材班を率いて花蓮で朝市が開かれる重慶市場を案内してくれた。彼女は民族の言葉で店の人に挨拶しておしゃべりし、振り返って私たちに「私の母は90歳なんですが、こちらの『ベテラン美少女』は隣村の出身なので、母を知っているのです」と言う。店先にはさまざまな野菜や果物が並ぶ。一般に毛筆菜と呼ばれるアシ(蘆葦花)、棍棒のようなトウの芯(籐心)、赤や緑のナンバンカラスウリ(木虌果)だと教えてくれる。
花蓮の市場では、他の地域では見られない野生のカタツムリも手に入る。店の人によると自分でカジノキの下で採ってきたカタツムリで、カジノキの葉を食べるカタツムリはさっぱりした味わいだと言う。重慶市場には店舗が売る食材をその場で調理してくれるサービスもある。野生のカタツムリをバジルやショウガ、米酒とともに炒めると、酒の肴になる。「お酒は2杯じゃ足りませんよ。3~4杯は飲まないと」と店の人は笑う。

夕方に開かれる吉安市場には野草を扱う店がある。花蓮の市場の大きな特色だ。
野草を食べるアミ族の日常
これらは花蓮に行ったらぜひ食べてみたい食材で、特に「野菜(野草のこと)」はこの土地ならではのものである。
「幼い頃からお年寄りに言われていたのは、野外で何も食べるものがない時は、植物の柔らかい芽を取り、舌の先で舐めてみて、ピリピリしなければ食べられるということです」と呉雪月は言う。彼女は、私が信じられないという表情をしているのを見て「自然の中で育った青菜や草、あるいは放置した畑で育った野草は、すべて『野菜』と呼ぶのです」と説明してくれた。
1995年、花蓮師範学院で教官をしていた呉雪月は、これらの食べられる野草に関する系統だったフィールドワークと採集を開始した。そうして著した『台湾新野菜主義』は2023年の現在すでに20刷を重ね、アミ語版と英語版が出ている。ローカルの栄養のある食材を食べたいと思う人が増えたため、この本が売れ続けているのだろうと呉雪月は考えている。
野草というと、台湾では原住民族の人口が最も多い花東縦谷や東海岸、そして恒春半島などのアミ族が思い浮かぶ。呉雪月によると、アミ族はこれら「野草」を最も上手に食べたり利用したりする民族だという。アミ族は母系社会で、かつて祖母や母親は屋外で畑仕事をし、ついでに野生の植物を採って帰ってきたそうだ。
「私は幼い頃から鍋物を食べていて、アミ族の有名な『十菜一湯』は、10種類の野草を煮た鍋料理です。野草は私たちの日常なのです」と呉雪月は言う。アミ族の食卓には一皿のショウガと一皿のトウガラシ、そして3種の野草スープが並ぶ。さらに豪勢にしたい時はイヌホオズキとカタツムリのスープが加わる。またトウの芯とナンバンカラスウリの葉に塩漬けの豚肉を加えるとさらにおいしいスープができる。

花蓮の東大門観光夜市には原住民一条街があり、漢字の名も表示された野草を注文して料理してもらうことができる。
原住民の採集権を取り戻す
アミの人々は誰もが「秘密基地」を持っている。「私たちアミ族は野生の植物を採り、食べることができます。アミ族のいる場所の青い草はすべて食べられてしまうのです。海岸沿いに暮らすアミ族は潮間帯の貝類や海藻、水草も見逃しませんよ」と呉雪月は言う。
呉雪月は、総統府の第1~3期原住民族歴史的正義・移行期正義委員を務めていた時、『原住民族依生活習俗採取森林産物規則(原住民が生活習慣により森林物産を採取することに関する規則)』の改正を提案し、2019年に成立した。これにより原住民の野草の採集権は緩和され、集落の伝統的な領域や国有・公有林地において野草を採取することができるようになった。この改正の重点は「副産物を自ら用いる場合は申請する必要はない」とする点で、これにより原住民の野草文化が守られることとなったのである。
「ただし、私たちは野草を根こそぎ抜いてしまうことはしませんから、植物は再び生長します。これはサステナビリティの概念に合致します」と呉雪月は言う。2020年12月、花蓮県の徐榛蔚県長(知事)は、花蓮県美崙山公園の傍らにある空間に「原住民族野菜学校」を設立することを提案した。花蓮と原住民の伝統食文化を代表する特色を、不定期の展覧会や手作り教室などを通して多くの人に知ってもらおうという考えだ。

台湾で初めて系統立った野草のフィールドワークと採集を行なった呉雪月は「野草のゴッドマザー」と呼ばれている。
低炭素、生物多様性
イタリアのスローフード協会の活動は世界的な運動へと広がっている。その運動が現在最も強調しているのは、生物多様性プロジェクトを通して絶滅の危機に瀕した食材と人類の食の伝統を守ることだ。この目標はアミ族の野草文化と期せずして一致する。
「野草は生物多様性を示しています」と呉雪月は言う。例えばポリネシア系の国々ではシカクマメやキマメを食べる。また彼女はパリやイタリアのファーマーズマーケットで、アミ族もよく食べるアカナスやフィドルヘッド(こごみ)を目にした。苦みと粘り気のあるこごみは、下茹ですれば苦みがとれ、それから炒めるとおいしい。
「世界中の先住民の食文化の中に、スローフード運動の手がかりが見つかるのです」と言う。例えば、現地で採れる旬の食材を食べることだ。その季節に、その土地で採れるものは新鮮で栄養価も高く、輸送の距離も短く済むので二酸化炭素排出量も減らせるのである。
かつて野草は飢饉の時に食べるもの、あるいは栄養不足の原因とされていたが、もともと自生している植物なので生命力が非常に強く、日増しに深刻になる極端気象現象や食料危機においても、気候の逆境に強く、気温を調節する作用も持つ。例えばイシクラゲは日照りの時は乾ききっているが、雨が降るとすぐに生き返る。

でんぷん質の含有量が高いクズウコン。昔、原住民の人々は母乳の不足を補うためにこれを乳児に与えた。
野草の調理で金メダル
花蓮県は2021年からスローフードフォーラムを開催し始め、世界初の「原住民族スローフードシェフ連盟」を設立、原住民のスローフード理念を推進し始めた。
この連盟のメンバーで、2023年のスローフード博覧会のイメージキャラクターを務めた「慕名私房料理」のシェフ胡志強(Sera Kahengangay)は、今年ニュージーランドで開かれたオセアニア国際マスターシェフ・チャレンジという大会の異国料理部門で金メダルを勝ち取った。「優勝したと知った時、涙がこみ上げました。花蓮のアミ族の代表的料理である『阿里鳳凰』や『刺葱龍蝦球』などが国際的に評価されたことに感動したのです」と言う。
「阿里鳳凰」はアミ語でAlivong-vongと言う。海岸でよく見られるアダンという植物の葉を編んで四角い容器を作り、そこに米を入れて蒸し、狩猟や農作業に出かける時に弁当として携行するものだ。容器の形に編むのに時間と手間がかかるため、愛情弁当とも呼ばれる。
胡志強によると「慕名私房料理」は集落の日常の食事、おふくろの味を出すレストランを目指している。例えば、ゲットウ(月桃)の根をショウガの代わりに使って豚足を煮る料理は母方の祖母から教えてもらった。また、魚を焼くときにレモングラスを用いるのは祖父の方法だ。魚の腹にレモングラスと塩を詰めて焼くと、レモンの風味がするという。
胡志強は野草を巧みに用い、お客の食に対する既成概念や味覚にチャレンジする。例えばゲットウ、カラスザンショウ、アオモジ、シナモンの仲間の伊苜子(Cinnamomum insularimontanum)などの実を使ってゲットウオリーブオイルやカラスザンショウのドレッシングなどを作り、サラダや前菜の調味料にしている。伊苜子というのは馴染みのない植物だが、レモンとショウガに似た香りがあるクスノキ科の果実である。また、アミ族のワサビと呼ばれる「細葉砕米薺」はタネツケバナの仲間(Cardamine flexousa)で、11月から翌年2~3月に生長する。ラッキョウのような辛味はないが、刺身や塩漬け豚肉に合わせるとさっぱりとしておいしい。
また、青パパイヤ、カボチャ、タロイモ、アマランサスを煮た野草スープは風味が豊かだ。
これほど多くの大自然とつながった野草があるのだから、花蓮や台東を訪れた際には、ぜひ地元の市場を訪ねてみたい。これまでのイメージを超えた味覚を発見できることだろう。

「恋人の涙」とも呼ばれるイシクラゲは卵焼きに入れるとおいしい。

野草レストランでよく用いられるイシクラゲは、今では栽培もされている。

黄籐と呼ばれるトウは棘が多いので処理が大変だが、その芯とスペアリブを煮たスープは多くのレストランで供されている。

オオタニワタリを食べる人が増えてきたため、栽培する人も増えた。

アイディア豊富な「慕名私房料理」のシェフ胡志強(Sera Kahengangay)は、2023年にニュージーランドで開催されたオセアニア国際マスターシェフ・チャレンジで金メダルに輝いた。

車輪茄または輪胎苦瓜と呼ばれるアカナスは、下ゆですると渋みや苦みがとれ、焼いたり揚げたりすることでおいしくなる。

魚の腹にレモングラスを詰めて焼くと、身にかすかなレモンの香りが移る。

Alivongvongは、パンダナス属アダンの葉を四角い器状に編み、米を入れて蒸したものだ。

レストラン慕名私房料理の野草スープ。味わい深いアミ族ならではの料理である。