野草の調理で金メダル
花蓮県は2021年からスローフードフォーラムを開催し始め、世界初の「原住民族スローフードシェフ連盟」を設立、原住民のスローフード理念を推進し始めた。
この連盟のメンバーで、2023年のスローフード博覧会のイメージキャラクターを務めた「慕名私房料理」のシェフ胡志強(Sera Kahengangay)は、今年ニュージーランドで開かれたオセアニア国際マスターシェフ・チャレンジという大会の異国料理部門で金メダルを勝ち取った。「優勝したと知った時、涙がこみ上げました。花蓮のアミ族の代表的料理である『阿里鳳凰』や『刺葱龍蝦球』などが国際的に評価されたことに感動したのです」と言う。
「阿里鳳凰」はアミ語でAlivong-vongと言う。海岸でよく見られるアダンという植物の葉を編んで四角い容器を作り、そこに米を入れて蒸し、狩猟や農作業に出かける時に弁当として携行するものだ。容器の形に編むのに時間と手間がかかるため、愛情弁当とも呼ばれる。
胡志強によると「慕名私房料理」は集落の日常の食事、おふくろの味を出すレストランを目指している。例えば、ゲットウ(月桃)の根をショウガの代わりに使って豚足を煮る料理は母方の祖母から教えてもらった。また、魚を焼くときにレモングラスを用いるのは祖父の方法だ。魚の腹にレモングラスと塩を詰めて焼くと、レモンの風味がするという。
胡志強は野草を巧みに用い、お客の食に対する既成概念や味覚にチャレンジする。例えばゲットウ、カラスザンショウ、アオモジ、シナモンの仲間の伊苜子(Cinnamomum insularimontanum)などの実を使ってゲットウオリーブオイルやカラスザンショウのドレッシングなどを作り、サラダや前菜の調味料にしている。伊苜子というのは馴染みのない植物だが、レモンとショウガに似た香りがあるクスノキ科の果実である。また、アミ族のワサビと呼ばれる「細葉砕米薺」はタネツケバナの仲間(Cardamine flexousa)で、11月から翌年2~3月に生長する。ラッキョウのような辛味はないが、刺身や塩漬け豚肉に合わせるとさっぱりとしておいしい。
また、青パパイヤ、カボチャ、タロイモ、アマランサスを煮た野草スープは風味が豊かだ。
これほど多くの大自然とつながった野草があるのだから、花蓮や台東を訪れた際には、ぜひ地元の市場を訪ねてみたい。これまでのイメージを超えた味覚を発見できることだろう。
「恋人の涙」とも呼ばれるイシクラゲは卵焼きに入れるとおいしい。
野草レストランでよく用いられるイシクラゲは、今では栽培もされている。
黄籐と呼ばれるトウは棘が多いので処理が大変だが、その芯とスペアリブを煮たスープは多くのレストランで供されている。
オオタニワタリを食べる人が増えてきたため、栽培する人も増えた。
アイディア豊富な「慕名私房料理」のシェフ胡志強(Sera Kahengangay)は、2023年にニュージーランドで開催されたオセアニア国際マスターシェフ・チャレンジで金メダルに輝いた。
車輪茄または輪胎苦瓜と呼ばれるアカナスは、下ゆですると渋みや苦みがとれ、焼いたり揚げたりすることでおいしくなる。
魚の腹にレモングラスを詰めて焼くと、身にかすかなレモンの香りが移る。
Alivongvongは、パンダナス属アダンの葉を四角い器状に編み、米を入れて蒸したものだ。
レストラン慕名私房料理の野草スープ。味わい深いアミ族ならではの料理である。