熱帯に生まれ、台湾に根を下ろす
台湾の人々に人気の「艶麗」も同じような過程を経て誕生した。
新竹市に位置するレストラン「艶麗」の中に入るには、様々な植栽に囲まれた長い廊下を歩かなければならない。そして2階のベランダいっぱいに植えられたパンダンリーフが熱帯を訪れたような気分にさせてくれる。
「艶麗」の前身は東南アジアの雑貨を取り扱う店だった。中国系インドネシア人の姚燕麗さんは台湾の男性と結婚し、30数年前、客家の人が多く住む村で小さな店を始めた。店では東南アジアの日用品や食品だけでなく、自家製スイーツも販売していて、顧客のほとんどは彼女と同じように台湾人の夫を持つ東南アジアの女性たちだった。
「故郷のものが食べたい」というのが姚さんの最大の動機で、故郷の味を再現するために彼女は奮闘した。里帰りをするたびに100キロ近い材料を台湾に持ち帰り、何年もかけて試作と調整を続け、時に人に教えを乞うて腕を磨き、ついにレシピを完成させた。
その後、姚さんが店を閉めることにした時、母親手作りの菓子を食べて育った娘の李依庭さんは「もうこれであのお菓子は食べられなくなってしまうの?」と思い、自らのファミリー・ヒストリーと台湾の食生活や食材を融合させたブランドを立ち上げたのだ。
「艶麗」のニョニャクエは本場のものとはやや異なり、基本的に台湾産の原材料を使用しているほか、甘さを大幅に控え、人工着色料や合成香料など添加物を一切使用していない。また食感も台湾人好みに調整し、ツブツブの食感がはっきりわかるような小豆やタロ芋を入れたり、季節に合わせてゴマ、客家の擂茶、キンモクセイ、大湖産のイチゴなど台湾ならではの食材を使っている。
「地元の味」を融合した「艶麗」のニョニャクエは「本場の味」を標榜することはできないが、だからこそ東南アジアからやって来て、努力して台湾社会に溶け込んでいった「新移民家庭の味」の代表となっているのだ。東南アジアからやって来たこのスイーツは台湾で広く受け入れられる新しい味として定着しつつある。
李依庭さん(左)と姚燕麗さん(右)は、食べ物で「新移民家庭の物語」を紡ぐ。