
台湾北海岸の自然景観をつなぐ新北市の萬金石マラソンは「山海マラソン」と呼ぶことができる。(王惟莎提供)
マラソンコースは人々の夢を実現する。都市や地方の風景、食事やレジャーも楽しめる。台湾で、都会の風景や壮麗な山河、田園の風光の中を自由に走れば、忘れがたい思い出となることだろう。
朝日が昇ると、山や海、都会や町の道にランナーが繰り出してゴールを目指す。ロードレースやマラソンは競技であるだけでなく、町を結ぶ素晴らしい旅でもある。

棲蘭林道でのトレイルランニングでは、普段は入ることのできない宜蘭の森林の秘境を走り、世界レベルの棲蘭山のヒノキ林の美を体験できる。(中華民国ウルトラランナーズ協会提供)
年に500回のレース
台湾では毎年500回ほどの大小のロードレースが開催されている。
台湾人はいつ頃からこれほど走ることが好きになったのだろう。中華民国ロードランニング協会秘書長の陳華恒によると、1990年代、著名な陸上選手の紀政がニューヨークやベルリンなどの世界的なマラソン大会に出場したことで、ランニングをしながら風景を楽しむ人が増え始めたということだ。この流れを推進したいと考えた彼女は、同好の人々とともに中華民国ロードランニング協会を設立したのである。
同協会は1993年に設立され、台北マラソンの国際化に力を注いできた。2002年、行政院体育委員会(現在の教育部体育署)は「運動人口倍増計画」を打ち出して国民スポーツを提唱し始めた。こうして、コストがかからず参加者の多いロードレースが盛んになっていったのである。

朝日を浴びながら名勝・日月潭の湖畔を走る。日月潭一周マラソンがランナーに人気があるのもうなずける。(中華運動生活協会提供)
台湾――ロードレースの旅
マラソンコースは景観の美しい地域に設けられることが多く、旅の一つの方法として世界的に盛んになっている。また世界六大マラソンの完走メダルを手にすることは多くのランナーの夢だ。マラソンは己への挑戦であり、走ることを通して友人ができ、飲食も楽しめ、さらに応援団からの声援もある。台湾でのロードレースは、この四つを一度に満足させることができる。日本の著名なイラストレーター、高木直子は著書『海外マラソンRunRun旅(台湾版タイトル「一個人出国到処跑」)』の中で、台北マラソンに出場した時の感想を、台湾の応援団は可愛い!と述べている。
太平洋西岸にある台湾は、高山や丘陵、平野、盆地、離島、海岸など、地形が変化に富んでいる。さらに亜熱帯気候で四季があるため、自然景観も豊富で、一度は訪れる価値がある。
台湾のロードレースの多くは9月から3月に集中しているが、寒暖にかかわらず、毎月行われており、パラオやバチカンなどにも大会開催の経験を伝えて協力している。
ロードレースのテーマも実にさまざまだ。都市マラソン、タウンマラソンの他に、温泉や花、地域の特産品をテーマとしたものや、酸素の薄い高山でのマラソン、女性だけのレース、美食をテーマとしたレースもある。離島をつないで走るレースもあれば、礁渓や四重渓の温泉、それに原住民集落をテーマとするものもある。
さらに超高層ビルの階段を上る台北101垂直マラソンは、91階まで2036段の階段を高さ390メートルまで駆け上がるレースで、下と上とでは気温差が3度になる。また太魯閣峡谷マラソンでは、世界レベルの美しい峡谷を走る。
大自然の中を走るトレイルランニングもある。棲蘭林道のウルトラトレイルでは宜蘭県の森林の秘境、棲蘭山のヒノキ林の中を走る。鎮西堡100キロレースは尖石郷集落や鎮西堡の神木群の間を走る。標高800メートルから1600メートルの険しい山道を上り下りするコースだ。

金門マラソンではフロッグマン(戦闘潜水員)も一緒に走る。
公認大会と台湾風の応援
陳華恒によると、近年、台湾のロードレースの質は高まり、すでに多くの大会が国際標準に達している。成績が国際的な公認記録となる大会もある。例えば、萬金石マラソンは陸上競技の国際競技連盟であるWA(ワールドアスレティックス)のゴールドラベルの公認大会で、台北マラソンはWAのエリートラベル認証を取得している。
AIMS(国際マラソン・ディスタンスレース協会)によるコースの公式計測に合格しているのは、スタンダードチャータード台北チャリティマラソン、台新女子マラソン、高雄富邦マラソン、日月潭マラソン、曾文ダムマラソン、エバエアー観光マラソンなどがある。
もう一つ、台湾で走るべき理由としては、マラソン大会の参加費が、世界六大マラソンなどに比べて安いことも挙げられるだろう。
完走メダルのコレクションに熱中するランナーもいるので、台湾の大会ではメダルのデザインにも力を注いでいる。また、レース後のタオルの無料提供や、途中の補給品、完走者用のプレゼントや弁当なども地域の特色があふれていてよい思い出になることだろう。
ロードレースの参加者は1万人に達することもある。台湾の大会はサステナビリティを重視しており、参加申し込みから完走証明まで電子化されている。台北マラソン、萬金石マラソン、台湾米倉田中マラソンなどは、いずれも国際組織によるカーボンフットプリントの審査も経ており、最も環境にやさしいロードレースとなっている。
ロードレースに参加する旅に興味をお持ちになっただろうか。ここで『光華』が台湾のマラソンコースを詳しくご案内しよう。

かつての戦地の雰囲気を感じることができる金門マラソンは特別な経験になるだろう。
ゴールドラベル――萬金石の山海マラソン
新北市が開催する萬金石マラソンは2003年に始まり、2023年にWAのゴールドラベルを取得した。毎年3月の第三日曜日に開催されている。10キロコースとフルマラソンがあり、参加申込者が多いため、抽選が行われ、実際に参加できる当選確率は3~5割となっている。
コースは台湾北海岸の観光資源をつなぐ。新北市の萬里、金山、石門を通り、それぞれの文化や地形、海岸の景観の美しさなどで知られている。10キロコースは、萬里の野柳地質公園を通る。ここのランドマークである奇岩の「女王頭」は世界的な観光スポットで、が萬金石マラソンのロゴとなっている。
完走を遂げた喜びは、この地域の名物であるチマキとともに噛みしめてはいかがだろう。レースの後は、萬里でシーフードを堪能し、金山で温泉につかり、古い町並みや朱銘美術館を訪れたり、石門老梅で台湾唯一の石槽の特殊な景観を楽しむのもいいだろう。
1986年に始まった台北マラソンは、台湾では最も歴史のあるシティマラソンで、2021年にWAのエリートラベルの認証を受けている。フルマラソンとハーフマラソンがあり、参加抽選の当選確率は5割ほどだ。

高雄富邦マラソンのフルマラソンのゴールは、ワールドゲームズのメインスタジアムとなった国家体育館に設けられている。(外交部資料写真)
歴史と現代を感じる台北マラソン
コースは台北の都市部を一周する形になっている。台北市体育局の黄泓嘉によると、市街地の道路は通常は車や人が激しく行き交っているが、レースの期間中はすべて通行禁止となり、車もバイクもバスも別のルートを迂回するため、交通規制が最大の試練となる。
台北マラソンは台北市の最も美しい緑陰道路である仁愛路や中山北路を走る。沿線には総統府や四大古城門など、24のランドマークがあり、ユニバーシアード競技大会のメイン会場だった台北陸上競技場がフルマラソンのゴールとなる。この大会に合わせ、多くの国の旅行会社が大会参加と観光を兼ねたツアーを組んでいる。台北マラソンに参加すれば台北を一周することができる。

風光明媚な北海岸を走る萬金石マラソン。レースの後は現地の有名な観光スポットである野柳の女王頭を観賞するのもいい。(新北市体育処提供)
港湾都市の風情を味わう高雄富邦マラソン
高雄富邦マラソンは2010年に始まった南台湾で最も注目されるレースである。フルマラソン、ハーフマラソンと、3.5キロコースがある。フルマラソンのコースの半分は高雄を象徴する愛河沿いの緑陰を走る。最大の見どころは、通常は入ることが禁止されている海軍左営基地の中を通るところだろう。
沿線には高雄美術館広場、高雄鉄路緑園道、高雄流行音楽センター、中央公園などがあり、著名な建築家・伊東豊雄が設計した国家体育場がフルマラソンのゴールとなる。
大会後は港湾都市高雄を巡ろう。西子湾で夕日を眺め、旗津で海鮮料理を食べ、駁二芸術特区や夢時代でショッピングを楽しむのもいい。伝統的な信仰を感じさせる蓮池潭風景区や瑞豊夜市を歩くのもお勧めだ。

台北101では、91階まで2046段の階段を駆け上がるレースが行なわれる。垂直の高度差は390メートルに達し、海外からも多くのランナーが参加する。(台北101提供)
戦地を感じる金門マラソン
金門と隣の中国アモイとの距離は引き潮の時はわずか1800メートルで、かつては重要な戦略的拠点だった。2008年に始まった金門マラソンの魅力は、戦地だった当時の雰囲気が残っていることと金門コーリャン酒である。2022年には新たに開通した金門跨海大橋もコースに加わった。
金門マラソンは初回からAIMSのコース認証を得ており、フルマラソン、ハーフマラソンと10.3キロ、4キロのコースがあり、ネットでの参加申込が始まるとすぐに定員に達する。
金門県副県長の李文良によると、金門マラソンのコースには豊かな自然や戦地特有の景観、歴史を感じさせる雰囲気などがあり、大会期間中は小型戦術車両が先導車となり、中型戦術車両が最後尾を走る。さらに、戦闘潜水員の部隊が一緒に走り、思い出深いレースとなることだろう。
レース後は金門コーリャン酒や特産の貢糖を買ったり、閩南式の古い民家やバロック建築の洋館、戦場跡地、歴史文物などを見て回ることができる。自転車での旅を計画するのもよい。

台北マラソンのゴールで、台北市はマッサージのサービスも提供している。(台北市体育局提供)
最も歴史の長い曾文ダムマラソン
台南市が開催する曾文ダムマラソンは台湾で最も長い歴史を持ち、40回目を迎える。曾文ダムは台湾一の貯水量を誇る巨大なダムで、山や湖の景色が堪能できる。落差は200メートル、沿線の曾文之眼や展望台、ダムの天端など、景観を存分に楽しめるコースとなっている。レースの後は遊覧船に乗って鷹を見ることもできるし、自転車でダム湖を巡ることもできる。
昔から「万巻の書を読むは万里の路を行くに如かず」と言われる。走ることは足元に世界を感じることでもある。ランニングを通して宝島・台湾の風光を体験し、マラソンに参加して多くの歓声と喝采を浴びていただきたい。

台北マラソンは、台北の古城門で国定古跡の「北門」を通る。(台北市体育局提供)

萬金石マラソンのトロフィーは、新北市萬里のランドマークである女王頭の形をデザインしたものだ。(新北市体育処提供)

台湾のマラソンの完走メダルはデザインも美しく、コレクションの価値がある。

台北マラソンの完走メダルには、ランナー自身の記録が入れられるようになっている。

日頃は自動車が行き交う市街地を走る台北マラソン。大会期間中は車両の通行が禁止になり、ランナーにとっても得難い経験となる。(台北市体育局提供)