台南のバーの萌芽期
台湾のバーの発展は、1950年代、台湾とアメリカの防衛協力から始まる。台湾に駐留するアメリカ兵が、カクテルを出すアメリカ式のバー文化を持ち込んだのである。
しかし、当時は都市部と地方のリソースや情報に格差があり、台南でバーが発展したのは、かなり後のことだった。中でも重要なのは「Bar TCRC前科累累倶楽部」を開いた黄奕翔である。
彼がこの業界に入ったのは、2005年にバーでアルバイトを始めたのがきっかけだった。当時のバーは煙草の煙が充満していて、複雑な背景の人々が出入りしていた。器具も質が良くなく、カクテルの知識も不十分だったという。
しかし、彼はこの業界で働きたいと思った。カクテルに興味があったことに加え、「王霊安先生の『一瓶都別留』の内容にあこがれたからです」と言う。この本には飲酒に関する思いや、バーテンダーとして見聞きしてきたさまざまな人生が書かれている。
自分の店を持ちたいと思っていた彼は、2008年に兵役を終えて友人とともにBar TCRCを開いた。それまで台南にもクラブやスポーツバーやミュージックバーはあったが、Bar TCRCは上質なカクテルを提供する初めての本格的バーとなった。
現在、TCRCは古い家屋を再利用した店として知られているが、黄奕翔によると、当初は家賃が安いからという理由で選んだ場所だった。それがたまたま台南で始まった古い家屋のリノベーションブームに乗ることとなり、おかげでバーの知名度も高まったのである。
創業から15年、時代の変化に合わせてTCRCの空間と経営方式も少なからず変化した。2012年には「火災予防自治常例」に従って入店人数を制限し、店舗も後ろの古い家屋まで拡張した。また早くも2013年に禁煙措置を採った。
2011年、黄奕翔はバーテンダーの世界大会であるWORLD CLASS台湾大会で第5位に入り、TCRCは2016年と2018年に「アジアのベストバー50」に選ばれた。2018年にはベテランバーテンダーの蔡懐之と、同じく台南「蜷尾家」の李豫が協力し、グレンフィディック・ワールド・モスト・エクスペリメンタル・バーテンダー・コンペティション2018で世界チャンピオンに輝いた。この輝かしいタイトルによって店の知名度が高まり、カクテルに力を注いできたTCRCの実績も証明された。
SNSの時代となり、昨今はTCRCはなかなか予約の取れない台南の人気店となっている。
バーのある街
台南にバーが増え、TCRCやMoonrockなどが「アジアのベストバー50」に選ばれるようになり、TCRCや「酣呷餐酒館」のバーテンダーが、世界大会であるWORLD CLASS台湾大会でも入選した。台湾のバーテンダー業界での「台南グループ」の存在感が増してきたのである。
それに加え、台南市も観光やバー産業を重視している。台南の黄偉哲市長は、2022年のWORLD CLASS台湾大会チャンピオンで「酣呷餐酒館」創業者の余瀚為を表彰し、市は「台南餐酒カーニバル」を開催した。さらに飲食を台南観光の重点として打ち出し、酒造メーカーや代理店とバーのマッチングも進めている。
コロナ禍で飲食業の内需が高まり、さまざまな要因が重なって、ここ5年ほど台南のバーは大きく成長した。業者によると台南には100~200軒のカクテルバーがあり、その多くが観光客が集まる中西エリアに集中しているちという。
特別なのは、台南のバーは店から店へ徒歩で移動できるため、少なからぬ観光客が独自の「はしごルート」で台南を体験していることだ。
若い世代から「先生」と呼ばれる王霊安は、バービジネスに携わって40年になり、台湾のカクテルバーの発展に大きく貢献してきた。