貢寮山間の棚田
人と自然とが共存、さらには共栄していく方法を見出すことがエコロジカル‧ネットワークの重点だ。だが驚くべきことに、このような未来の理想が実は昔からの文化の中に刻まれているのである。新北市貢寮の棚田を訪れると、その道理がよくわかる。
双渓が流れる谷の壁面に緑の棚田が一段一段と重なっている。この田んぼは貴重かつ脆弱な存在だ。長年にわたってこの地域で活動してきた人禾環境倫理発展基金会の保全処長である薛博聞によると、棚田はその特殊な構造から人が足で踏むことは少なく、大型の農機具を使うこともできない。また灌漑系統も独立していて、農家が自ら育種していることが多いため、生態系として閉鎖状態にある。「こうしたことから、これまでスクミリンゴガイの被害を受けたことはなく、希少で分布範囲の限られた生物種が多数生息しているのです」と言う。
一年中、水を張っている棚田には、ヒメシロアサザや、オオバコ科の毛沢番椒(Deinostema adenocaulon)、畦にはミミカキグサやナリヤランが生え、水の中にはチュウゴクメダカがいるし、キイトトンボやカニクイマングースの姿も見られる。これらはいずれも絶滅の危機に瀕したデリケートな生物種で、俗世から隔絶された桃源郷のような環境が、多くの動植物の残りわずかな生息地となっていることがわかる。
こうした繊細で脆弱な生態系を守るために、エコロジカル‧ネットワーク‧プログラムが始まる前から、林務局は人禾基金会や理念を同じくする地域住民と連絡を取り、彼らを通して農家を説得し、環境にやさしい農業を行なうことで、生物の生息環境を守ろうとしてきた。
だが、農村人口の高齢化と減少が進み、山間では多くの田畑が放置されている。人禾基金会開発マネージャーの郭俊麟は、道路の反対側の山の斜面を指さし、「向こう側もかつてはすべて棚田でした」と言う。だが、棚田の手入れをする人がいなくなり、しだいに自然に覆われて、すでに草木が生い茂り、森林が再生されている。