技を磨く
かつての天日干しでは生産量と品質が重要だった。上等の塩の基準は、塩化ナトリウムの純度が90%以上、水分7%以下、不純物3%以下のものとされている。だが文化的にとらえた場合は価値も多様化する。そこで洲南塩場では、「塩の風味」重視を選んだ。
鹹水の濃度を調整することで、塩に含まれるミネラルの多さを変えて、さまざまな風味の塩が出来上がる。例えば、海水中の鉄はボーメ度5~10で沈殿、硫酸カルシウム二水和物はボーメ度10~20度で結晶になり、ボーメ度28~29になるとマグネシウムの含有量が多くなる。ミネラルは塩の味に変化をもたらす。カルシウムはやや甘みのある渋み、マグネシウムはわずかな苦み、鉄とカリウムはわずかな酸味があるので、調理の際にこの微妙な差を利用し、適した食材を選べば、豊かな味の料理が作れる、と蔡حR>ەは言う。
異なる風味を出すために、蔡炅樵は熟練の塩田作業員から、彼らの腕に刻まれた技を学んできた。「水地風光人日塩」の実現は簡単ではなく、やはり人の技がものをいう。蔡炅樵は毎回の生産過程で、実験のように温度、湿度、雨量などを記録し、それらを自分のものにしようと努める。
現在、洲南塩場は、台中のスイーツ店「宮原眼科」と提携し、塩の花を用いたチョコレートやクッキーなど三つの商品を製作、また台湾森永製菓とのコラボでは塩キャラメルも発売中だ。ほかにも、「子午水(端午節の子と牛の刻に取る水)」は厄除けになるという古くからの言い伝えを応用し、端午節の正午に採れた塩の花を「子午塩」として売り出した。
嬉しそうに蔡炅樵が取り出したのは、今年6月8日午後に採れたという塩の花だ。この結晶を採る際、蒸発池で結晶体がきらきらと反射し、とても美しい模様を描いていた。それでこれを「夏日午後三時」と名付けた。どこかのレストランとのコラボで、特色あるメニューが生み出せれば、と考えている。
白いシャツに黒いジャケットと赤いブーツ。洲南塩田ではセイタカシギの姿も見られる。