後ろ姿を追いかけて
宋家豪の雄姿は、台湾の多くの選手のあこがれだが、もっと若い世代も日本で頑張っている。中学卒業と同時に日本に渡った選手たちだ。埼玉西武ライオンズに所属する呉念庭もその一人だ。彼は岡山県の共生高校を出た。かつて阪神タイガースに所属した蕭一傑は宮崎県日南学園の出身だ。また、私たちが訪問した福岡第一高校は陽岱鋼の母校だ。陽岱鋼は高校卒業後、北海道日本ハムファイターズに入団し、今はセントラルリーグの読売ジャイアンツでプレーしている。
藍懐謙と陳昶亨は桃園県出身で、中学を出ると監督の推薦で福岡第一高校に進学した。
二人は真っ黒に日焼けしている。幼い頃から野球に人生を賭け、自分の道を歩んできたからか、同世代の若者より大人びて見える。
野球留学生の生活は決して楽ではない。毎日午後3時までの授業の後は、夜8~9時過ぎまでひたすら練習である。週末には他校との交流試合があり、1日2回の交流試合で違う選手を相手に経験を積むことができる。来日してもうすぐ3年になるが、休みは1日もなかったそうだ。しかし彼らは文句も言わず、ただ日本でプロ野球選手になることだけを夢見ている。
幼いころから野球をしてきた二人は、日本と台湾の高校での練習の違いをこう語る。「日本では基礎訓練をしっかり行ないます。長時間走り込み、基本的な動作を練習し、皆で同じ動作のトレーニングを行います。台湾では守備ポジションによって練習メニューが違います」
陳昶亨によると、日本のチームメイトのプレーはやや慎重かつ保守的だが、決して諦めずに全力で一球一球を取りに行く姿勢は、台湾の選手も学ぶべきだと語る。
台湾と日本とでは、練習方法が違うため試合の雰囲気も違ってくる。「台湾では勝敗を重視し、勝つために監督の戦術に従わせます。しかし日本の監督は、交流試合では自由に力を発揮させてくれ、選手は試合から経験を積むことができ、プレーを楽しむことができます」と藍懐謙は言う。
日本のチームメイトとの違いを聞くと、藍懐謙はこう話してくれた。「比較すると、僕たちの方が臨機応変に動けて、楽しみ方や点の取り方を知っているように思います」
台湾と日本の両方で野球をしてきた二人は、両方の良いところを吸収することができる。チームでの練習のほかに、二人は自分たちで練習の動画を撮って分析したり、自主的に筋トレもやっている。監督も彼らの考えを理解し、尊重してくれるそうだ。
二人ともすでに3年生で、野球を続けるための進学を考えている。将来はと問うと「とにかく頑張ってプロ野球選手になります」と言った。
藍懐謙(左)と陳昶亨(右)は幼くして野球の道を行く決意をし、一歩ずつ着実に歩んでいる。