焚火を囲んで歌を歌う
英士集落を訪れる人は、温泉を楽しめるだけでなく、英士コミュニティ発展協会が主催する半日・一日のツアーにも参加できる。
「私たちはエコツーリズムを目指しています。山と川に親しみ、私たちが大自然といかに共生し、それを守ってきたかを知ってもらい、さらに私たちの文化にも触れてもらいたいと思っています」と鍾岩宏は言う。
焚火小屋の中で、鍾岩宏は「ima lalu su?」という歓迎の歌を歌ってくれる。「お名前は?」という意味だ。これはタイヤルの人々が、他の集落へ行ったときに問いかける言葉で、年配の人が、相手の若者が同民族であるかどうかを確認する方法である。タイヤル族の名前は、自分の名前のうしろに父親の名前をつけるという方法で命名されるので、名前を聞けば、どの家の子供で、どの流域の人かわかるのである。
竹で建てた焚火小屋は、集落の年配者が若者とともに建てた知恵の結晶である。集落の人々は、小屋に虫やカビがつかないように毎日ここへ火をおこしに来て乾燥を保つ。火は集落の暮らしの重要な要素である。黄天金によると、昔は人々が今より分散して生活していたので、どこかで煙が上がっていたら、その家の人は無事に食事の支度をしていることがわかったのである。もし何日も煙が見えなければ、心配して訪ねて行った。火は生活に必要なだけでなく、互いに無事を知らせる合図でもあったのだ。
こうして少しタイヤルの暮らしに触れた後、参加者はハンターの弁当を作る。馬告(山胡椒)で香り付けした豚肉、魚の塩漬け、野菜、糯米などを、ゆでた月桃(ゲットウ)の葉で包んだもので、山へ狩りに行く男性のために家族が作る愛情弁当である。参加者は、この弁当を持ち、集落の人の案内で川をさかのぼって芃芃温泉へ行ったり、あるいは横岐漾(hn-kiyan)古道――日本統治時代の警備道路を訪ねることもできる。
シルクスクリーンや織物工芸を体験することもできる。集落に伝わるタイヤルの織物や、イノシシやムササビをプリントした可愛らしいバッグや絵葉書を作ることができる。
英士コミュニティ発展協会では、集落の焚火小屋を使ってタイヤルの文化を紹介している。