赫茲博物館の多様な可能性
創立7年の目目文創は常に「いま記録するサウンドは未来の歴史になり得る」との理想を掲げ、サウンドスケープのデータバンクや、台南サウンドスケープを巡るツアールートを作ってきた。そしてそれら資料を整理し、台南サウンドスケープを紹介する『声存指南』を出版した。「生存」と同音の「声存」をコンセプトに、水、火、食、避難所、野営術、気候‧地形の6カテゴリーに分け、歴史的建造物やB級グルメ、消えゆく川といった台南のサウンドスケープが紹介されており、これらの場所を再認識できる一冊だ。
大自然のサウンドスケープは生態保護など国際的な共通点を持つが、文化的サウンドスケープにはその地方の特殊性がある。だからこそ文化的サウンドスケープは世界に台湾を知ってもらう手段となり得る。海外の展覧会によく招かれる目目文創は台南人のもてなし好きや茶の文化を日本や香港にも伝えている。
サウンドスケープという概念を広めるため、楊欽栄は藍晒図文創園区(ブループリント‧カルチャー&クリエイティブ‧パーク)の工房に「赫茲博物館(ヘルツ博物館)」を作った。館内にはテーブル上の食器を動かすと料理の音が聞こえる装置などがあり、またその場で自分の思いを録音したカードを作成したり、目目文創が集めた海外のサウンドスケープも聞けるなど、11坪の小さな空間で世界を聞くことができる。同博物館は2020年に台湾の金点設計賞(ゴールデン‧ピン‧デザイン‧アワード)を受賞、2021年のドイツiFデザイン賞でも最終審査に残った。
目目文創設立当時はいつまで続くか考えもしなかったが、やればやるほどその魅力や他ジャンルとのコラボの可能性が見えてきたと、楊欽栄は笑う。彼によれば、サウンドは町の話す言葉だ。どんな町もサウンドスケープで再発見できる。旅に聴覚を加えれば、体験はさらに深まるだろう。
鷲嶺古地にある北極殿は都会の喧騒を離れ、山頂にいるような静けさを感じさせる。
土地銀行台南支店の吹き抜け空間は、まるでスピーカーボックスのような効果を発揮し、そこに立つと音の生命力が感じられる。
台南市中西区にある清水寺の前の地下を枋渓が流れている。川は目に見えないが、音を通してそれを感じることができる。