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羽ばたくベニサンショウクイ
台湾を訪れたなら、バードウォッチングに行くことをお勧めしたい。それは台湾の大自然との出会いでもある。忍耐強く鳥が姿を現わすのを待ち、鳥の声が聞こえたら、望遠鏡を取り出してその姿を観賞する。そして鳥と目が合った瞬間の、生き物との出会いの数秒間は、決して忘れることのない大切な時間となることだろう。
中華鳥会が2023年に発表した台湾鳥類名録によると、台湾の鳥類の種類は686種、32種が台湾固有種、52種が固有亜種に認定されている。固有種が生まれたのは、氷河期の後に台湾が地理的に隔絶され、独自の進化を経たからである。また、台湾は東アジアの渡りの重要な位置にあり、さまざまな方面から渡り鳥がやってくる。
翼を広げたアオバト。
日帰りバードウォッチングツアー
午前5時半、鳥類外国語ガイドの洪貫捷は、カナダから来たロビンさんとポーラさん夫妻をホテルに迎えに行った。夫妻はビジネスで台湾を訪れた合間に、日帰りのバードウォッチングツアーを予約したのである。目的地は大雪山エリア、目標は台湾固有種を見ることだ。
車が大雪山の林道に入ると、洪貫捷は車の窓を開けて鳥の声に耳を傾け、目当ての鳥の声を確認すると一行は車を降りる。徒歩でわずかな距離を歩き、林道の4キロ地点にある木浪渓の側へ来ると、洪貫捷は鳥の声をたよりに、その鳥の習性を判断し、すぐにその姿を見つける。そして望遠鏡を向ければ、鳥を観賞できるのである。
洪貫捷は高みを指差す。小さい身体で天下を見下ろすように梢にとまっている鳥もいれば、葉蔭に隠れて姿を見せようとしない鳥もいる。この場所で私たちは、シロガシラ、クロエリヒタキを含む24種の鳥と出会い、ミナミメジロの群れと、幸運にも固有種のヒメマルハシを目にすることもできた。
さらに車で11キロ地点まで進むとベニサンショウクイの姿が見え、15キロ地点ではヤマガラ、19キロ地点ではバードウォッチャーからドラえもんの愛称で呼ばれるズアカエナガにも出会うことができた。さらに標高の高い地点では、サンケイのつがい、ミミジロチメドリ、タイワンノドジロガビチョウを見ることもできた。
目にした鳥によって、洪貫捷は特別な説明を加える。例えばメジロチメドリはブヌンの人々の間ではSiliqと呼ばれ、ブヌン文化では占いの鳥とされる。また標高の低いところでもよく見られるクロヒヨドリは台湾の固有亜種で、ブヌンの伝説では火を運んでくるとされる。
47キロ地点ではニイタカキクイタダキ、50キロ地点ではヒガラと、藪の中にかくれてなかなか姿を見せないムシクイの仲間にも出会えた。その後は雨が強くなり、空も暗くなったが、チャバラオオルリに姿を確認でき、この日の素晴らしい締めくくりとなった。
バードウォッチングは台湾の大自然との出会いでもある。
バードウォッチングの日程
洪貫捷は師範大学生命科学科の修士で、台湾では数少ない鳥類生態専門のガイド、この仕事を始めて10年以上になる。2015年、彼はアメリカの著名なバードウォッチャーであるノア・ストリッカーとともに台湾の鳥類観察を行なった。外国から訪れるバードウォッチャーの要求は「外国に来たのですから、その土地の固有種を見ることです。外国に来てまでスズメを見たいという人はいないでしょう」と笑う。台湾でのバードウォッチングは1日から12日までのスケジュールが組め、重点は台湾の固有種と固有亜種を見ることだ。
日数が長い場合は、次のような行程が可能となる。まず台北に1泊し、陽明山で標高の高くないエリアの固有種であるヤマムスメやルリチョウ、ズクロミゾゴイ、テッケイなどを観察する。続いて車で中部の山地へ移動し、数日をかけて大雪山、合歓山、玉山、阿里山などを少しずつ登っていけば、多くの固有種と出会える。阿里山ではコバネヒタキを見る機会が多い。千元札に印刷されたミカドキジは大雪山で見かけることは少なく、塔塔加まで行く必要がある。
洪貫捷が勧めるのは、長さ50キロにわたる大雪山林道で、ここは「固有種の宝庫」とされる。「天気が良ければ、大雪山で1日に20種の固有種を見ることができます。台湾の固有種は全部で32種なんですよ」と言う。この後は、台湾東部の太魯閣国家公園か南部の墾丁へ移動する。東海岸だけで見られる固有種のクロガシラが観察でき、さらに離島へ行けば蘭嶼で蘭嶼角鴞(コノハズクの仲間)が見られ、冬なら台湾西南沿岸で越冬するクロツラヘラサギも見逃せない。5月に訪れたなら、雲林県林内の湖本村でヤイロチョウが観察できる。ここはヤイロチョウの夏の重要な繁殖地なのである。
クロエリヒタキ(呂翊維撮影)
台湾の優位性
洪貫捷は40歳ほどの顧客に不満を言われたことがある。「台湾に来るのが早すぎたことを後悔している」と言われたのだそうだ。もちろん、これは台湾でのバードウォッチング環境が快適すぎると褒めているのである。
台湾はインフラが整っており、道路も整備されているので、3000メートルを超える高山でも、バードウォッチングのために山の中を歩く必要はない。例えば大雪山林道は道路の状態が良く、道端で鳥を観察することができるため、藪の中に入ってヒルなどに襲われる心配もないし、マラリアやデング熱、ダニを心配する必要もない。これは海外からのビジネス客や高齢者にも非常にやさしい環境だ。パンデミックが終わって国境が開放され、台湾は現在60余ヶ国に対してビザ免除を実施しているので、来訪するのも便利である。
「台湾は狭く、50キロの道のりで標高300メートルから2500メートルまで移動できます。短時間でさまざまな生息地を訪れることができるのです」と、洪貫捷は欧米からの旅行者がアジアでバードウォッチングをするには、台湾が最も良い選択肢になるだろうと語る。
もちろん、バードウォッチングには縁や運もあり、洪貫捷は「鳥が見られなくても返金はしない」と笑う。取材の当日は雷雨に追われ続けたが、当日のeBirdの記録を見ると、54種類の鳥と出会え、そのうち15種は固有種だった。「もし今日の天気が良ければ、タイワンシジュウカラやマルハシなども見られたでしょう。さらに運が良ければ、50キロ地点でアリサンチメドリやシマドリなども見られたかもしれません」と洪貫捷は言う。それでもロビンさんは、これほど多くの鳥に出会えるとは思っておらず「ファンタスティック」と声を上げ、ポーラさんは、たった一ヶ所でこれほど多くの鳥に出会えたことは、素晴らしい経験だと語った。
山地へ足を運ぶのではなく、台北やその近郊でもバードウォッチングはできる。陽明山の前山公園や台北植物園、大安森林公園、国父記念館、中正記念堂、台湾大学、関渡自然公園などの緑地を訪れればさまざまな鳥を観賞できる。
eBirdとMerlinなどのアプリを使えばオンラインで鳥に関する情報を調べられ、さらに所在地周辺でしばしば見られる鳥や季節による出現率といった情報も得られる。
都市部でのバードウォッチング
早朝6時、私たちは中華鳥会の呂翊維秘書長と台北植物園で待ち合わせをした。彼の話によると、台北植物園の植物は密集していて多層を成しており、池もあり、環境が多元的であるため、比較的多様な鳥が観察できるという。
まずは鳥の声に耳を傾ける。「私たちは、鳥の声をsongとcallに分けます。簡単に分けると、songは異性を引き寄せ、なわばりを主張するもので、callの方は多様な形式と状況があり、連絡や警戒、威嚇、餌を求めるなどの意味があります」と言う。しばらくすると、今度は平地でよく見られるクロヒヨドリが猫のように「ミャー」と長い声で鳴くのが聞こえる。姿を探してみると、全身真っ黒でくちばしが赤く、頭の毛が逆立ったクロヒヨドリがいた。「ホイ、ホイ、ホイ」という3音節の声が聞こえると、呂翊維はすぐにクロエリヒタキの声だと判断する。その小さな鳥は鬱蒼とした林の中に身を隠すのを好み、声は聞こえても姿は見えないことが多い。見ることができれば、その青い色の美しさに感動するだろう。また、背景音になり続けている「グ、グ、グ、グ」という声は、ゴシキドリだと言う。ゴシキドリも密集した林の中を好み、陽明山に多く生息する。ただ繁殖期の4~8月になると、その声は山全体の背景音となるほど多く聞かれる。夏はこれにセミの声が加わる。「鳥の声を聴きとれるようになってから、海外に行ってバードウォッチングをすると、これが『台湾の音』であることに気付くことでしょう」と言う。
その後、私たちは樹林の中で若いタイワンオオタカが獲物を捕らえようとする姿を見たが、一回目は失敗に終わり、呂翊維は「まだまだ若いんですよ」と言って笑う。林の下の方には、人を怖がらずに歩きまわるズクロミゾゴイがいる。見ていると、目の前の地面に向けて頭を下げて餌を探し、瞬時にくちばしでミミズをとらえた。欧米のバードウォッチャーが必ず見たいと思う鳥だそうだ。池に目を向けると、バンが悠然と泳いでいて、傍らではシロハラクイナが雛を連れて池の端の植物の間で餌を探している。タイワンオナガは見張り番のように枝にとまっていて、じっくりとその姿を観察することができる。歩道では数人が息を凝らしてカメラを構え、樹上のミナミメジロの巣に焦点を当て、親鳥が雛を育てる姿をとらえようとしている。
呂翊維の解説を聞くと、植物園の鳥はどれも非常に愛らしいことがわかる。だが鳥類専門のガイドがいない場合は、eBirdとMerlinという鳥類識別アプリが参考になると呂翊維は推薦する。eBirdは世界最大のバードウォッチング記録データバンクとプラットフォームで、世界のどこでも自分が観察した野生の鳥類を記録できる。中国語版のeBird Taiwanは2015年にアップされ、現在台湾で5800人が利用、すでに82万件が記録されている。eBirdはバードウォッチャーの記録のツールであるだけでなく、Merlinと組み合わせて使うと、その種類の鳥に関する情報も得られ、その場所に現れやすい鳥の種類や季節による出現率の違いなども調べられる。
台湾の美を感じる
新型コロナウイルスの流行が収束して、国境が開かれると、世界中のバードウォッチャーも自由に行き来するようになった。中華鳥会では、昨年末にチェコの鳥類協会のZdenek Vermouzekディレクターを接待し、台湾で新年に行なわれるバード・カウンティング・カーニバルに参加した。Vermouzek氏は家族を連れて台湾を訪れ、台南や大雪山、太魯閣などでバードウォッチングをし、その旅行記を中華鳥会の季刊誌『飛羽』に寄稿した。台湾の固有種に触れた話の他に、台湾の自然の豊かさと多様性を称賛し、また常に多くの人が非常にフレンドリーに接してくれたことにも言及した。
氏はその中で「Birds really connect people across continents(鳥類は常に各大陸の人々をつないでくれる)」と述べており、まさにその通りである。自由な鳥は多くの人をひきつけ、鳥を媒介に人と人、国と国とをつなぐ。バードウォッチングは互いの国を訪れるきっかけにもなる。バードウォッチングには忍耐力が必要だ。山林に入り、トレイルを歩き、山の自然の壮麗さを体験できる。これも皆さんに知っていただきたい台湾のもう一つの姿なのである。
外国人をバードウォッチングに案内する洪貫捷。台湾の特色は短時間の間にさまざまな生息地を訪れて多様な鳥類を観察できることだと言う。
大雪山で見られる夏の渡り鳥、ミヤマビタキ。森の中の枝葉が少ない場所や電線に好んでとまる。
呂翊維に案内されて台北植物園を歩けば、数々の愛らしい鳥に出会える。
シロハラクイナ
台北植物園は植物環境が多元的で、多様な鳥が集まってくる。(バン)
タイワンオオタカは人々の暮らしと最も距離が近い猛禽類の一つだ。
台湾でのバードウォッチングは大自然との出会いであり、山林の壮大な美を体験できる。
台湾はバードウォッチャーが多く、都市部の公園などでも足を止めて鳥を観察する人をよく見る。